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19話 -迷いと卑怯-


黒部 圭太:何も知らずに異世界に飛ばされた、少し馬鹿でかなり生意気な少年。最初の村で無能と宣告され、追放された。相手を「無能」にするスキルを持っている。




雨はかなり小ぶりとなっているが、空にはまだ分厚い雲が頑として鎮座している闇の夜。


「ふぅ………」


落ち着いた声のため息。


急激なハイテンションで、豪雨の森を激走していた黒部 圭太だが、再び河原へと戻ってきていた。


「おれって格好いいな」


上半身裸のまま、自分がかなりキツイことを言っていることに気が付いてすらいない。


筋肉が均等についた理想の細マッチョ。


すっかりと変わってしまった体は、猛烈なスピードで走ることができ、まったく息が上がらなかった。それがうれしくて楽しくて、ずっと走っていた。


「謎は全て解けた」


バレルを倒した後、レベルアップを告げる声が聞こえた。しかしそれによって何の変化も感じなかった。気絶するほどのあの痛みはレベルアップによる影響だったのだろう。


あれによってきっと体が作り替わったのだ。ぽにょぽにょの体から細マッチョへと。あんな激痛は二度と御免だが必要なものだったのだ。


「そういえば俺って人間じゃないんだよな」


鑑定には確かに種族は悪魔であると表示されていた。


俺は悪魔。


悪魔っていったい何なんだ?自分では気が付かないうちに、俺という人間は誰かに書き換えられてしまったのか?


一体誰が?そんなことが出来るのは神様しかいないだろう。


何のためにそんなことを?わからない。


雨は小雨にはなったが、まだ止まっていない。川は雨のせいで魚影も見えない。濁っていて暴力的だ。


「俺はこの川みたいになっちゃったのかな、おら!」


足元の石を拾い川に投げつけも、石は水面を跳ねることなくそのままボチャンと沈んでいった。


意地になって投げるが石は一回も水面を跳ねることは無かった。だけど距離は違う、確実に前よりも遠くまで投げれている。


「水切りの役には立たないか……」


日本にいた時から不器用だった。それはこっちの世界に来ても同じようだ。いくら鑑定が悪魔だと言っても自分は自分、そこまで変わっていないような気がする。


「無駄無駄無駄!ってやつだな」


悪魔。


人間の敵。神の敵。悪の権化。


だからといってどうする?今からこの川に身を投げる?


「バカじゃねぇの、なんでそんなことをしなくちゃいけないんだよ」


だったらネガティブな考えなど無駄だ。悩む意味なんかないんだ。


生きる。


何があろうとも生き延びるんだ。


よく聞くたとえ話。コップの中に水が半分しかないと考えるか、半分もあると考えるか。マイナスに考えてもプラスに考えても今の状況は変わらないのだ、それならプラスに考えた方が得だ。


