17話 -事件の後-
黒部 圭太:何も知らずに異世界に飛ばされた、少し馬鹿でかなり生意気な少年。最初の村で無能と宣告され、追放された。相手を「無能」にするスキルを持っている。
バレルの遺体はすぐに発見された。その時の光景を見ていた者がいたからだ。
護衛としてこの旅に同行していた彼の名はアキチャ。あれほど言われていたにもかかわらず、バレルが席を立った後でこっそりと宴会から抜け出した。
アキチャは野心が強かったので、どうしても大司教に取り入りたくて、志願して旅に同行していた。
今までバレルの周りには常に自分と同じように取り入ろうとしているものが大勢いたので、バレルが一人で行動したのを絶好のチャンスと考えていた。
しめしめ。
ここまでは計算通り。けれどバレルにどう声を掛けるべきか悩んでいた。本人にはついてくるなと言われたのだから、なにか言い訳をしなくてはならない。そんなことを考えていた目の前でそれは起こった。
アキチャは調査官たちに向かってハキハキと答える。真っ直ぐで正義感に溢れた兵士のように。
「周りには人っ子一人いませんでした」
「争う声とか魔物の鳴き声なんかも聞こえませんでした」
「自分は酒は飲んでいませんでした。任務の最中なのですから当然です」
「付いてくるなとは言われましたが、あのとき嫌な予感がしたんです。私の感はよく当たりますから、大司教様をお守りしようと後を追いました」
「大司教様が転倒しそうになった時には、私はすでに自分は駆け出し、全速力で大司教様の元へと駆け付けましたが、あまりにも距離がありすぎました」
悔しそうに空気を殴る。
「無念です。あと一歩のところで大司教様をお助けすることが出来ませんでした」
取り調べを受けた際にアキチャはこう答えた。
ほとんどは嘘。
彼は相当酔っていたし、バレルが転倒し転がっていくときも、もただその場に突っ立ていて「ドスン」という音を聞いてから、我に返って駆けだした。
しかし、もしそれを正直に告白していれば彼は罰を受け、その人生は惨めなものになっていたのだからそれは正解であった。
余談ではあるが彼には婚約者がいて、この旅から戻ったら結婚しようという約束をしていた。
婚約者の名前はモティクラさんというしっかりした娘さんだ。普段彼はモティクラさんの事をモティと呼んでいるが酔っぱらった時にはクララ、クーちゃんなどと呼んでいる。
世界最大規模を誇る宗教団体プーチャル教の大司教の死ということでこの事件は大規模な調査が行われた。
しかし結論は明らかだった。
バレルが酒に酔い足元がおぼつかない状態だったのは、宴会に参加していたもの全員が証言していたし、誰もついてくるなと言ったのも彼だ。
そして遺体にも事故よってついたとみられる損傷以外が無いことから、他者や魔物の影響とは考えづらかった。さらにはアキチャの証言がある。そうなると事故以外はあり得ない。
だが、ただ一つだけわからない点があった。
それは死体の損傷があまりにもひどい事。崖は100m以上の高さがあるのだから墜落したら死ぬのは当たり前である。
しかし過去に何件も墜落し死亡した者の死体を見ている調査員ですらも驚くほどの遺体の損傷。
しかも腕や足、頭部を始め全身に骨折が見られた。恐らく斜面を転がっている時のものだろが、ここまで骨が折れるものだろうか、という疑問。
しかし結局、アキチャの証言が妥当と判断された。
過去の職務態度にも特に問題は無いし、経済的に困窮していたわけでもない、プーチャル教の教徒でもあるし、バレルと揉めていたわけでもなかったからだ。
バレルは酔って足者がおぼつかない中で転倒し、斜面を転がり最後は崖から墜落した不運な事故死として結論が出た。
ここからがおかしかった。
結論が出たにもかかわらず、教会は捜索隊を出して何度も大規模な調査を行った。人々はその理由を知りたがったが教会が口を開くことは無く噂だけが独り歩きしていった。
あの崖には財宝が隠されている。大司教は何者かに殺害されて、その証拠を探しているの。あの死体は偽物で本物の大司教はまだ生きている。などなど。
教会が密かに探していたのは「勇者召喚玉」。生贄を要することなく勇者を召喚することができる伝説級の宝玉。
何度探しても手掛かりすら発見することができなかった。目的のものはすでにそこにはない。
すでに持ち去られた後なのだから。
そして数か月の後、ついに探索は打ち切られた。教会はこの世界で最も価値がある「勇者召喚玉」を紛失したのだ。
それほどのものを、無くしました。だけで済むはずがない。この大失態は教会のトップである教皇の逆鱗に触れた。
責任者が無事で済むはずもなかった。その責任者というのは総大司教パトリアクス。
この旅は勇者召喚玉を秘密裏に運ぶという目的以外にも、裏の狙いがあった。それを計画し、バレルを巻き込んだのはこの男。
もし失敗すれば、バレルに全ての責任を背負わすつもりでいた男。
もし成功すれば、バレルを殺し証拠隠滅を計画していた男。
裏の狙いがバレることは無かったが、勇者召喚玉を失くしたことの責任はバレルを担当者に決めた彼にあるとされた。事故とは言え失態は失態。
厳罰。
パトリアクスの総大司教の地位ははく奪され、住み慣れた王都を追われた。勇者召喚玉のこと自体がごく一部の人間しか知らなかったことから、教会幹部にとってもこの処分は意味不明であった。
彼は恥ずかしげもなく足掻いた。
金を惜しむことなく使い、人を介し、何度も何度も教皇に許しを請うたが、そのすべてが無駄に終わり処分は決定された。
結局、パトリアクスは僻地の小さな教会で司祭としてその生涯を終えることとなった。
一方、ココクロ村は捜索隊への宿泊施設や人員、食料などを提供した見返りとして、少なくない報酬を受けることができた。
しかも探索をするうえで必要な新しい井戸の整備、住宅の建築、崖崩れを防ぐ工事、周辺の魔物狩りを教会が行い、探索が打ち切られたのちには村に無償で提供されることとなった。
特産物もない寂れた村にとって現金収入というのは何より嬉しいものだ。それによっていつもよりも余裕のある冬を迎えることができたという。
それ以来村では、秋に訪れる旅人は幸運をもたらすと信じれらている。
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特殊スキル 無能 Lv3
特徴:自分自身から30m以内の生き物に「無能」のバッドステータスを付与して無能状態にする。無能状態になると全ステータスが90%ダウンし、運は-100になる。ただしターゲットとして選択できるのは1体に限る。下位能力による付与阻害や能力低下の影響を受けることはない。




