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7話 - 決着 -

黒部 圭太:何も知らずに異世界に飛ばされた、少し馬鹿でかなり生意気な少年。最初の村で無能と宣告され、追放された。相手を「無能」にするスキルを持っている。



 

 排気ガスの存在しない星月夜がここにはある。


 美しく清らかだけど、ここに住む人たちは誰もその価値に気付かない。汚れた星空を見たことが無いから。この星空しか知らないから。


 もしもこの世界にゴッホがいたとしたら、どのような星月夜を描くのであろうか。それでも捻じれた空なのだろうか。



 JYOーーー。


 水の橋が星の光を浴びながら落下していき、男は満足そうな笑顔をしている。


「ふぅー」


 大司教バレルは酒臭い息を吐いた。


 思った通り崖の上からするのは気分がよかった。モノを振るって雫を払い落とし下着の中にしまう。そして肌着をしっかりとズボンのなかに入れる。こうしないと落ち着かない。お腹が弱かった子供のころからの習慣だ。


 表情が切り替わる。


 手を伸ばし上着の右ポケットに間違いなアレが入っていることを確認した。これを無くしたりなどしたら前代未聞の大騒動になる、出世どころか組織の中にいる事すら出来なくなる。


 誰にも任せられない、誰にも預けられない。だから自分で肌身離さず持っている。


「まったく星だけは綺麗だな」


 星を見ていると普段のストレスが消えていく気がした。


 周りの人間から見れば好き勝手にふるまっているように見えるだろうが巨大組織の中で権力闘争に明け暮れ、今の地位を得た。


 そしてそれを維持しながらさらに上へと登り詰めようと画策する日々は、決して楽なものではない。実際彼の体はストレスで精神的にも肉体的にも疲労している。


 しかしたかだか大司教程度で終わるつもりは無い。このさきがどれだけ茨の道であろうとも地位を、権力を、名誉を、金を、全てを手に入れるまで止まるつもりは無かった。


 息を吐く。


 今日はもう寝て、これからの旅に備えよう。この任務は人生をかけた大勝負で万が一にも失敗は許されない。


 最悪の場合は死が待っている極限の任務、これが自分の人生の大きな転換期となるのだ。


 自分の輝かしい将来に思いを馳せながら斜面を登る。来るときには尿意のせいでさほど気にしていなかった斜面だが、登るとなれば足に負担が来る。


「クソッ!」


 舌打ちをした瞬間、足を取られた。


 酔っているせいで注意力が散漫になっていたこともあるし、闇夜で視界が遮られていたせいもある。


 固定されていない石を踏み、思いきり体重をかけてしまった。


「っ!」


 右足首が曲がり「グキッ」という嫌な音が鳴った。踏んだのはボールのように滑らかな球形の石。体勢の崩れたバレルの体勢をさらに崩す。


 転びたくない。


 痛みに顔を歪ませながら、とっさに手を広げながら左足を踏み出す。これでなんとか転ばずに踏みとどまれる、そう思った。


 だがしかし。


 運の悪いことに、左足の着地点にはボールのように滑らかな球形の石。しかも地面に埋まっていない。


 そのまま勢いよく後方へと倒れた。


「ガッハッ」


 その瞬間、バレルの頭に強烈な衝撃が走った。


 後頭部の着地点には地面にしっかりと固定された巨大な石があった。しかも矢じりのように角ばった石。


 あと拳ひとつ分だけ倒れる位置がずれていれば、頭を打ちつけることは無かったというのにである。


 暗闇の中でバレルの頭は真っ白になり、その体は半回転した。


 なぜならばそこは斜面だから。そこまで急とは言えないほどの傾斜ではあったが転倒の勢いが付いていてた。


 勢いは止まらなかった。


 わずかの間意識を失っていたバレルが意識を取り戻した時、視界はごちゃ混ぜになっていた。


 何が何だか分からなかったが、自分がいつの間にか崖へと向かって転がってことは即座に気が付いた。


 強烈な死の予感。


 小便を崖下に飛ばしたいという下らない理由の為に、こんな所まで来てしまったことを後悔した。


 バレルとしても黙って転がっていたわけではない。すぐさま両手を使って止めようとした。


「バアボ!!」


 伸ばした左腕の深い部分に地面から突き出した石が直撃し、強烈な痛みが襲った。「バギッ」という骨が折れる音がして腕が弾かれ、転がる進行方向が変わる。


 だが状況はそれを痛がる時間すら与えてくれない。いままでよりも傾斜がきついルートへと入ってしまったからだ。


 明らかに速度が上がった。


「うわーーーーーー!!」


 傾斜の下には何があるかは分かりきっている。


 パニック状態。


 視界は地面と暗闇を交互に猛烈なスピードでごちゃ混ぜに映すために何の助けにもならない。右腕は無事だがまた石にぶつかるのではないかと思うと、怖くて出せない。


 バレルは生まれて初めて本気で神に祈った。


 神よお助けください。


 突き出ている木の枝が顔にぶち当たり鼻の骨を粉砕した。


「あああ!!!」


 斜面には石や木の枝などが至る所にある。それが転がり落ちているバレルの体にいくつもぶち当たってきて、強烈な痛みと恐怖を与えている。


 これは無能の効果。


 無能は対象者のステータスを90%下げる。その結果バレルの防御力は一般の子供よりも低くなっていて、小石がぶつかるだけで深刻なダメージを与えている。


 つまり無能は、打撲を骨折へと変える。


 時間が経つごとに、斜面と体重とによって、その回転力は相当なものになっている。バレルは覚悟を決め残った右手で地面を抑えようとするが止まらない。


 腕力が無い。


 当然のごとく腕力も90%ダウンしているのだ。もはやバレルにはこの状況を回避する余地は残されていなかった。


「ごごお!」


 それまでにない巨大な石が額に激突し、頭が割れたと思えるほどの痛みと首事吹き飛んだかと思うほどの衝撃。


 右手が空を切った。


 何も掴むことができなかった。


 彼を苦しめる斜面は終わったのだ。


「あああぁ………」


 美しい星が煌めく闇夜に弱々しい声が響く。



 バレルの脳裏に最後に過ぎったもの。


 それはこの世界では珍しい黒い髪。


 まさか………。


 地面が再び戻ってきた。


 重力と共に。


 絶命と共に。





最後まで読んでいただきありがとうございました。


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評価を頂ければさらに喜びます。


☆5なら踊ります。


◎◆◎◆◎◆◎◆◎◆◎◆◎◆◎◆◎◆◎◆


特殊スキル 無能 Lv3

特徴:自分自身から30m以内の生き物に「無能」のバッドステータスを付与して無能状態にする。無能状態になると全ステータスが90%ダウンし、運は-100になる。ただしターゲットとして選択できるのは1体に限る。下位能力による付与阻害や能力低下の影響を受けることはない。

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