126話 ー協定ー
「これよかったら」
南野 緑田が綺麗に包装された長方形のものを差し出してきた。
「ハクセン堂のクッキーの詰め合わせだ。お前ら好きだろ」
ああ、手土産かいかにも日本人らしい行動だな。
「頂いておこう。こっちは薺だ」
「南野 緑田です、よろしく」
南野から手を差し出して握手をして椅子に腰かけた。
「ところで………こんな建物がこの場所にあったかな?」
「これは俺のスキルで取り出した。そっちもずいぶんと良いスキルを持っているんだろう?」
車いすだけどちゃんといいスキルを持っているんだぞ、というところをアピールしてみる。
「まあね。そのおかげで情報屋をやってこの世界でも生きていけているよ」
「その情報屋がどうして俺にコンタクトを取ってきたんだ?」
さっそく薺が受け取った手土産を広げ始めた。そんなにうまかったのか、俺も後で買いに行こう。薺は全く警戒していないようだ、ということは今のところこの男、そこまでの危険人物ではないかもしれない。
「どうしてって言われても気になるじゃない?同じ日本人だし」
まあ確かに気になるのは間違いないがこいつが日本人じゃなかったとしても気になる存在だ。
「俺たちが偶然入った奴隷商にルシアを待たせていたな?これはつまりアンタは今の情報だけじゃなく未来の情報を得ることができるということか?」
「未来の情報は不確定だから俺自身、絶対の信用を置いているわけじゃない。けどできるかできないかで言えばできるよ」
「そうか………」
つまりは未来の情報も得ることができるというわけだな、敵に回った時には恐ろしい相手だ。相手がどこで何をするのか事前に知っておけば準備ができる。
「どうだい?お互いに協定を結ばないか?」
「協定?」
「お互いの利益が重なるところではお互いに協力し合うという協定。今君は困ってるんじゃないか?怪我のことも教会のことも」
確かにそうだが………
「それもスキルで知ったのか?」
「これくらいの情報はスキルを使わなくても簡単に手に入るよ」
言われてみれば教会の実働部隊の奴らも俺の怪我について知っているような口ぶりだった。
「協力し合うっていうのは具体的に何を考えているんだ?」
「背中の怪我、早く治したいとは思わないかい?」
背中が少し痛んだ気がした。
「そりゃあもちろんそうだが治せるのか?」
「それはわからないけど治せるかもしれない情報は持っている。こっから先は協定を結んだあとに話すよ」
もしこの背中の痛みがなくなるのならばそれはどんな手を使ってでも手に入れたい情報だ。これのせいで無能は使えないしそもそも歩くだけで背中に痛みが走る、早く元の状態に戻りたい。
それに教会の情報も欲しい。あの実働部隊を送り込んできたということからも向こうが本気で俺を殺しに来ていることは確実。向こうがどれくらいの戦力を持っているのかなど知りたいことは山ほどある。
「アンタは見返りに何を期待しているんだ?」
「とりあえずは隷属紋の修正、これは絶対に頼みたい」
「あ!それはアタシが教えたやつだ」
ルシアが急に話に割って入ってきた。
「話がよく分からないんだが」
「かなり高位の隷属のスキルを持っていると聞いているんだけど」
南野はこっちがそれだけ聞けばわかるという前提で話しているが、隷属紋の修正?そんな言葉は聞いたことがない。
「もっと詳しく話してくれ」




