18話 ー眼球ー
黒部 圭太:何も知らずに異世界に飛ばされた、少し馬鹿でかなり生意気な少年。最初の村で無能と宣告され、追放された。相手を「無能」にするスキルを持っている。
黒く分厚い雲が空を埋め尽くしている闇夜の森。
黒部 圭太は頬を叩く豪雨に目を覚ました。
仰向けに寝そべりながら背中全てで雨を受け止めているこの状況を、理解するのには少しの時間がかかった。
針を刺すような痛みから始まって、意識を失わせるほどの強烈な痛みは、今は全く感じない。盲腸だったら何もせずに治るはずが無いし、そもそもあれが盲腸だったのかどうかも不明だ。
知らないうちにあれからかなりの時間が経ってしまったようだ。天候がまるっきり変わっている。
それにしてもなんて強い雨と風だ。これがこの世界では当たり前なんだろうか。前の世界だったらこれは台風と言っていいだろう。雨が痛い位打ちつけてくるし全身が濡れていて寒すぎる。
「!」
上げそうになった声を抑え込む。
危険だ。
もしかしたら近くに誰かいるかもしれない。大司教バレルが死んだことの犯人を見つけ出そうとしているのかもしれない。
もしくは魔物。
一度も見ていないがいるはずだ。村長の話では村の周辺の魔物はそれほど強くはないが数が多いらしい。
声を出すのは安全が確認できてからだ。
暗闇と雨で周囲の様子が分からない。慎重に、冷静に行動しなくてはならない。音を出すな、気配を殺せ。
気やすく立ち上がるな。今見つかっていないのは、地面に伏せているおかげなのかもしれない。
眼球だけを動かして周りを見る。
大粒の雨が降りそそぎ、狂ったように流れる川の音の中から敵の音を探る。
相手に情報を与えることなく情報を得るんだ。これは物語やゲームの世界の話じゃない。自分の命がかかっているんだ。魔物に喰われながら死ぬのは絶対に嫌だ。気を引き締めろ。
満天の星空は雲に押しつぶされていて一切の光が無い。それはマイナスでもあるがプラスでもある。
落ち着け、心を静めろ。何をするにも冷静さが重要だ。どんなに耳を澄ませても自然の音以外は聞こえない。
どうやら体を起こしても大丈夫そうだ。
辛い。
服も泥にまみれ吸水率120%という感じ。絞らなくても水が滴っていてテンションが下がる。子供のころだったら泣いていたかもしれない。
気絶した時も夜、今も夜という事は気絶してから数時間しかたっていないのか、あるいは丸一日経っているかのどちらかだろう。なにせ時間が分からない。
腹の具合から考えて数時間のほうだろうか。
「ブェクショーーーイ!」
風邪を引いたか?
そうだ、俺は悪魔だったんだ。悪魔が風邪なんか引くわけがないから、これはただ寒いだけに違いない。
日本に戻りたい。
もしもここが日本だったらまずは速攻で風呂に入る。
充分に温まった後で清潔なタオルで体を拭き、ドライヤーで髪を乾かして乾いた服に着替えるんだ。そして温かい飲み物。
しかしここにはその全てが無い。駄目だ、考えると気分が落ちるだけだ。とりあえず川の近くからは離れた方が良いだろう。
そこである違和感に気が付いた。。
「なんじゃこりゃーーーーーーーーー!!!!!」
深夜の森に叫び声が響いた。
「なんだこの体は!!?」
雨と泥にまみれひとり大声で叫んでいる圭太の姿を見たら、彼を正気であるとはとても思わないだろう。
まず必要もないのに大声を出していること自体が馬鹿。
魔物の動きが活発な深夜の森で大声を出すという事は、魔物をおびき寄せるという事と同義で、冒険者始めたての若造や一般人でもやらない位の常識中の常識だ。
さっきは眼球だけを動かして周りの様子を伺っていたくせにだ。
しかも河原から避難するという事を忘れている。これも馬鹿。大雨の日に一番近づいてはいけない場所は川だ。自分の体を見ている場合ではないのだ。
そんなことを気づきもしない男は、引き千切らんばかりの勢いで、濡れに濡れた上着を脱ぎ捨てた。
明らかな変化。
「ほほほほほーーー」
筋肉。
シックスバックで強固でスマートな腹筋。軟式ボールのように弾力性を持った胸筋。太腿とふくらはぎを触って確かめてみるが、タイヤのようにガッチリとしている。
いつのまにか彼の体はあこがれの細マッチョになっていたのだ。
「ギョギョエンチョーーー!!!」
「否、むしろこれは」
「GYO・GYO・E・N・TYOーーーーーーー!!!!!!」
黒部 圭太は大声を上げながら深夜の森を猛ダッシュで走った。
残念ながら確定。
彼は少しだけ頭が弱い。
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特殊スキル 無能 Lv3
特徴:自分自身から30m以内の生き物に「無能」のバッドステータスを付与して無能状態にする。無能状態になると全ステータスが90%ダウンし、運は-100になる。ただしターゲットとして選択できるのは1体に限る。下位能力による付与阻害や能力低下の影響を受けることはない。




