21話 -対勇者-
黒部 圭太:何も知らずに異世界に飛ばされた、少し馬鹿でかなり生意気な少年。最初の村で無能と宣告され、追放された。相手を「無能」にするスキルを持っている。種族は悪魔。
再び雨が強くなってきた川辺の暗闇に、流星のように流れる音無き白が一瞬だけ瞬いた。
これを知っている。ほんの少し前に見たはずだ、そうだ、この白があらわれた途端ーーー
ドガ!!!
左顎に強烈な衝撃に顎の骨が割れたかと思うほどの痛み。頭が捩じ切れるかと思うほどの半回転。
足から何から体に力が入らなくて倒れ込む、まるで他人事みたいにそう思ったが、体は勝手に蹴りを放っていた。
記憶の扉が開いた。
あの時勇者召喚玉を使って勇者を呼び出した。霧の中に現れた黒髪の少女に向けて「隷属Lv.10」を唱えた。
そこまでは間違いない。しかしその後からの記憶が無い。なんにしろ俺は今、攻撃を受けている。
意味が分からない。
隷属となったはずの勇者はどこにもいなくて、姿の見えない白から攻撃を受けている。
考えるな。
理由なんか今はどうでもいい。今はとにかく戦いに集中しろ。どこに誰かは知らないが不意打ちなんか仕掛けてきやがって。レベルアップしていない時の体だったら多分死んでいた。
怒りが湧いてきた。
全てはあの白のせい。
あいつは俺を殺しに来ている。
殺せ。
「うおおおをおおおおおおがあああああおがあああ!!!!」
闇夜に響く獣の様な咆哮。
強き雷光。
再び闇が訪れた直後、嘲笑うかのように一瞬だけ現れた白。
「ぐおらああああああああ!!」
咆哮と共に走る右腕を振るった。
右フック。
突然目の前に現れた白へと振るう。
力のこもった一撃。豚を殺したことで得られた大量の経験値は肉体を造り変えた。滅茶苦茶なフォーム、しかし威力は凄まじい。
鳩尾に衝撃。
息がつまり体勢を崩し、圭太の攻撃は軌道がずれたうえで空を切った。一瞬だけ現れた白は闇夜に溶けるように消えた。
バランスを崩し、川石に足を取られた圭太は河原に顔から勢いよく突っ込んだ。
「この野郎!!」
砂利と共に罵声を吐きつつ勢いよく立ち上がる、否、立ち上がろうとした。足腰がいうことを聞かなかった。またあの白が来る、また攻撃が来る。
覚悟を決め、両手でこめかみを守る。膝立ちの状態にある頭は蹴飛ばすのにちょうどいい位置。
追撃が来ない。
こっちの様子を見ていまは危険と判断したか。
「クソガ!!!」
そういう事か、そういう事かクソが!!!ふざけやがって!!口の中に溜まった血と、固形物を怒りと共に河原へ吐きつける。
奥歯が歯が砕けていた。
「お前の仕業かよクソが!!」
繋がった。
霧の中にいた少女は白い服を着ていた。そして攻撃をする際にいつも現れるのは白いなにか。
白はつまりあの女の色だ。
「勇者ぁああ!!」
敵は勇者だ。
わずかな異変も見逃すものか。相手は実体のない幽霊なんかじゃない。目を凝らせ。意識を切り替えろ。
顎、こめかみ、鳩尾。明らかに人体の急所を狙っている。敵は絶対に格闘技をやっている。
戦え。
女だからって侮るな。
戦え。
勇者だからってビビるな。
全身に血液が過剰供給され、血流の音が和太鼓のように響く。何としてでも成し遂るという気力に対しての援護射撃となっている。
ボコボコの顔の圭太から赤い靄が立ち上る。
獣のように荒い呼吸、血走った眼、浮き出る血管。存在していない牙が見えるかのようだ。
まさに悪魔。
「かかって来いよ!」
少し前まで馬鹿みたいに走り回っていた時とは別人。狂暴、その言葉が相応しい。
白を探る。
未だに痺れる足を叩き気合を入れる。両手を使ってこめかみと顎をカバーして攻守に備える。
目を凝らし、探す。怒りをぶつける相手、自分に害をなしたもの、現れる白に全神経を集中させる。
月明りさえない闇、大粒の雨が戦いが視界を塞ぐ。足元の丸い川石も動きづらい、全てが邪魔で戦いを困難にする。
白。
「ボガ!!」
ガラ空きだった左の腹に突き刺さる一撃。
斜め後ろに現れたせいで認識が遅れた。二度とも正面から来ていたからそっちに意識が言ってしまっていた。
まだいける。
いまの腹への一撃はいままでのものよりダメージが少ない。狙いは多分肝臓だったはず。しかし当たる瞬間に体勢が変わって、筋肉で固められた位置に来た。
「もっと来い、もっと来てみろよ!」
いつ、どこから来るとも知れない攻撃に対して圭太は怯えていない。闘争心が恐怖を押しつぶしている。
圭太の意思か悪魔の性分か。
「ゴホッ、ゴホ、、ほがあああああああがあああああああ!!、痛ってぇな、クソが!ぶっ殺してやる!」
血を吐き捨てる姿は人間よりも悪魔に近い。
白。
「ドラアアアア!!」
顎への衝撃。
殺気に比べて攻撃のタイミングはほとんど同時と言っていい位に研ぎ澄まされていた。
しかし圭太の攻撃はまたしても空を切った。しかしながら圭太は気付いていた。拳の先端にある微かな感触。
服なのか髪の毛なのかはわからないが、ふわりとしたものが微かに拳に触れる感覚があった。
当たった。
痛みに襲われながらも力と気力が湧いてくる。
「どうだ勇者ああああ!当たったぞ!!」
圭太は勇者に吠える。
一瞬しか現れない。攻撃の直前にしか見えないという意味不明。こっちの攻撃を確実に躱し、自分の攻撃だけ当てる。
人間離れしている。
それも当然、相手は勇者だ。
だが、勝ち目がない、というわけではない。レベルアップによって得たこの体がもたらす攻撃力は相当なもの。空振りしていても分かる。これが当たれば人間だったら倒れるはずだ。
だから勇者は攻撃を躱している。
当たればダメージを負うから。
勝機は十分にある。
勇者は俺の攻撃を恐れている、無敵ではないんだ。
脳が動き始める。顎を打ち抜かれ、ダメージを受け、倒れていた脳も立ち上がり、ファイテングポーズをとる。思考が回る。
相手が白い服でよかった。
この闇夜の中で白は目立つ。それだけは救いだ。闇と雨と川石は、戦いの邪魔だと思っていたが、考えてみればそれは相手も同じ。石に足を取られてすっ転べば素早さは帳消しになる。
同じ条件。
「どうした!かかって来い勇者ぁぁぁああああああ!!」
溢れるほど出ていた口の中の血はいつの間にか止まっている。
諦めなければ勝てる。
今日一番の雷光。
一秒もしないうちに天を震わす雷鳴。
落雷。
どこか近くの森にでも落ちたようで、落雷の振動が地を伝わって圭太の脛まで届くほどだった。
「何回でもかかってこいや!お前の攻撃なんか聞いてねんだよ勇者!」
また落雷。
圭太の声には真実の震えがあった。
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特殊スキル 無能 Lv3
特徴:自分自身から30m以内の生き物に「無能」のバッドステータスを付与して無能状態にする。無能状態になると全ステータスが90%ダウンし、運は-100になる。ただしターゲットとして選択できるのは1体に限る。下位能力による付与阻害や能力低下の影響を受けることはない。




