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22話

 


 黒部くろべ 圭太けいたは戦っている。


 はじき飛ばされ、うずくまり、そして蹴り、殴っている。


 はたから見れば異常としか思えないだろうなにせ相手の姿が全く見えないのだから。狂人のダンス、そう見えるかもしれない。


「クソが、」


 戦闘音が、雷雨と吹き荒れる風の音と重なる。


「はあ、はあ、はあ・・・」


 血を流し、顔の痣は闇夜であっても分かるくらいだ。ボコボコにやられている。戦闘が開始してから1時間以上が経過し、それに比例してダメージが蓄積している。


「クソ、フェイントかよ・・」


 当初予想していたよりも、はるかに時間がかかっている。攻撃を当てることが出来ないでいる。


 レベルが上がったことで、強靭に造り変えられた体でなければ、とっくに立ち上がれなくなっているはずだ。



「コイツのスキルはなんなんだ一体」


 相手の姿が攻撃の直前まで全く見えない。


 おかしい。


 いくら暗闇の中とは言ってもこっちはずっとその中にいて目が慣れている、だというのに見えないというのはおかしい。


 相手の足音が全く聞こえない。


 これもおかしい。足元は川石だらけ。歩くだけで、石同士がぶつかり合う音がする。しかも相手は高速で移動している。


 だからこれは間違いなくこいつのスキルだ。


 それはいい。


 しかし許せないのはスキルを使いこなしていることだ。


「ふざけんな勇者!」


 こっちがスキルを使うまでにどんだけ苦労したと思ってんだ。そもそも自分のスキルが何かなんて一切わからなかった。だからこそ「無能」だと馬鹿にされ追放までされたのだ。


 なにをいきなり使いこなしてんだよ!


 ドガ!


「がっ、左か・・クソが」


 向こうの打撃はこっちの左顎にクリーンヒット。こっちの力を籠めた右足の蹴りは空を切った。


 また、外した。今のところ一度も当たってない。かすった感触ですらも、たったの3回だけ。絶望的に勝ち目がないとも考えられる状況。


 だが、黒部の闘志は衰えてはいない。


「おい勇者!いつまで雑魚くせぇ攻撃してやがる、効かねえって言ってんだよ!お前それでも勇者か!いつまで逃げ回ってんだクソが!とっとと来いよ!」



 勝算があった。


 1.相手は今のところ、一撃加えるとすぐに離脱している。


 つまりは苦し紛れに出したこっちの攻撃。それを警戒しているに違いない。そうでなければ連続で攻撃してくるはずだ。それは、当たりさえすれば向こうにとって相当なダメージだ、ということだ。


 2.相手の攻撃に慣れてきている。


 最初の一撃を顎にもらった時には、雷に打たれたかのような衝撃だった。だが、来ると分かっていると違う。備えることが出来る。危険なのは急所、そこさえガードしていればいい。


 3.レベル差


 奴はこっちの世界に来たばかり、レベル1だ。だとすれば体力的には普通の人間。つまり、スタミナが切れてくるはずだ。


 レベルが上がったことによる身体能力の向上は、自分の身体で、実感として、はっきりわかっている。そして、この情報を勇者は知らない。こっちも普通の人間だと思っているはずだ。


 自分のレベルは19、向こうはレベル1、これは相当に差がある。正面から殴り合えば、それさえできれば、絶対に自分が有利。



 しかし悪い点もある。


 自分が持っているスキルの中で最も強力と思われる「特殊スキル 無能」これを使うことが出来ない。


 手を触れる事すらなく、豚を殺した能力。自滅へと追い込んだ能力。しかし発動には時間がかかる。


 現状、相手の動きが目視すらできていない。


 攻撃する時に一瞬だけ現れる残像。とてもじゃないが、そこにカーソルを合わせてターゲットとして念じることなど不可能だ。



 だから待つ。


 ただただ殴られ続けながら待つ。それしかできない。一刻も早くその時が来るのを待つだけだ。攻撃を一発だけ当てることが出来れば、それさえできれば勝てるはずだ。


 とにかく攻撃を続ける。


 見えてからじゃ遅い。来そうだ、と思ったタイミングで蹴り、殴る。待ち一辺倒よりもこっちの方が相手は嫌なはず。レベルアップのお陰で体力はある。いつかは当たるはずだ。


 しかしそのいつかがなかなか来ない。


「クソ、一発当たれば………」


 連打を叩き込む。


 攻撃の間隔が長くなってきた気がする。


 疲れか?



 ドゴッ!


 見透かしたかのように左顎に衝撃。


 もう見飽きるほど見た白はまた消え去った。大丈夫だ、今の攻撃はガードに当たり威力が削がれていた。だから意識は、はっきりしている。


 さらに、蹴りを放った右足に微かな感触。これがなければ心が折れていてもおかしくない。


「効かねえぞ!勇者!そんな非力な攻撃じゃいつまでたっても倒せやしねえぞ!」


 弱気は絶対に見せない。


 余裕の表情を浮かべる。間違いなく勇者はこっちを注意深く観察し、大丈夫だと確信した時に来ている。


 はたして余裕な顔を作れているのだろうか?


 わからない。


 今まで生きてきて、余裕じゃないのに余裕に見せかけるなんてことをしたことは、只の一度もない。自分はなにをやっているんだろう………少しだけ笑いがこみ上げる。


「弱すぎて笑えてくるぜ」



 風と雨がまた、強くなった気がした。


 自分をこの世界に連れて来た奴、そいつは今頃、自分の事を見て笑っているのだろうか?


 勇者はズタボロになっている俺を馬鹿にした目で見ているのだろうか?


 闘志が湧き上がる。



「かかって来いよぉおお勇者ぁあああ!!!」



 叫んだ姿に悪魔の影が表れていた。



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