72話 -蛇-
ドゴ!
「ぐぇ、」
突然変異種のタックルをもろに喰らって吹っ飛ばされた。そのまま勢い余ってぶっとい木に叩きつけられた。
ミシミシミシ、、
「痛てぇ、、クソ、いけるかと思ったのに」
バタン!
木が倒れた。
自分の体がとんでもなく頑丈になっていることを実感する。交通事故並の衝突を受けても骨折のような大けがはない、ただ背中が痺れるように痛いだけだ。
突進してきたオークに右フックを合わせようとしたが間に合わなかった。無防備なまま重戦車のタックルを喰らってしまった。
ザパ!
いた、薺。
木の間から遠くで戦う姿を見つけた。相手は突然変異種。
薺の剣は相変わらず鋭い。いや、むしろ鋭さを増している気がする。突然変異種のタックルにも薺はマタドールのようにヒラリ、と華麗に躱していた。
炎はあっという間に小さくなっていた。そうか・・・あの豚。もしかしたら炎の中でも見えているのかもしれない。
薺の戦いぶりを見ているうちに頭が回り始めた。
疑問だった。なぜ視界が遮られた炎から突然の攻撃を受けたのか。
アイツは炎の中でも見えている。
そう仮定すると俺のいる場所を正確に判断してタックルを仕掛けることが出来た理由が納得できる。炎に特化した能力だから無くはないかもしれない。
つまりあの爆発は攻撃であると同時に煙幕でもある。そう考えておいた方がいいだろう。一度成功しているからもう一回来るかもしれない。心の準備ができていれば違う、今度こそ当ててやる。
さて、あいつは・・・戦闘の中心部へと駆け戻る。
「炎ゲージ!!」
無事だった。
モントドールの左手から伸びる炎の鎖。相手を捕縛し自由を奪う。薺との先頭に集中していた突然変異種のオークへの攻撃。やはりあいつを止めない事にはどうしようもないという判断だ。
「バボオオ!!」
その雄叫びに周囲のオークたちは一斉に薺へと突進した。明らかにターゲットを切り替えた。攻撃の当たる気配の無い薺を諦めたのか。
背後からの攻撃に突然変異種オークの炎の尾が伸びる。その先にはモントドール。そして尾は相手に絡みつき焼き殺すための蛇。
鎖 VS 蛇
発想は同じ、炎も同じ。だが、威力が違う。炎の鎖は蛇に飲み込まれていく。
「炎ドルフィン!!」
迫りくる蛇から逃れようと足の裏から炎を噴出しての緊急脱出。
「ゴボオ!」
それはオークジェネラルの勝利を確信した叫び。
予測していたのか、高速移動するモントドールの軌道の先へと移動し、背後から斧で斬りかかった。
「炎ドルフィン!!」
斧を間一髪で躱す。
一瞬だけ落ちたスピード。蛇は見逃さなかった。
たちまちモントドールに絡みつく。縛り燃やす。だがモンドドールには高度の炎耐性がある。無意味、そう思った。
蛇は急速に縮んだ。蛇は主人の元へと獲物を持ち走った。考えての事なのか本能なのかはわからない。だが突然変異種は炎で焼こうなどとは考えてはいなかった。
待っていた。
獲物を持って帰ってくるのを待っていた。
ダッ!
大きく飛び上がった。
3つの顔に残虐な笑み。
重力を加算し、体重を加算し、全力で踏みつけた。
「隊長ーーーーーーー!!!」
ウサイトの叫び。
当初からウサイトは戦闘には参加しない作戦。戦闘能力が低すぎるからだ。わざわざ死ぬ必要はない、それは皆の総意だった。
だが、足を止め叫んでいた。
そうせざるを得なかった。意思を越え言葉が飛び出てしまった。
「ゴボオボボーーーー!!」
悪手。
モントドールへの追撃を押さえることはできた。
だがウサイト自身にとっては悪手。
この場にいる敵で最も強いモンスターの気を引いてしまった。
ドドドドドドドドド!
突進。
ただの突進、だがSランク以上と称される戦闘力を持つモンスターの突進は半端なものではない。ブルドーザーのような力強さとトラックのようなスピードを併せ持つ突進は破壊のみに特化していた。
蛇に睨まれた蛙。
暴力。
血走り、殺気立った6つの眼がウサイトを貫いた。
体が痺れたように動かなくなる。死の恐怖が体を縛り付ける。
「あ、ああ、、」
ドドドドド!!!
「ドラア!!」
飛び蹴り一閃。
ウサイトに衝突する寸前。
ドゴッ!!!
一直線の突進。シンプルで力強い。
だが狙いがわかりやすいという欠点を併せ持つ。
待ってましたとばかり。助走をつけた全力の跳び蹴り。狙いすました脇腹にイメージ通りの一撃。
300㎏をゆうに超えるブルドーザーとトラックのハイブリットのように突進する巨体を弾き飛ばした。
「クソ硬てぇ、、タイヤみてえな体だ」
「あ、ありがとうございますケイタさん、、」
黒髪の少年。
跳び蹴りの主は黒髪の少年だった。
ウサイトから見れば全く信用できない人間。向こうもこっちの事を信用などしていないと思っていた。
まさか助けてくれるとは・・・
「蹴ったこっちの足が痛てぇわ」
足首を回しながら独り言のように呟いた。
「絶対死んでねえな、あの豚、クソ。これがSランクか、レベルが足りねえ。まともにやるのはキツイぞ、」
ウサイトは気が付いた。
少年がオークを恐れている様子が全くないことに。あれほどの化物を目の当たりにしながらのそれは異常。信じられなかった。
「はっ、隊長!」
違和感を投げ捨て、ウサイトはモントドールの元へ走り出した。




