30話 ー頑張る勇者は圧倒的ー
黒部 圭太:何も知らずに異世界に飛ばされた、少し馬鹿でかなり生意気な少年。最初の村で無能と宣告され、追放された。相手を「無能」にするスキルを持っている。種族は悪魔。
安倍 薺:何も知らずに異世界へと召喚された勇者の少女。
「ギッッギャーーーー!」
緑のモンスターが耳障りな叫び声をあげた。
「ンギャギャーーーー!」
「ギャギャーーー!」
全く同じ顔をした緑がドンドン森から飛び出てきた。5.6.7.8.9.止まらない止まらない、どんどん飛び出てくる。ポップコーンかお前ら!
「ギャギャギャギャガー!」
背はかなり低くて薺よりも頭一つ分くらいだ。全員が同じくらいの身長で全員が緑色の肌をしていて口が大きくて耳が尖がっている。これは噂に聞くゴブリンというやつか。
鈍い光りがその手にあった。
刃が欠け、錆びついてはいるが、それは剣。持っているのは一匹だけじゃない、何匹もいる。ほかにも、太い木の棒や杖を持っているのもいる。敵は集団でなおかつ武装している。
「ギッギッギッ」
笑っている。
血走った目と口から覗く牙で殺気を放ちながら、ある程度の距離を開けながら、総勢20体ほどの緑が薺を取り囲んでいく。
これは非常に良くない状況だ。顔を見れば知性の欠片も感じないのだが戦い方としては正しい。人数の利を生かして一斉に飛び掛かるつもりだろう。
今動けるのは自分しかいない。地面に寝ていて一番無防備なのに、全員から無視されてるから。
「勇者!」
だがそれがお前達の致命的過ちだと思いしれ!枕元に置いてあったそれを掴み、投げた。
短剣。
村長が持たせてくれたものの中で唯一攻撃力を持つもの。煌めく放物線がスローモーションで勇者へと向かう。
日本での記憶がよみがった。
包丁を持った犯人が暴れまわり、その場にいた無関係な複数の人を殺傷した事件。
剣道の有段者やプロの格闘家が、自分がもしその現場にいたならば立ち向かわず逃げる、と言っていたのが印象的だった。
それほどの危険度。
日々鍛錬を積み己を鍛え上げていても、武器を持った相手というのはそれほどに危険だということ。
腕時計を見るような自然な動作で、音もなく短剣を受け取った薺。その瞬間に心配は杞憂だったと分かった。
一瞬の威圧感。
そして流れ星の如き白の輝きが見えたと思った途端、緑の塊が転がり落ちた。
生首。
短剣を薙ぎ払う動作はあまりにも滑らかで声も出なかった。きっとそれは敵も同じだろう。
遅れて血が噴き出した。
「ンギュギューーーー!」
声を出した緑の生首がまたひとつ落ちた。
「勇者だ………」
村長からもらった短剣はどこにでもあるようなあまり切れ味のよくなさそうな短剣だった。だが、勇者のもつ短剣は白く、光り輝いていた。
聖剣?
考えている間にもう一匹の首が落ちた。
「ギャッギャーーーーギャギャ!!!」
見晒せ緑の薄汚い化け物ども!これが勇者だ!これが俺の命令に従う俺だけの勇者なんだよ。貴様ら如き下等生物とはわけが違うんじゃぼけ!
遅すぎる緑の開戦の叫び。だが叫び声をあげたそのモンスターは、叫び声を上げることが生涯最後の行動となった。
首、首、首、
次々と首がはねられていく。そのフォームのなんと美しい事か。
剣の使い方に関する知識など皆無。だがその動きは間違いなく一級品だと思った。無駄のない動きはまるで円舞、舞い踊っているかのよう。
美しき舞。
転げ落ちる首と、吹き上がる血潮。首元にリボンのついた白いシャツ、動きに合わせ、スカートもひらりと舞った。
美しい。
幻想的にすら感じるその光景は見とれてしまうほどだ。現実とは思えない。けれどそれはプログラミングされた映像の動きではない。相手、環境、状況、すべてを反映させた結果選択された末の動きだ。
映画の世界に入り込んでいる感覚。
モンスターは次々と森の奥からやってきて倒しても倒しても数が減らない。あの緑のモンスターだけじゃない。似たような奴だったり豚みたいな奴だったりやたらとデカい奴だったり種類は様々。
だが全く問題なし!勇者強し。
スポーツ観戦しているような気分になってきた。口を開けるといろいろな種類のモンスターのいろいろな匂いで吐きそうになるから声を出して応援することはできないが心では応援している。
勝つと分かり切っている勝負は面白い。
がんばれ!勇者!
圭太は寝そべったまま、心で応援していた。
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