13話 -Side story-
大司教バレルのサイドストーリーなのでスキップしても本筋には影響ありません。
「さあそろそろ決めてもらおうか」
薄い笑顔を浮かべながらパトリアクスは返答を求めてくる。だがバレルにはまだ成功の確信が持てない。
「しかし・・・」
相も変わらずパトリアクスは何でもない事かの様に簡単に言葉を発するがあまりにも危険すぎる。見つからなければいい。それは犯罪者の都合のいい楽観論。
過去に見つかって殺されている人間が何人もいる。それは今のバレルよりも高い地位につき権力と金を持っている者たちだ。そんなもの達が何人も失敗しているのに自分だけが成功すると考えるのは馬鹿の考えだ。
「バレル大司教。私だって馬鹿じゃない。今回の案件、成功の確信を持っているんだ」
「かつて教皇の裏を探ろうとした者達は皆、教皇と御友人がここ王都での極秘会談の時を狙って御友人の正体を探ろうとしたんだ。だが今回の取引は向こう側の指定でトオク地方の荒野で行うことになっているんだ」
「トオク地方、それだと王都から馬車で1ヵ月はかかりますね」
何もない、なんの利用価値もない所。バレルのトオク地方に対する知識はそれだけしかない。荒野で土質が悪く農業にも適さなく大した資源もない土地。
「バレル大司教。君が考えていることは分かっている」
「過去に教皇様の周辺を探ろうとして殺されてきたものたちの事を考えているのだろう。私も今回の策を考えるうえで過去の事件を徹底的に調べ上げた」
「その結論だが、私はその極秘会談を探ろうとしたものは監視されていたのだと考えているのだ。恐らくそれは探索系の特殊スキルによるものなのだろう。教皇様本人のスキルなのかもしれない」
「つまり教皇様の周辺を探ろうとしていたものは逆に探られていたのだ。王都は人が多く人に紛れ監視することは簡単だがそれは逆に監視されやすいということでもあるからね」
「そして自分たちに敵意をもっているものを探し出し、その人物から芋づる式で大元を探し出せたと考えることができる」
「そうだったとしてもスキルには必ず効果範囲というものが存在する」
「それはスキルに関するあらゆる文献にもそう記されている。最強と呼ばれる冒険者であっても、大賢者と呼ばれる者であっても、魔王、勇者であってもそうだ。無限に対象範囲があるスキルというものは過去に一度も確認されていない」
「今までに確認されているスキルの最高対象範囲は術者から半径50m。これは大賢者として世界中に名が轟いた伝説的な魔法使いがそれを成し遂げたといわれている」
「しかし君は違う!」
今までにまして鋭い目線。
「スキルの精度は大幅に下がるが何km離れようと君は能力を維持できる、そうだね?」
確かにその通りだ。しかし精度が下がり過ぎて何の使い道もない、そう判断されて50m以上離れても「使える」に含まれていない。誰もが何の役にも立たないから意味がないと思い込んでいる。バレル自身もそうだ。
「君の蠅は離れていても大まかな位置なら把握することができる。そうだったね?」
「は、はい・・・」
バレルの所持している特殊スキル「ストーキングフライ」は魔力で蠅を生み出すことができる。そしてその蠅が周囲の音声と映像をバレルに送ることができるスキルだ。
しかしその「ストーキングフライ」もバレルの半径15mを超えると音声も映像も送ることができなくなってしまう。だが能力が使えなくなっても解除しない限りは自分の蠅がどこにいるのかは大まかには分かる。
ここにきてバレルはようやくパトリアクスがやろうとしていることが理解できた。なるほど。そう来たか。だからこの男は私を指名したのだ。ようやく辻褄が合った。
これまで自分の能力をそういった使い方をしたことは一度もない。
離れた場所の音と映像を見ることができる能力。そう思っていたが、このパトリアクスという男は自分以上にこの能力を使い道を知っている。とてつもなく頭の切れる男だ。
「会談が終わった後、50m以上の距離を取って使者を追跡させる」
使者を?
