36話 -第一異世界人、発見-
「いやはや、先だっての台風には参りましたよー。おかげで日程が大幅に狂っちまって」
「そうか・・」
「え!もう行っちまうんですか?」
歩みを進めようとした背に声がかかる。
「なにか用が?」
「ずいぶんぶっきらぼうなお人だね、あんたって人は」
「・・・」
「いや、アタシは商人ですよ。もし何か入用なら商売にならないかと思ってね」
「・・・・金がない。だから商売にはならないな」
黒部 圭太は一人ではない。そして、二人でもなかった。
この世界に来て初めて、人間と遭遇していた。
2頭立ての馬車、そして5人の護衛を連れた中年の男。
やたらとなれなれしく話してくるが、不思議とそれほど嫌な感じはしない人物だった。
「金じゃなくたっていいんですよ、魔石なんかでも」
「持ってないな・・」
発見があった。
一つ、言葉が通じている。相手の言葉がしっかりと理解できるし、こっちの話も通じている。
一つ、魔石が存在し、それを売ることが出来る。
一つ、馬がいる。正確には馬なのかどうかは分からないが、馬に見える生物がいる。
「まさか、そんなわけは・・」
何かを考えているようだ。
「魔物に一度も遭遇しなかったっていうんですかい?いや、そんなはずは・・・」
どうやら返答が相当に不自然なものだったらしい。こっちの顔色をチラチラと見ながら考え込んでいる。
それに、さっきからずっと、護衛の男達の警戒の気配をビンビンに感じる。こいつらはどの程度の力をもっているんだろう。未だ、人間とは戦った事が無い、だから警戒してしまう。
そもそもにおいて、向こうもだろうが、こっちも相手を信用していない。
武器を抜いているわけでもないし、男との間に立ちはだかっているわけでもないが、いつでも動き出せるよう、身構えているのを感じる。
ゆえに居心地が悪い。
「いや、ちょっと待ってくださいよ!」
もう用は済んだとばかりに歩き出した黒部 圭太の背に再び声がかかる。
「なんだ」
「色々と話をしたいんですよ。この先の道中の安全とかのことも聞きたいし・・」
そうか、この世界の旅人はそういう話をし合うのか。モンスターが出てくるような世界だ、よく考えれば当然の事か。
「それなら対価を払ってもらおうか」
「へ?」
「商人なんだろ?要求があるならそれなりの対価を用意するべきだ」
「たかだか話くらいで・・・」
この商人。下手から話してはいるがおそらくは結構成功している商人なんだろう。この立派な馬車と言い護衛の数といい、余裕がありそうだ。
ダメ元で仕掛けてみる。一体どんな反応をするだろうか。
不機嫌そうに再び背を向け、立ち去ろうとした。
「せっかちな人だなあ、わかりました!リンゴひとつ。話をしてくれたのならリンゴをひとつお支払いしましょう」
「10だ」
「いや、いくらなんでもそりゃあ」
「道中の安全の情報が知れるなら安いもんだろ。死んだらリンゴは食えないわけだからな」
「・・参りましたねぇ、、そんなら3つ、3つでどうですか」
「話にならない」
「強欲な人だねえ、しょうがない、これが最後です。5つ、5つ支払いましょう」
「強欲なのはそっちだ。命よりリンゴが大事とはな。6つだ」
「・・・・」
「・・・・」
「はぁ、わかりましたよ。6つ支払いましょう。まったく、前代未聞ですよ・・・」
「そのリンゴはこっちが選ぶぞ。腐ったやつを渡すつもりかもしれんからな」
「はぁ、、、、、、お好きにどうぞ、、、、」
お手上げのようなポーズ。
勝利。リンゴをゲットした。
だが、こんだけの旅支度を整えれるやつにとったら、リンゴなんぞ出費のうちにも入らないだろう。
だから多分、向こうにとってもちょっとした遊びみたいなもんなんだろう。
そして、助かった。
食料が底をつきかけてて困ってた。リンゴが6つあれば余裕で街まで持つだろう。あと一日くらいのはずなんだからな。
黙って見守っていた薺が喜んでいる気配を感じた。
リンゴ、好きなんだな。
それもまた、発見だ。
そうだ、リンゴは薺に選ばせよう。
真剣にリンゴを選んでいる薺の姿を見てみたかった。