「人間より強そうだし、長生きしそうじゃないか」


この世界に来て、もう何度死にかけているか分からない。


「そうだ!」


バレルだってそうだ。あいつは人間であり大司教だったけど碌なもんじゃなかった。


人間だから良いというものでもないはずだ。少しくらい悪魔だったとしても、それが逆に良いみたいな感じかもしれない。


「むしろ得じゃね?」


普段は人間の世界で生きていて、魔王とかが現れたら寝返ることもできる。


「いいな」


本当に悪くないかもしれないと思えてきて、自分のポジティブさに驚きつつもなんだか嬉しい。前はこんな性格じゃなかった気もするけど。


「街に着いたら美味い飯を腹いっぱい食おう」


圭太が人間だった頃、落ち込んだ時はいつもそうしていた。営業時間ギリギリに行きつけの店に飛び込んで、中華料理を腹いっぱい食べた時の満足感は半端じゃなかった。


「そんじゃあ勇者君をとっとと呼び出しちゃうか」


手の中には美しく装飾された木箱。


小さな宝箱のようになっているその蓋を開いて、宝石のように美しい球体を取り出した。


「勇者の召喚………」


いくら圭太といえどもずっと馬鹿みたいに森を走り回ったっていたわけではない。心が落ち着いてきたら役に立つこともやっていた。


鑑定を使い、箱の中に入っていた野球ボールほどの大きさの透明な石がなんであるかを調べていた。。


<勇者召喚玉>


圭太は知らない。


これが国際法で取り扱いが禁じられている禁制品であることを。この世界で最も価値のある物の一つであることを。教会は血眼になって探し出そうとすることを。


世界を確変させる可能性があることを。


知らなくても考えることは出来る。この勇者召喚玉をどうするべきか。


導き出した結論はただひとつ。


勇者を召喚する。


圭太は悪魔だ。勇者と出会うことは破滅を意味する。勇者は人間の味方で悪魔の敵なのだから。


普通ならそうだ。



<スキル 隷属 Lv10>



鑑定は教えてくれた。レベルアップによって増えたスキル。


他者を自らの支配下に置き、意に反する行いができなくなるスキルだとと書いてあった。震えるほどに奇跡的な組み合わせだ。勇者召喚玉があって隷属のスキルがある。本当に奇跡的。


勇者を奴隷にする。


召喚した瞬間が勝負だ。勇者と呼ばれる存在がいくら突出した能力の持ち主であろうともいきなり召喚されれば隙ができる。


混乱に乗じて不意打ちを仕掛ける。


「無能」を実際に使ってみて分かった。これは自らが戦うのに適した能力ではない。あまりにも時間がかかりすぎるし一人にしか使うことができない。


強い敵がカーソルを合わせている時間をくれるかどうかなんか分からないし、攻撃もしてくる。さらにもし敵が複数だった場合。どちらにしても欠点が多い。


強力な味方が必要だ。


それさえいれば「無能」は効果を発揮する。味方に時間を稼いでもらって相手に「無能」を付与することができれば。これが圭太が考えるベストな戦い方だ。


そして一番重要なことは味方が裏切らないことだ。敵に知られた途端に「無能」はまさに「無能」と化す。


やるしかない。


まるで誰かに導かれたような状況だ。これは誰かに仕組まれた出来事なのか?もしそうだとしてもやるしかない。


勇者を奴隷に。


「ただ、卑怯だよな」


これ以上に心強いことは無いが少しの罪悪感は感じる。突如としてこの世界に呼び出され奴隷となってしまう勇者に対して。


「悪いな勇者君、そんなに悪いようにはしないから」


雷光。


そして雷鳴。


再び雨も風も強くなってきた。


「荒れそうだな」


不安。


これは警告なのか?


召喚を思いとどまらせる神の警告。


いや、そんなもん知るか。


勇者召喚玉を握りしめる。



「勇者召喚!!」



唱えた瞬間、勇者召喚玉が手の中から消えた。


地面がゆっくりと揺れ始める。


「地震!?」


ゴゴゴゴゴ………という台地が震える音がする。


「ヤバくね?」


霧が立ち込めてきた。あまりにも急激にそして圧倒的な変化。


霧は青白い光を発して周囲をあっという間に染め上げる。アツアツの石に水をぶっかけたような勢い。


地鳴りは体を振動させるほど強くそして低く唸っている。雨雲がより一層黒く分厚くなり真っ黒だ。


「ヤバい!」


強烈に嫌な予感。


予想もしていなかったほど大きな変化が起き始めた。たかだか「勇者召喚」といっただけで地鳴りまで起こるとは。この勇者召喚玉というのは使ってはいけないものだったのかもしれない。


「落ち着け」


恐怖が心を支配しようと襲い掛かってくるがどうにか抑え込む。目的の為にやらなければならないことがある。勝負は一瞬。片時も目を離すな。


光の霧の中に影。


徐々に霧が晴れていく。


人型の影。



少女。


黒髪の少女。


白き衣を纏った黒髪の少女



雷光が周囲に強烈すぎる光を放った。



「隷属!」



悲鳴のような圭太の声。


体からヤマタノオロチのような形をした黒くうねる鎖が飛び出して行って、永遠の隷属とするべく、青白い肌をした少女に食らいついた。






最後まで読んでいただきありがとうございました。


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☆5なら踊ります。


◎◆◎◆◎◆◎◆◎◆◎◆◎◆◎◆◎◆◎◆


特殊スキル 無能 Lv3

特徴:自分自身から30m以内の生き物に「無能」のバッドステータスを付与して無能状態にする。無能状態になると全ステータスが90%ダウンし、運は-100になる。ただしターゲットとして選択できるのは1体に限る。下位能力による付与阻害や能力低下の影響を受けることはない。


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