6話 ー無能の成功ー
黒部 圭太:何も知らずに異世界に飛ばされた、少し馬鹿でかなり生意気な少年。最初の村で無能と宣告され、追放された。相手を「無能」にするスキルを持っている。
<特殊スキル無能が発動しました>
発動を念じた瞬間、機械的な音声とともに、目の前に青白い光の十字カーソルが現れた。
それはゲーム内で銃を撃つときに出てくるものに似ていた。ゲームではこれをターゲットに合わせて、Aボタンを押していた。
十字カーソルは視界の中心に来るようになってて、顔を動かすとそれも一緒に動く。
これで無能を付与する。
多分そのやり方であっているはずだ。ここまでの流れはイメージ通りに進んでいる。あとはこのカーソルでターゲットを指定する必要があるはずだ。
闇の中には大司教バレル。
俺を追放した憎き男は、背を向けて崖の端でズボンをゴソゴソしている。何をしているのかは分からないが、そんなことはどうでもいい。
大事なのは森に潜んでいる自分からターゲットまでの距離。「無能」には射程距離30mという条件がある。それを満たしていることは感覚的には間違いない。
丸い背中が視界の中心に来るように慎重に頭の位置を調節する。大体のところはもうすでに合っているのだが、カーソルの中心をあいつの体の中心に合わせたい。
絶対に失敗したくなかった。心臓が高鳴る。いよいよだ。初めて「無能」を使う時が来た。相手は自分を塵のように見下し、追放し、殺そうとした豚。たとえあいつがどんな目に会おうとも何の後悔もない。
くらえ!
強く意思を籠めたその途端、青白い光の十字は深紅へと色を変えた。その変化が何であるかは簡単に予想できた。無能はターゲットを判別したはずだ。
<無能の付与に成功しました>
よっしゃー成功だ!見たか豚野郎!
深紅のカーソルはターゲットの体に吸い込まれるように消えた。バレルは事が終わったようで体をブルブルと震わせズボンをたくし上げる仕草をした。
小便か。
やるべきことが終わってようやく、バレルが崖の端で何をしてるのかに気が付いた。
「?」
無能の付与に成功したという、機械的な音声が聞こえたものの、バレルには特に変わった行動は見られない。付与は成功したはずなのに何も起きていない。
頭がドクドクなるほどの興奮状態であったのが、一気に醒める。何かとんでもないことが起きるんだと勝手に想像していたのだが、何も起きていない。
落ち着け、冷静になれ。
自分自身に言い聞かせながら、鑑定で得た「無能」についての情報をもう一度思い出してみる。無能とはステータスが下がる事と運が-100になることだった。
いまバレルのステータスが90%下がっていることは間違いないはずだ。どうする?村長からもらったこのナイフであいつと戦ってみるか?
息を吐く。
かなり期待してしまったが多分そういう事なのかもしれない。いま戦えばかなりの確率で勝てるはずだ。
あんな体形でまともに戦えるわけがないだろうし、こっちにはナイフがある。絶好のチャンスだ。魔物にも猛獣にも勝てなくてもあいつになら勝てるはずだ。
すなわち、初めての戦い。
初めて人を殺す。
思ってもみなかった急展開に再び心臓が高鳴る。どうせ遅かれ早かれこの世界で生きていくためにはレベルを上げて強くなることは必要不可欠。しかも相手は俺を平然と村から追いだした奴だ。
護衛がいない今がチャンスだ。その為には背後から一撃で仕留め速攻で逃げる。
そうでなければ俺が護衛に殺される。
いけるのか?
殺せるのか?
人間を。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
「ブックマーク」と「いいね」を頂ければ大層喜びます。
評価を頂ければさらに喜びます。
☆5なら踊ります。
◎◆◎◆◎◆◎◆◎◆◎◆◎◆◎◆◎◆◎◆
特殊スキル 無能 Lv3
特徴:自分自身から30m以内の生き物に「無能」のバッドステータスを付与して無能状態にする。無能状態になると全ステータスが90%ダウンし、運は-100になる。ただしターゲットとして選択できるのは1体に限定され複数をターゲットにすることはできない。下位能力による付与阻害や能力低下の影響を受けることはない。