31話
黒部 圭太:何も知らずに異世界に飛ばされた、少し馬鹿でかなり生意気な少年。最初の村で無能と宣告され、追放された。相手を「無能」にするスキルを持っている。種族は悪魔。
安倍 薺:何も知らずに異世界へと召喚された勇者の少女。
異世界ってすごい。
森の奥からモンスターがどんどん、どんどん湧いてくる。血に引き寄せられているのか分からないが、最初に出てきたゴブリンっぽいやつだけじゃなくて色々と出て来る。
光輝く短剣で懸命に戦っている薺を見ながら他人事のようなことを言っているのは、黒部 圭太。
彼は寝ながら戦いを眺めている。1対複数。だが手助けする気はないようだ。
なぜならば強い。勇者が本当に強いから。
いやーさすが勇者。これで俺の異世界生活は安泰だな。魔王にでもなって世界征服でもしちまうかな?ふぉーっふぉふぉっふぉふぉふぉーーー。
おいおいおいおいおい、おめでてー奴だな。お前はよ。
なんだよミニ圭太。俺はいま具合悪りぃんだから出てくんじゃねえよ。これだけ強い奴が奴隷なんだから俺の最強は揺るがない。この強さ分かるだろ?なんの文句があんだよ。
ミニ圭太:プフォー!お前まさか本当に勇者がこのままずっと奴隷でいてくれる、なんて思ってんじゃねえのか?
は?なにを言って………
ミニ圭太:はぁ、やっぱそうか………そんなら言わしてもらうけどなあ、お前。勇者召喚玉を使った時、あの事をもう一度思い出せよ、おかしなことがあっただろ?。
はぁ?なんでそんなことするんだよ。
ミニ圭太:まだ分かんねえのかよ、、頭悪りぃなー。勇者召喚玉を使ってあいつが現れた瞬間、お前は確かに隷属の魔法を使った。そしたら太い鎖があいつに向かっていった。それは間違いねえよな?
そうだよ、それで合ってるよ。
ミニ圭太:なんであの時、あいつは奴隷にならなかったんだ?
うっ!いや、あれは何かの………
ミニ圭太:間違いなんかじゃねえよ。それはお前が一番よく分かってるだろ?あの時、隷属の魔法は確かに発動した。そうだろ?それなのにあいつは即座に顎をぶん殴ってきた。これは明らかにおかしいじゃねえか。
………。
ミニ圭太:奴隷になれば主人を攻撃することは出来ねぇはずだよな。それなのに思いっきり攻撃して来てたよな、結局何十発殴られたよ。最後はフロントチョークまでして。攻撃し放題じゃねぇか、それはなんでだ?
………。
ミニ圭太:それじゃあはっきり言ってやる、勇者には隷属なんては魔法効かねえってことだ。
そんなわけない!薺は今はちゃんと奴隷になってるんだ、効いてる!魔法は効いてるんだ!お前のいう事は全部間違ってるんだよ!
ミニ圭太:ばか、バカ、馬鹿、超ド級の馬鹿だよおめーは。現実的に考えろよ。一番最初、不発に終わった理由。それは、あいつが勇者だからだろ?
そんなの分かんないじゃんか!現実的に考えろっていうならわかるんだよ。薺と魂が繋がっているのが実感として分かるんだ、それが事実だ………。
ミニ圭太:馬鹿だねーお前。そんなもんはあいつがその気になりゃー、解除しちまえるに決まってんだろ
そんなわけあるか!
ミニ圭太:いやいやよく考えてみろよこの世界のことを。どう見てもベタベタな異世界ファンタジー世界だ。魔法あり、モンスター有り、悪魔有り、勇者有り、だ。そうだろ?そうだってことはだ、いいか、よく聞けよ。
ゴクリ。
ミニ圭太:覚醒した勇者が自分を縛る魔法を弾き飛ばす。そんでもって邪悪な悪魔をぶっ殺す。それがベタなストーリーってもんだ。
そ、そんな!そんなのって無いじゃんかよ。
ミニ圭太:落ち着けよ坊主。
落ち着けるわけがないだろ!お前は俺が勇者に殺されるって言ってんだぞ、見てみろよあの強さ。あの時は勝てたけど今だったら絶対に勝てないよ。無理だ無理、無理だよ。
ミニ圭太:機嫌を損ねなきゃいいんだよ。
は!?
ミニ圭太:怒らせなきゃいいんだ。覚醒するのは、怒りがMAXに達した時っていうのがベタだ。そうだろ?
っていうことはずっと薺のご機嫌を伺い続けろってことかよ!?
ミニ圭太:そうだ。
異世界まで来てなんでそんなことしなくちゃいけないんだよ。命令せれるのが嫌だから、頭の声も無視したのにさ。
ミニ圭太:誰もずっとなんて言ってねえぞ。ある程度強くなるまででいいんだ。自分がこの世界を生き延びていけるくらいに強くなったら、こう言えばいい「今までありがとう。今日からお前は自由だ」ってな
なんだよそれ、嫌だよ。
ミニ圭太:まだわかんねぇのかよ。お前って本当に馬鹿だな。
回りくどいこと言わないでさっさと答えを言えよ。
ミニ圭太:しょうがねぇから教えてやるよ。つまりだ、散々親切にしてやったらいいんだよ。それである程度まで言ったら奴隷からスッパリ解放してやる。そんなお前の事を勇者様がぶっ殺すはずがねえだろ?
たしかに………。
ミニ圭太:だからその日まででいいんだ、その日までは怒らせないようにやさしく親切にするんだ。分かったか坊主。
優しくするのはいいけど、解放するのは………。
ミニ圭太:お前の気持ちは分かる。確かに勇者はつえー。凄まじくつえーよ。だからずっと近くに置いておきたいって気持ちは分かる。こんなにモンスターが溢れ出てくるような世界だ。怖ぇーよな、不安だよな。
うん………
ミニ圭太:だがよー、それは爆弾が近くにあるのと同じことだ、アレが敵になった時のことを考えてみろよ。モンスターどころの話じゃねえぞ。いつ爆発するかわからねー爆弾はさっさと処理しちまった方がいいんだ、坊主。
爆弾か………
ミニ圭太:そうだ。それになぁ、確かに勇者はとんでもなく強いけど、お前だって捨てたもんじゃねぇぞ。勇者と戦った時の蹴りを思い出してみろよ、堀口恭二みたいだったぞ、勇者に頼らなくたって生きていけさ。「無能」はかなり強力な能力だしよ
そうか、そうだよな。俺一人だって生き残っていけるよな?
ミニ圭太:信じろ。
分かった!オラ、分かったよ!
ミニ圭太:よし!そうか、分かってくれたか、偉いぞ圭太。それじゃあ俺はこれで消えるけど頑張るんだぞ。
ありがとーおっちゃん、助かったよ。
ミニ圭太:じゃーなー!
こうして圭太の中のもうひとりの圭太、ミニ圭太は消えていった。
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特殊スキル 無能 Lv3
特徴:自分自身から30m以内の生き物に「無能」のバッドステータスを付与して無能状態にする。無能状態になると全ステータスが90%ダウンし、運は-100になる。ただしターゲットとして選択できるのは1体に限る。下位能力による付与阻害や能力低下の影響を受けることはない。




