42話 -袈裟斬り-
斜めにずり落ちた。
盗賊が薺へと到達するより早くその体は二つに別れた。
一閃。
白く輝く剣と勇者が繰り出した一撃。
袈裟斬り
左肩から右の脇へと切り降ろされた剣は、防具ごと切り裂いた。
40ほどの魔物を殺し、レベルアップしたその剣は圧巻。防具を、骨を、肉を切り裂いてなお、力は微塵も削がれていない。
心に怒りが満ち溢れていようとも揺るがない。
積み重ね、研鑽した技術は揺るがない。
閃光は一切の無駄を排除していた。
揺らいでいなかった。
驚きは無い。
後悔も。
懺悔の心も。
本能が知らせる。
目の前の屑共。
雑魚。
圧倒的に力の劣る雑魚であると本能が知らせた。数が多い、それだけだ。恐れることは何もない。この屑共では脅威となり得る事が無い。
弱者。
一応は訓練を積み、実戦を経験し、強くなったつもりであろうが、無駄、無駄、無駄。そんな些末なものは何の役にも立たない。無意味。
「兄ちゃーーーーーーーん!!!」
叫び声が響いた後、血がシャワーのように噴き出した。
場が麻痺したような静寂が過ぎ、吹き上がる赤が遅すぎる開戦の合図となった。
「殺せーーーーーーーー!!!」
「「「「うをーー!!」」」
「ぶっ殺せーーーーー!!!」
一斉に襲い掛かってくる。
予想外の事態に驚き戸惑っているか。ようやく事の重大さに気が付いたか。
「囲めーーーー!!!」
「相手はたった一人だ!!」
「ぶっ殺せーー!!」
「敵は一人だ!負けるはずがねえ」
矛盾。
相手はひとり。
そう、その通り。
相手はたったひとりの少女。
だったらなぜ、そんなにも必死になるのか。
矛盾。
まるで戦争に臨むかの如き形相。
リーダーが殺されたことによる怒りもあるだろう。手柄を立てようとする打算もあるだろう。
だが最も多くを占める感情、それは恐怖。
たったひとりの少女相手に恐怖していた。
虚勢の言葉。それは自分たちを振るいだたせるための嘘の言葉。自らを騙すための言葉。
圧倒的な速度で切り裂かれていた。自分たちを力で押さえつけるもの、自分たちより強きもの。それが何もできぬまま殺された。攻撃を受けていることにすら気づかぬまま殺された。体を分断されていた。
少女がただものではないと悟った。
恐怖。
50人の盗賊はたったひとりの少女によって死の空気に包まれた。
もはやそこに余裕は微塵もない。死に物狂いで少女を殺しに走る。逃げ切れないと悟っているのか、それとも、もしかしたら勝てるかもしれないとでも思っているのか。
一様に向かってくる。
声を張り上げ、目を血走らせ飛び掛かってくる。
好都合だ。
逃がさない。
皆殺しにする。
こんな屑、世界には全く必要が無い。
この場で全員、皆殺しにする。
恐れ戦け。
目の前に立ちはだかるのは勇者。
遥か昔より歌い継がれしもの。
万物を超越せしもの。
勇者。
薺。
殺そう。
俺が命じた。
だから殺せ。
薺。
あいつらに見せてやるんだ。
花はいらない。
黒い服はいらない。
涙はいらない。
これが俺達なりの弔い。
ー ヒョウ価キ望DEATH♡♡♡ ー




