3話 -何もできない「無能」じゃないという証拠-
目の前に現れた青白い文字。
名称 タカミーヌ川
特徴 テンスター国中央部を北から南に流れる川
「魔法、使えた………」
無能なはずなのに、無能だから魔法なんか無理だと思ってたのに
「よっしゃーーーーーーーーー!!!!」
黒部 圭太は飛び上がった。そして何度も何度も飛び跳ね腕を振り上げた。
「やったぞーー!魔法だ魔法だ魔法だーーー!」
叫びながら目の前の文字を何度も読む。それでもまだ歓喜は収まらず拳を握りしめ体を震わせている。無から驚き、そして喜へと変化してついには笑い始めた。
誰もいない暗闇の河原で。
「だはっははははは!ギョギョエンチョとか言っちまったよ!ってかギョギョエンチョってなんだよ!意味わかんね」
腹を抱えるほど笑い、そして踊る。
「ギョーギョエンチョー、ギョギョエンチョー」
満面の笑みで踊る。
先ほど自分が発した訳の分からない言葉がよほど気に入ったようで、メロディーをつけ適当盆踊りを踊っている
「ギョーギョエンチョーギョギョエンチョー」
「ハイ!」
「ギョーギョエンチョーギョギョエンチョー」
グキッ
「痛っ!」
足をぐねった。
ここは河原、そして足元は川石ばかりだから当たり前と言えば当たり前。
「うう、痛てててて」
しゃがみ込み足首を摩りながらも、ニヤニヤが止まらない。
「よかった」
喜びから涙へ。体育ず割のような恰好で、薄汚れた手の平で顔全部を覆い、嗚咽と共に涙を流す。悲しみでは無い涙。
暫くして立ち上がった時にはすっきりした顔をしていた。
「いける、これならいけるぞ」
あの時の事を思い出す。村人全員の目の前で無能だと宣言されてどれだけ恥ずかしかったことか。
「誰が無能だ!ちゃんと鑑定が使えたぞ!!」
涙をぬぐってから睨みつけるようにして村の方を見る。あの時の光景はもはや過ぎ去った過去。自分は今無能ではない、鑑定というちゃんとしたスキルを持っているのだ。
「鑑定!」
再び唱える。
「おお!また文字が出てきた!これは石だ、なるほどなるほど、知ってた」
一人大声を出しながらとりあえず目に付くものを鑑定しまくっている。
「鑑定!これは木だな、それも知ってた」
川の魚影に目が留まる。
「鑑定!ゲロアナゴフィッシュ、嫌な名前だな美味いのかこいつ?」
暗すぎてもう魚影しか見ることのできなくなったゲロアナゴフィッシュはそんなことは気にせず悠然と泳いでいる。
突然のひらめき。
「そうだ!そうだった!まず自分自身を鑑定しないでどうするんだ。そうするにきまってるだろ」
自分の能力を鑑定で確かめる。考えてみればどうして一番最初にやらないとかと言われてしまいそうなほど当たり前の事だ。
「まあ気が付いたんだからいいさ。いくぞ鑑定!」
いつも通りの青白い光文字で自分の情報がずらずらっと表示されている。名前。身長。体重。生年月日………。川や石などと違って表示される量が違う。
所持スキル:無能、鑑定。
その文字は俺を鑑定してくれと言わんばかりに「無能」の文字が光っている。
「お前はいったい何なんだ………」
頭の中で繰り返し鳴り響いていた言葉。俺を苦しめたものの正体をようやく知ることが出来る。
圭太の指先が無能に触れた。
〇●〇●〇●〇●〇●
特殊スキル 無能 Lv3
特徴:自分自身から30m以内の生き物に「無能」のバッドステータスを付与して無能状態にする。無能状態になると全ステータスが90%ダウンし、運は-100になる。ただしターゲットとして選択できるのは1体に限定され複数をターゲットにすることはできない。そして下位能力による付与阻害や能力低下の影響を受けることはない。
〇●〇●〇●〇●〇●
「違う!」
胸が苦しい。
「俺が無能なんじゃない!他の奴を無能にする能力なんだ!」
無能だから魔法が使えない、無能だから身体能力が普通、無能だから死ぬ、そう思っていた。
「やった・・・」
嬉しい、嬉しすぎる。
「生きれる」
生きれるんだ!
生きれるというのがこんなにも嬉しいことだとは。日本にいた時はそんなことは当たり前すぎて感謝したこともなかった。
「よかった」
実際に死ぬかもしれないとなると、自分が生きたいのかが痛いほどに分かる。
「見ろ!俺は無能なんかじゃないぞ!俺は相手を無能にするタイプの無能なんだ!」
言葉にならない言葉で吠える。
全員に良いたい。俺を取り囲むようにして蔑みの目をしていた村人たち、ゴミを見るような目で見てきた豚司祭。
自分は何もできない無能なんかじゃない。自分は鑑定も使えるし相手を無能にする魔法も使えるんだ。
そいつらの前で叫んでやりたい。
川の音と臭いがする闇の中で、黒部 圭太は自分の感情を味わっていた。
空に光の無くなったころ。
「これって結局なに?」
ようやっと冷静になった圭太が言う。
相手を無能にする、という事は分かったけど文章が複雑でよく理解できない。かめはめ波とかのほうが分かりやすい。
ステータスが90%ダウン?
魔物はステータスが90%下がっても強いんじゃないだろうか?運動は大の苦手なほうだし格闘技の経験も剣道の経験もない、というか最近は全力疾走すらしていない。
魔物。
見たことはないけど相当強いんだろうな。どれくらいだろうか?地球の生物に例えてみようか。
そしたらグリズリー?ライオン?そういったものになるだろうな。きついな。ステータスが下がっていると言っても、とても戦いとは思えない。
たしかゴリラの握力は500㎏くらいはあったと思う、だとすればそれが90%下がったとしても50kgはあるんじゃないだろうか
学校でやったスポーツテストを思い出してみれば、たしか握力30kgくらいだったような気がする。
それに運が-100というのも良くわからない。普通の人の運がいくつなのかもわからないし、運が悪くなったからといってどうなるというのだろう。
「なんか微妙な気がしてきた」
もう一度ゆっくりと全文を読んでみる。
「ターゲットは1体………」
そこの部分がかなり引っかかる。相手が複数できたらどうなるんだ?握力が50kgのゴリラが10体襲い掛かってきたらどうなる?
「いやいや、ネガティブに考えるな」
考えているうちに頭がぼんやりしてきた。
「試してみるか」
そうだ!結局は使ってみるのが一番はやい。
分からないことをいくら考えてもわかるようにはならない。やってみるのが一番いい。
そうなると………。
口元を触りながら考える。
誰か犠牲になってもらわないといけない。誰かにバットステータスを付与しないといけないな、誰かを攻撃する必要がある。
誰かを無能にしなければならない。
誰を無能にするか。
誰………。
「アイツに決まってるだろ!」
圭太は最高の笑顔を浮かべた。
「一択だ!」
豚。
あの偉そうな豚がとんでもなくひどい目にあうことを想像するだけで楽しみで楽しみで笑いがこみあげてくる。
無能だと知った途端にごみを見るような目で見てきたあの豚自身が無能になるのだ。どう考えてもこれしかないだろう。
「待ってろ今すぐに行ってやるぞ!」
どんな目に合おうとも少しも可哀想ではない。むしろひどい目にあえ。この世で一番最悪の不幸が舞い降りろ。爆発しろ!砕け散れ!
「無能はお前だ、大司教バレル!」
圭太の復讐が始まった。
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