168話
「お姉ちゃんすごい!」「かっこいい!」「おねえちゃん!」「これみせて」「わー見てただのネギだよ!」「ネギであの男の人ぐるってなってたよ!」
戻ると薺はリンゴ売りの子供たちに囲まれてヒーローみたいな扱いをされた。
「私には理解できないくらいの素晴らしい腕前でした」
目をひん剥いたままのソングが言った。
「そこのお前ら!」
兵士が大声をあげながらこっちに走ってきていた。
「やっぱり「気狂い黒兵衛」か。お前はいちいち騒ぎを起こさないと気が済まんのか!」
「その変な呼び名、まさか俺のことじゃないだろうな」
「お前しかおらんだろ!」
「はぁ!?」
ふざけんじゃねえ何だそのあだ名は。
「こんなところで何をしておる」
「どこで何をしようが俺の勝手だ」
「噂通り生意気な奴だまったく!」
噂?
「その噂ってのはなんだ?誰が言ってるんだ?」
「ええい、そんなことはどうでもいい。なんでお前が難民の中にいるのか、街に用があるならば入ればいいだろう」
「この人数が検査待ちしてるんじゃ入るのに相当な時間がかかるだろ。だからこれからどうするか考えている所だ、街の中に入るかどうかは決めてない」
これだけの時間を待つようなら戻ってダンジョン塔にでも入るほうがいい。
「検査待ち?ああ、そういうことか。この者たちは検査待ちなんかじゃないから入国カードがあればすぐにでも入れるぞ」
「どういうことだ?」
「どうやら何も知らないようだな。この者たちは戦争を始めた他国から逃げてきた難民たちで、今わが国で難民の受け入れをどうするか話し合っている所だ。現在わが国では他国の人間の受け入れを完全に停止しているから彼らは入ることができんのだ」
難民だと?
「お前たちのころはまだ入ることができたのだから運が良かったな」
「これをなくしていたら入れなかったのか」
ポケットに入っている入国カードのシワを伸ばしながら言う。
「無くしたとしてもお前たちは入れるだろうさ」
「なんでだよ」
「王族からお前たちの似顔絵はもうすでに出回っているから、まともな兵士なら一発でお前たちのことはわかる。有名人だぞ、良かったな」
ちっともよくないぞこの野郎、指名手配犯みたいになってるじゃねえか。
「どう広まってるんだよ?」
「すぐに噛みついてくるら近づくな、とよ。あと、お前らが王族のお二人と話がしたいと申し出たなら間をすっ飛ばしてすぐに伝えに来い、そういう命令だ」
二人、王子と王妃だな。どっちにもマークされていたのか俺たちは。
「そうだ!おい爺さん、金貸してくれ」
「金?わしが金持ちに見えるのか。カツアゲならよそでやれ」
「大金貨しか持ってないんだよ、リンゴ屋に払う金がない」
「ちっ、そういうことか。金持ちが………」
横にいる子供たちとソングのリンゴやを見て理解したようでぶつくさ言いながらも兵士の爺さんが払ってくれた。




