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風が教えるもの  作者: 風見 優
18/20

「ふん。よくもまあ顔を出せたものだね、風間。この僕の前に」

 放課後、風間の受け持つ実習のクラスが使うグラウンドに呼び出された流也は苛立ちを隠せないように風間を睨みつけた。風間達の予想通り、噂は彼の耳にも入っていたらしく、終始イライラした様子で足を上下させ揺すっていた。

「あぁ、噂耳にしたんですね?」

「当たり前だ。どういうつもりだ、風間? 知っているだろう、僕と鬼灯の関係を?」

「あぁ。そしてお前も知っているだろう? 俺とあいつの関係を?」

「喧嘩を売っているのか?」

 風間の挑発に流也はさらなる苛立ちを覚えた。その証拠に体からは微量の魔力が漏れ、気持ちが高ぶっていることを示していた。

「いやいや。俺は別にお前と戦う意思はないよ。そもそもその理由も俺にはないしな」

「言っておくが鬼灯を僕から奪えると思うなよ? 君も知っての通り、彼女の家は金銭的に困窮している。僕が支えなければ路頭に迷うほどなんだよ? もしかすると彼女の話を知って助けたい気持ちが芽生えたのかもしれないが、君には何もできないことを理解した方がいい」

「何か勘違いしているようだから補足しておくが、俺は別にあいつを助けたくて動いているわけではない。あいつが将来どうなろうが俺には関係のないことだ」

 別段隠すつもりなどなく、風間は正直な気持ちを吐露していた。確かにほんの少しだけ、助けたい気持ちもあるにはあったが、最初から親切心で動いていたわけではないので鬼灯のためを思っていると言えば嘘になると思ったからの発言であった。

 もちろん流也は彼の言葉を本気にはしない。

「君が鬼灯を助けたいと思うのは勝手だが、全て無駄であることだけは言っておこう。彼女の両親も僕たちの仲を認めているんだ。君がいくら動こうとも結果は変えられないんだ」

「まあその時はきっぱりと諦めるさ」

「ふん。まあいいさ。そんな事よりそろそろ僕をここに呼んだ理由を教えてくれないか? 僕は忙しい身でね、披露宴とかの準備もしなくてはいけないしね。用事なら早く済ましてくれないか?」

「そうだな。だがお前の用があるのは俺じゃないんだ」

「なに?」

 風間のこの発言に流也は頭を傾げ訝った。一週間前の再戦を申し込まれるとばかり思っていたので、完全に表紙抜きしてしまっていた。すでにどのように倒してやろうかと算段もつけていた。

 それではなぜ自分は風間に呼びつけられたのか。全く見当もつかない流也だった。

「用がないのなら僕は帰らせてもらうぞ。はっきり言って、君に使う時間も惜しいんだ」

「心配するな。既にお前の相手は準備している」

 風間が送る目線の先を流也も追っていく。その視線の先には、彼には想像できない相手が立っていた。

「鬼灯、君? 一体どうしたんだい? なんでこんなところに?」

「聞いたでしょ? あんたの相手は、こいつじゃなくてこの私」

「言葉の意味が理解できないな。君が僕と戦うつもりのように聞こえてくるんだけど」

 鬼灯は数瞬口ごもる。手足がわずかに震え、口元が少し強張る。

 初めての面と向かっての対抗、反抗に鬼灯は抑えようのない震えを覚えていた。

 流也に対しての恐怖心は捨てたものと思っていた鬼灯であったが、実際に視線と言葉を交わした途端その恐怖心が蘇ってきた。初めて家を尋ねられた日、笑顔の裏から見え隠れしていた黒い思惑を感じ取った瞬間、その時の恐怖が未だに鬼灯を苛んでいた。

 大丈夫、大丈夫、と心の中で落ち着かせながら鬼灯は因縁の相手を迎え討つ。

「悪いけど、私、自分より弱い相手とは付き合いたくないの。風間先生は、多少油断はあったかもしれないけれど、私に勝った。だから今こうしてあいつと付き合ってる。でもあんたは別に私より強いことを証明したわけじゃない。もし本当に私と婚約したいなら、まず私より強いことを証明して見せて」

 強がる鬼灯であったが、もちろん内心は口調程穏やかではなかった。

 ただの挑発、しかし同時に自分を鼓舞するための意思表示でもあった。

 自分は言い切った。後はその言葉に恥じぬよう全力でぶつかり倒す。その決意がいざという時の力になると信じて鬼灯は「強い人でなければ付き合わない」という心にもないことを宣言したのだ。

「本気、なのかい?」

「本気よ。それで? どうするの? 尻尾を巻いて逃げるの?」

「ふむ、そこまで言われると流石に引き下がるわけにはいかないね。僕も教師の端くれ、生徒に力で負けるようなことがあれば他の生徒たちも僕に失望するからね。いいよ、僕も全力で応えよう」

 風間たちが思っていた通り、流也はあくまで体面を守るように猫をかぶり続けた。恐らくは戦いの最中もずっとあの気持ちの悪い演技を続けるのだろうと風間は考えるだけで辟易した。

 しかしその演技は長く続かない、と風間たちは確信していた。

「それじゃあ認めてくれますね? 私に負けたら、婚約は解消します。それでいいですね?」

「君がそれを望むなら、僕に反対する権利はないよ。必ずや君が望むような、強い男であることを証明してみせるよ」

 風間は僅かばかり口角を上げた。

——いよいよ始まるな。ここまでは計画通り。ちゃんとここまでお膳立てしてやったんだから、負けるなんていう展開だけは無しだぞ、鬼灯。

 自分の仕事を終えた風間は、もう後は祈ることしかできなかった。


後数週で(一応の)完結予定です。

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