40話 ー疾走の後の最悪ー
殺し。
ここから遠くない場所。感覚でわかった。体に痺れるような刺激。
ダッ!!
「薺!!!」
少女は駆け出していた。
思わず声が出た。
彼女も気配を感じ取ったのだろう。視界には何も見えないが、近くで戦闘が起こっているはずだ。死と暴力と闘争の臭いがする。
慌てて追いかける。
自ら殺し合いの現場へと駆け付ける。一人であればそんなことはしなかったかもしれない。
だが、薺。
薺が走り出した以上、追いかけるしかない。
「早っ!」
知っていたことだが改めて驚く。スピードの圧倒的な差。ボルトより早いんじゃないだろうか。目に映る流れる景色。その光景は以前の自分より相当に足が速くなったことを分からせる。
だが、追いつかない。
むしろどんどん引き離されていく。薺は早すぎる。ひとり、たった一人で何が起こっているかもわからない、おそらく危険が待っている場所へと突っ込んでいく。
その決断力、勇気、まさに勇者だ。
そう思った。
危険に対する恐怖、不安が脳裏をよぎる。
だがしかし、薺の迷いのない行動は見るものに勇気を与え、マイナスな感情を上回らせるものがある。心を奮い立たせる何かがある。
薄々は感じている。何が起こっているのか。想像してしまっている。
けれど、そうはならないだろう、思った。
なぜなら、勇者だから。
落胆
悲しみ
怒り
失望
心の繋がった少女。
魂を縛る鎖が少女の心情を伝える。少女の心に訪れた感情が見るよりも早く結果を知らせてくる。
目の前の光景。
勇者が颯爽と現れ人々を助ける。
そんな物語になるんじゃないかと期待していた。
死体と血。
商人クライスと護衛達は殺されていた。




