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自分の心境の変化と、その変化をもたらした原因を彼は分析し、そして理解していた。自分が変わったのは、学園に勤め始めてからであり、そしてイースや鬼灯と関わりを持ってからである、と。
どのように自分が変わり、変わっていくのか。さすがにそこまで把握できる訳ではなかったが、それでも徐々に考え方が見直されていくのを強く感じた。
「まあこれで噂は十分に広がるだろう。後で校長に何を言われるかは分からないが、すぐに噂は流也の耳にも入るはずだ」
「そうでないと困るわ。脅迫までされてこうしてあんたに付き合ってあげてるんだから」
「俺にはどうにもそれが脅迫を受けている者の表情に見えないけどな。客観的に見ても、被害を受けているのは俺の方だと思うし」
「でも脅迫したのは事実でしょ? あの脅迫で私はあんたと付き合うことを決めたわけだし」
「その脅迫した本人は今後悔しているけどな。昨日あんなことを言うべきではなかったと」
「じゃあこれからもっと後悔させてあげようかしら?」
「言っておくが今財布の中には小銭が数枚しか入っていない状況だ。もう公園の水くらいしか振る舞えないぞ?」
「それは遠慮しておくわ。せっかく口の中が幸せなのに当分は他のものは口にしたくないわ」
今しがた鬼灯が発した言葉も脅迫の一種ではないかと風間は訴えたかった。というか自分が奢る羽目になったのも彼女から脅迫されたからではなかったかと今更気づく。そして双方共に脅迫する、対等な関係ではないかと。
対等な関係ならば自分が奢る必要もなかったんじゃないかとも考えたが、彼女にはおそらく支払えない額だったことと、この行為が周りへの大きなアピールになることを踏まえると、自分が支払うしかなかったと改めて嘆息した。
「そうだ、せっかくだからもう一つ頼みごとしようかな?」
「これ以上俺から何を毟り取るつもりだ? 繰り返すが、俺にはもう購買力は残っていないぞ?」
「勘違いしないで、もうあんたにそれは期待してないわ」
酷い言われ様だった。そんな状態にした本人に言われ、若干へこむ風間。まさかそんな言葉を彼女から聞くとは予想していなかった。
しかし同時に、金の話ではないと知り安堵もしていた。金のことでないなら自分の生活にそこまで支障は来さないからだ。
「ちょっと稽古つけてよ。練習したい技もあるし」
「なんでそんな面倒なことをしなければならん? あの時みたいに自分で練習すればいいだろう?」
「一応あんたの方が私よりちょっと経験があるからね、アドバイスがあるなら聞いた方が私の為になるかなって思って」
「随分棘のある言い方だな。俺のことが嫌いなのは分かるが、一応体面上は控えておけよ? 誰が聞き耳を立てているか分からないからな」
「……一緒に練習してくれない? あんたじゃないとダメなの」
「やればできるじゃないか。ただもう少し気持ちを入れて表情も作ってもらえるとより説得力が出るな。今のだとバレる人にはバレるぞ?」
「大丈夫よ。その時はちゃんと顔を作るから」
校門を出る際にちゃんと演技をしていたことを風間は思い出す。よって演技の面では問題ないと判断した。むしろ演技力がないのは自分の方ではないかと僅かな焦りを抱いたことは内緒にしておいた。そんなことを吐露してしまった日にはまた新たな弱点を彼女に晒すことになり、どんな要求をされるか分かったものじゃないからだ。
「どうしたの? 顔色悪くない?」
「問題ない。それではそれを食べ終えた後に少し練習するか。どこか空き地か河川敷付近で……いや、むしろイースのところに向かいどこか練習に使えそうなところがないか聞くとするか。できれば人目がつかないところがいいな、万が一流也に見られたら作戦が台無しだからな」
隠すようにすぐさま話題をすり替える風間。そしてその風間にこれまた鋭い視線を向ける鬼灯。その顔はどこか不満気で、彼の言葉に何か納得いかないような表情を浮かべていた。
多少食い下がってくるかと思いきや、練習と聞いて張り切りだしたのか、先ほどよりも速いスピードでクレープを頬張っていく。何か気になることはあったようだが、それよりも練習の方が大事だと脳が判断したのだろう。
安堵の顔を浮かべた風間は、鬼灯がクレープを満面の笑みで平らげるのを、ただひたすら名残惜しそうに見守った。




