66話 -ウサイトと隊長-
BLULULULULU・・・・・・・・・
黒部 圭太、薺、モントドール、ウサイトはヒャクシキの森へとひた走る。
「やっぱり走るのは気持ちがいいなー!」
モントドール隊長は台車を引っ張りながら笑顔で言った。まるで、休日にランニングを楽しんでいるみたいだ。ウサイトを乗せてくれるための台車。モントドールは自分より体力がない兵士と一緒に行動する時にはよくこの台車を使う。
優しい。優しい人。
笑顔。いつも見ていた笑顔。いつも見ていたい笑顔だ。隊長の笑顔はいつもウサイトの心を明るくしてくれる。つらくても、後ろ向きな気持ちになっても、自暴自棄になっても、すべてを投げ出したくなっても、いつもその笑顔が癒してくれた。
隊長。
もう見ることが出来なくなるかもしれない笑顔。そう思うと、鼻の奥がツンとする。
死ぬ。
多分私たちはここで死ぬだろう。
ウサイトは思っていた。
スキルでも何でもない。ただの勘。けれどウサイトは自分の勘を信じている。子供のころから勘は鋭いほうだった。何か悪いことが起きるときには右の奥歯がジンジンと痛む。これから悪いことが起きることを知らせる合図だった。
けれどウサイトは逃げない。
ウサイトはここにいる。分かっていても一緒に行くことを選んだ。Aランクモンスターにこんな少人数で挑むことを選んだ。逃げようなんて、そんな気持ちは全然ない。
怖い気持ちはある。当然。Aランクモンスター、自分を遥かに上回る戦闘能力を誇る怪物。想像するだけで体がすくむ。
隊長。
運動神経が鈍く、筋力も、体力も、魔力も、そして大したスキルもないウサイトを、いつも励ましてくれたのがモントドール隊長だから。いつも気持ちを奮い立たせてくれたのが隊長だから。
だから。
だから逃げない。
死ぬ。分かっていても逃げたくなかった。それは一生のお別れになるかもしれないから。隊長のいない世界なんて生きていたくない。そんな世界なんて死んでいるのと同じこと。だから逃げない。
誰よりも明るくて、元気で、優しくて、みんなを笑顔にしようと頑張る人。損得なんて全然考えてなくていっつも損ばっかりしている隊長。
そんなモントドール隊長がウサイトは大好きだった。
人間はみんないつか死ぬんだ。
だから、だったら。
死ぬ時は隊長と一緒がいい。
ウサイトは志願した。
誰も助けてくれなくたっていい。そんなのいいんだ。たとえ無事に生きて帰れたとしてももう兵士でいることはできないだろう。けど、いい。いいんだ。
自分だけはずっと味方。ずっと味方ですよ、隊長。
「ケイタ君!その魔道二輪車、カッコいいなあ!」
「そうか?まあ、そうかもな」
子供みたいな会話。
ケイタという少年はぶっきらぼうに返事をした。けど、口の端が動いている。褒められて喜んでいる。隠そうとしているけど隠せていない。
少年の体に両手で掴まっている少女。出会ってから一言も言葉を発していない。けれど、少年とは明らかに意思の疎通が出来ていた。
ツヤツヤの黒髪、きめ細やかで真っ白の肌。羨ましくなるほどキレイ。ただそれだけじゃない、言葉では言い表せない雰囲気を纏っている。近寄りがたい感じがした。この感じは剣術の師範とか、高位の冒険者の感じと同じだ。
異様なふたり。
この世界で彼らのような見た目の人間をウサイトは見た事が無い。異様としか言いようがない。顔の凹凸が少なくてどこか遠い国の人に見える。だけど言葉には少しの訛りもない。外国人だったらこうはならないはずだ。
それに、少年の方はなぜか自信満々に見えた。これからAランクモンスターの所に自ら赴くというのにだ。
見た事が無いデザインの服。布の服、それだけで武器も防具も何も身に着けていない。そんな格好でモンスターがいる街の外に行こうなんてウサイトには理解できなかった。頭がおかしいんじゃないかと思ってしまう。
本当に大丈夫なんですか隊長。
隊長が見た夢に出てきたふたり。
神様からのお告げだと隊長は言った。
けれどウサイトには思えなかった。少なくとも少年の方は善人に思えなかった。この少年を神様が選ぶなんて、隊長がそうといわなければとても信じれない。
大丈夫ですか隊長?
これからもずっと隊長の笑顔を見れますか?
隊長には笑顔以外、似合わない。
ウサイトは願う。
このふたりが本当に神様の使いであってほしい。
違う。
神様の使いじゃなくていい。極悪人でも、人間の姿をした化け物でも、悪魔でも、魔王でも、なんでもいい。
救ってくれるなら誰でもいい。
明日も、明後日も、ずっと、ずっと、隊長の笑顔が見られますように。
「ウサイト君も格好いいと思うだろ?」
「はい!隊長」
逞しくて大きい背中。忘れないように目に焼き付けた。




