33話
黒部 圭太:何も知らずに異世界に飛ばされた、少し馬鹿でかなり生意気な少年。最初の村で無能と宣告され、追放された。相手を「無能」にするスキルを持っている。種族は悪魔。
安倍 薺:何も知らずに異世界へと召喚された勇者の少女。
今日の異世界の空は咲きたての朝顔のような色をしている。一本だけ縦に上って行く雲があるのだが、あれは地震雲だろうか。しかしなんにしても異世界の朝は美しい。
「完!全!復!活!!」
跳び起きてサタデーナイトフィーバーのポーズを取ったのは黒部 圭太。元日本人で現在は悪魔で「無能」の使い手。
昨日まではすさまじい風邪によって完全にダウンしていたのだが、目が覚めるたら信じられないほどの活力が漲っていた。
もしこれが日本にいた時だったら、今日は何かいいことがあるはず、どこか遠くに遊びに行こうかと思うくらいに爽快な気分だった。
深い森から聞こえる小鳥たちの声を、昨日はうるさいだけにしか感じなくて全部焼き鳥にしろ!と思っていたのだが、いまは心を癒してくれる素敵なミュージックだ。
「………」
元気になったの?と聞いてきた少女の名前は薺。勇者召喚玉によってこの世界へとやって来た。
色白の肌をして黒曜石のような艶やかな黒髪をしていて、日本の学生服を着ている。一見すればただの可憐な少女のように思えるが、僅かでも戦闘の心得のあるものならばその威圧感に圧倒されるだろう。
彼女は勇者なのだ。
「オウ!元気になったぞ。どうだ周りにモンスターはいなそうか?この森は魔物の巣だからな」
「………」
怖いの?と聞く。
「怖くねーーよ!別に!」」
言葉を音として発していない彼女の言う事を圭太が理解できているのは、「隷属」というスキルの効果。
隷属とは文字通り他人を縛り奴隷とするスキルだが、それによって二人の魂はいま繋がりを持っている状態だ。だから相手が何を思っているかというのもなんとなく伝わる。
「………」
あの時も怖がってた。
「あの時っていつのことだよ?」
「………」
森から緑の魔物が出てきた時。
「あんな雑魚モン相手にビビるわけないから!」
唾を飛ばしながら反論する圭太。
「………」
でも叫んでた。
確かにあの時、初めて魔物を見た圭太は驚きすぎて「ボリボリパチョレーーーーーーック!!!」と叫んだ。薺はその時の事を言っているのだ。
「叫んでないんだよ」
圭太は認めない。勇者である薺に舐められたくないという気持ちがあるから。
「名前!そうだよ、名前を叫んだんだ」
「?」
薺は首をひねった。
「そうだよ、異世界に来たっていうことは、これはもう生まれ変わったっていってもいいだろ?だからお前に新しい名前を付けてやろうと思ったんだ。もう日本の薺じゃないわけだからな」
「………」
意味わかんない。
「わかるだろ。いいか、今日からは薺という名前を捨てて、ボリボリパチョレックと名乗っていいぞ」
「・・」
「嫌。じゃねーーよ」
「・・」
「ダサくねーよ」
「・・・・・・・」
「まあどうしてもって言うなら無理にとは言わないけどな。俺は心の広い主人だからな。そんなことでいちいち怒ったりはしないのさ」
「・・・・・・」
「俺に新しい名前はいらん」
「・・・」
「ダサ!なんだその大型の雑種犬みたいな名前は!却下、大五郎は却下だ。圭太。黒部 圭太、圭太と呼んでくれ」
「・・」
「お、おう・・」
呼び捨てかよ。ま、まあいいさ、、俺は心の広い男だ。明らかに年下から呼び捨てにされようとも気にしないさ。
だいたい、敬語っていうのは日本人の発想。異世界に来た以上はそんなことにこだわっていても仕方がない。切り替えが大事だ。
「さあ、行こう。なずな!あの尖がった山を目指していけば街にたどり着く。大丈夫、俺に全て任せろ!異世界なんか恐るるに足らん!さあ、出発だ!」
人差し指を力強く指し示す。彼が知っているのはそれだけ。この世界の事など何も知らないのだ。だが、黒部 圭太に不安な様子は見られない。むしろ、自信満々にすら見える。
それは初めての仲間にいい格好をしようとしているのか、それともまだ若い薺を不安にさせないようにしているのだろうか。
「・・」
頷く薺を見て圭太は笑った。
圭太と薺は朝日を背に旅立つ。
悪魔と勇者の表情は明るい。いつの間にか雲ひとつなくなっていた美しい青い空が、ふたりの旅路を祝福しているかのようだった。
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特殊スキル 無能 Lv3
特徴:自分自身から30m以内の生き物に「無能」のバッドステータスを付与して無能状態にする。無能状態になると全ステータスが90%ダウンし、運は-100になる。ただしターゲットとして選択できるのは1体に限る。下位能力による付与阻害や能力低下の影響を受けることはない。