「その人物は教皇様の御友人と必ずつながりがあるはずだ。そこから御友人の正体をあぶりだす」
「何も問題はない。そうだろう?」
やはりそうか。
遠回りにはなるが取引にきた人間から目的の人物をさぐろうというわけだ。これほど大事なものをだから、使者というのは相当信頼のある人物に違いない。
とすれば、御友人と強いつながりがある人物のはず。だから取引に来た人物を探れば自然と目的の人物を探し出すことができると考えているのだろう。
遠回りだからこそ安全ともいえる。
それにパトリアクスの提案した方法ならこちらを探ろうとしている人間がいればすぐにわかる。兵士たちに周囲を監視させ、もしも見つけたら即座に能力を解除すればバレる危険は無いように思える。
スキルの対象範囲と見渡す限りの荒野、そして「ストーキングフライ」の能力、それを利用した素晴らしいアイディアだ。
権力を欲するあまりおかしくなってしまったと思っていたが違う。
さすがに総大司教まで上り詰めただけのことはある。緻密に考えて成功する可能性が高いと踏んだからこそリスクを冒そうとしている
「なぜ教皇様のご友人はトオク地方を指定してきたのでしょうか?王都で教皇様から直接受け取ればいいのではないのでしょうか」
「これも推測だが裏切りを恐れているのではないか?どれだけ極秘だと言っても裏切るものがいないとは限らない」
「もしその時に裏切り者と繋がっている王族にでも突入され、勇者召喚玉が証拠として見つけられてしまっては言い訳ができん。王族とあっては教会の権力があろうとも殺して証拠隠滅を図るという事はできないからな」
「そうすれば教皇様とご友人2人とも処分を受けることは免れない。だから監視がしやすい荒野で代理の者たちを使って取引しようと考えているのかもしれない」
「・・・・・・・・・・・・・」
「どうだね?そろそろ答えを聞かせてもらおうか」
「その質問に答える前にもう一つだけ聞かせてください。総大司教は教皇様の協力者を見つけ出して殺そうとしているのですか?」
「ふっ、そんなことするはずがない。とりあえずは何もしない」
「何もしない?」
「そうだ」
ここまでのリスクを冒しておいて何もしないとはどういうことなのか理解できない。
「動くのは教皇様がお亡くなりになった後だ」
「教皇様が!?」
「そうだ。実際、教皇様はかなりの御高齢で尚且つ病気も患っているからそれほど長くはないと私は思っている」
「そして教皇様がお亡くなりになった時、その時に初めて御友人を探し出すことを開始する。そして見つけ出し接触して教皇様と同じように支援してもらえるように交渉する。私が教皇になる手伝いを頼む。それだけだ」
「なるほど!」
「そうすればこの件が発覚する危険性はさらに低くなる。何しろ裏切り者を見つけ出せ!そう命令する人間は死んでいるからね」
「・・・・・・・・・・・」
「もう一度言っておくがこれは決して強制ではない。君は下りることもできるのだ」
「・・・・・・・・・・・」
「ただそれはラカミノール君を超える地位を得るという事を諦めるという事だ。それは覚悟してくれ。もちろんそれは私が君をどうこうするからという意味ではない。ただ単純に教会上層部は彼の父親からさらなる寄付金を望んでいるただそれだけの話だ」
「・・・・・・・・・・」
「それじゃあ返答を」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「お引き受けいたします!!!」
「よろしい!!!今日から私たちの栄光への道が始まるんだ!!!!」
2人は両手を強く握り合い契約締結のサインとした。その顔は欲望の笑顔で溢れている。人間とはどこまでも欲深い生き物であるのだ。
こうしてバレルは勇者召喚玉の収められた箱を持ち旅立った
そしてあの村へと立ち寄り少年と出会う運命へと進んでいった




