73話
「ヒーリング」
血濡れた顔。ウサイトは目を逸らさなかった。
「よかった・・」
手から発せられた白い光はモントドールを包み込んだ。包み込んでくれた。もし対象者が死んでしまったいる場合にはこうはならない。弾かれてしまう。モントドールは生きている。
「はっ、」
「隊長!」
驚いたように突然にまぶたを開け、立ち上がろうとするモントドールを押さえた。
「隊長、あきらめましょう」
思いを打ち明ける。
「隊長・・」
溢れ出る大粒の涙。
「ウサイト君・・」
「絶対勝てません、あんな怪物、だから、だったら、ひとりきりで死にたくないんです。死ぬなら隊長と一緒に死にたい、だからここで私と一緒に死んでほしいんです」
「まだ諦め」
「でも!もし、駄目だったら、」
「絶対大丈夫!大丈夫だ、ウサイト君」
「嫌なんです!このままじゃ私と隊長は離れ離れで死んでしまいます、だから!だったらここで、手をつなぎながら一緒に死ねば、一緒に天国に行けるかもしれないじゃないですか!だから!」
ポン。
置かれた手。
ウサイトの頭に優しく置かれた手。
秘めた思い。ずっと閉じ込めていた。
思い。
分かっていた。死ぬと分かっていてここに来た。分かっていたからここに来た。
女神のお告げ、モントドールはたとえ誰もいなくとも、たったひとりでも迷わずこの地へ向かうだろう、それは分かっていた。知っていた。死ぬときにたったひとりなんてモントドールには相応しくない。
死ぬときでもモントドールの横には笑顔があるべきだ。
だから秘めた。最後まで明るく楽しくしようと心を閉じ込めた。
だから来た。たったひとりで死なすわけにはいかない。
溢れだした秘めた思い。
大きくて温かい。
子供をあやす父親の手だった。
いつもと変わらぬ笑顔だった。
優しくて暖かい。
この世界に自分と、自分の大好きな人しかいない。そんな感覚。
「ケイタ君」
現実はそうじゃない。
そこには大勢がいる。モントドールが見つめているのはウサイトだが、声をかけたのは、その先にいる黒部 圭太。さらにその奥には大勢のオーク、そしてあの突然変異種もいる。
神様の予言で言っていた仲間というのはのは彼に違いないと隊長が確信している人物。
隊長が声をかけたのは彼だった。とても理解できない選択だった。
「シリアスなところ悪いんだがな、なんか沢山集まってきたぞ」
争いは争いを呼ぶ。もはやオークだけではない。様々な種族がどこからともなく集まり、モンスター同士が戦い始めるなど辺りはカオスな状態になっていた。
「逃げてくれ」
「隊長・・」
初めて聞くモントドールの後ろ向きな言葉。
「どうした、諦めたか」
「そうじゃない、諦めてない」
「だったら」
「私が全員燃やす!」
「意味が解らん」
「ケイタ君とナズナ君は、ウサイト君を連れて逃げてくれ」
ザバッ!
そこではまたしても勇者VS突然変異種オーク。
薺が闘牛士のように突然変異のオークの突進を躱しながら斬り付けるというさっきと同じ光景。
時間を稼いでくれていた。
スピードが違う。薺は一撃も貰っていない。巨体を生かした攻撃も、炎の尾も、爆発も、すべてを躱している。
だがオークの体の頑丈さも凄い。斬られてはいる。だが致命傷には遠い。強靭な体は刃の侵入を阻む。なんども攻撃を受けているはずだが動きに衰えが見られない。恐ろしいほどタフだ。
「お前じゃ無理だろ」
「命を燃やす」
「隊長!」
「加護は命を削って威力を上げれるんだ!だから、頼む!ケイタ君!」
「馬鹿だな」
「馬鹿じゃない、仲間だ」
笑った。
「会話になってないぞ」
「いいんだ!仲間だから」
笑っていた。
心配もいらないと笑っていた。
「誰も死なせない。アイツを倒してまたみんなで帰ろう!」
モントドールは笑顔だった。




