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七神噺.稲浪とつばさ

「琴音。手伝いに来たぞ」

「あ、稲浪さん。ありがとうございます」

 昼を過ぎ隣が騒がしくなった頃、稲浪が大郎の送ってきた、少々派手で露出の多い服を身につけて琴音の部屋を訪れる。どうやら、神子にはそれぞれの戦闘服のようなものがあるようで、琴音は稲浪を見ても、特に驚く様子もなかった。

「げっ、オバサンっ!」

 昨日のことが記憶に残り、琴音と隼斗が手を結んだことを知らずに眠っていたつばさ。突然の稲浪の訪問に、つばさが稲浪を睨みつける。

「ダメよ、ツーちゃん。稲浪さんは私たちの味方なの。闘いはしないのよ」

「え? そ、そうなの?」

「そうじゃ。我は汝らを倒すつもりはない」

 稲浪が小さく笑う。琴音の顔色を見ても、本当のようで、つばさが表情を戻す。

「じゃ、じゃあ、何しに来たんだよ。オバサン」

 それでも警戒は解かないようで、琴音を庇うように稲浪を見る。一方の稲浪は、既に二回もオバサン呼ばわりされて、ヒクヒクとこめかみと眉が動いていた。

「ツ、ツーちゃん! ダメよ。ちゃんと稲浪さんと呼びなさいっ」

 稲浪の放つ雰囲気をいち早く察知した琴音がつばさの口を塞ぐ。

「・・・・・・気にするでない。我は寛容じゃ。小童の戯言など気になどせぬ」

 そうは言うが、つばさを見るその目は、昨日と同じ目でつばさを見つめ、その稲浪の青く酷く冷たさを感じさせる瞳に、口をふさがれながらもつばさが何かに頷いていた。

「さて、我は何をすれば良い?」

 既に荷物の搬送は済んだようで、後は箱の整理やらをするだけのようだった。

「それじゃあ、この箱の服をこっちの戸棚に仕舞っていただけますか?」

「うむ。任された」

 琴音の服の入った箱を受け取った稲浪が、タンスの棚に入れていく。そこはやはり男とは違うようで、季節物と日常物などを稲浪もきちんと考えて仕舞っていた。

「稲浪」

「何じゃ? 小童」

「俺は小童じゃない。燕子つばさだ」

 突然つばさが稲浪の背後に立つ。稲浪は神子服だが、つばさは琴音の用意したような子供服を着ていた。

「そうじゃったな。つばさ、何用じゃ?」

 つばさが稲浪が何を考えているのか模索するような目でじっと見てくる。琴音はリビング辺りで片付けをしているようで、食器の音などが聞こえていた。

「お前と、お前の赫職が何を考えているのか知らないけどな、琴音は俺が守るんだからなっ」

 意を決したようなつばさの言葉に、稲浪が呆気に取られる。

「ふふっ」

「わ、笑うなっ」

 稲浪が豪快に笑いだし、それに羞恥したのかつばさがむきになって吼える。

「つばさ」

「な、何だよ・・・・・・?」

 突然笑いを止めた稲浪が真剣な表情でつばさを視界に捕らえる。

「我は隼斗と契った。故にこの命、赫職のためにここに在る。隼斗に危害を為す神子があらば、我はそれを滅す。それが我が赫職との命約じゃ。隼斗に危を成さぬ者には、我は手を出さぬ。琴音とは隼斗が仲を括った。故に我は琴音の保全もその命約にある」

「・・・・・・・・・」

「ただ、契ったからとそれに囚われていては、何も守れぬぞ。もとより我らと人間とは相容れぬ異なる存在じゃ。それを会長(マスター)の手により、こうして人間社会に居ることが出来る。じゃが、我らはそのために闘わねばならぬ。赫職となった人間には、神子より命をも狙われる。我らはそれより赫職を守ることも定めじゃ。己の力を過信したお主は、まだ甘い。故に我はここに居るのじゃ。琴音を取ったりはせぬ。我は既に隼斗のものじゃ」

 言葉が難しいのか、自分の考えていることよりも遥かに大人な考えを持つ稲浪に圧倒されているのか、つばさが口を小さく開けたまま黙る。

「つばさ、貴様はまだ高天原嶌を出るには早い時期にここへ来た。琴音に出会う前に、闘う術もなしに、何者かと闘って惨敗を帰したのであろう?」

「っ!」

 琴音に聞いた話だが、つばさはその場にいなかったため、何故稲浪がそのことを知っているのか、と驚いたように見る。

「燕子は元なら、創生には加わるだけの力はない」

「あ、あれは、本気出してなかったんだよっ!」

 不服そうにつばさが言い返してくるが、稲浪は頷くだけだった。

「ほ、本当なんだからなっ!」

「生憎じゃが、我も本気ではなかった。その我に一撃も与えられない貴様が本気を出したところで、たかが知れておると言うものじゃ」

「〜〜っ!」

 図星を突かれたようで、つばさが握りこぶしを浮かべ悔しそうに稲浪を見る。言い返さない辺り、自覚はあるようだ。

「じゃからこそ我がここに居ると言うておろうが。焔に慣れておらぬ貴様は、白狐の敵ではない。じゃが、我に出来ぬことも貴様は持ち合わせておる」

「?」

 怪訝そうな表情を浮かべたままつばさが小首を傾げる。

「神子には様々がおる。無鉄砲に力を使うものも居れば、策略を立て、自らは最低限しか動かぬものも居るじゃろう。我は姉上のように画策を練るのは苦手じゃ。故につばさ、貴様の力が役に立つこともあるのじゃ。それを見越してかは知らぬが、隼斗と琴音は仲を括った。我らは敵ではない。それを覚えておれ」

つばさは完全に稲浪に呑まれ、呆然と聞入っていた。

「お、俺に出来ることって、何だよ・・・・・・?」

「それはいずれ分かろう。今は今するべきことをするのじゃ先決じゃ」

 未だに多くが積まれ、未開封のダンボールの数々。稲浪に任された箱も三つほどあり、つばさに話しながらもその手は止まることなく、次々と片付けていた。

「ともかく、我は隼斗を優先する。その間に琴音の身に何かあれば、つばさが守るのじゃ」

「どうかしました?」

 つばさの声を聞きつけてか、琴音が顔を出す。

「いや、何でもない。神子としての役割の話をしておったのじゃ」

「そうなの?」

 特に気にしたようではないが、琴音が二人を見る。

「う、うん。何でもないよ」

「? そお? それじゃ、ツーちゃん、ちょっと手伝ってくれる?」

「分かった」

 つばさが琴音と共に寝室を出て行く。

「ふっ、小童もまだまだじゃな」

 一人稲浪が琴音には従順なつばさに笑みを浮かべていた。

「ん? 隼斗・・・・・・?」

 琴音の服を仕舞っていた稲浪が何かを感じたのか、胸元を露出した神子服から見えている赫職紋に手を当てた。

「何じゃ、このざわめきは? ・・・・・・っ、まさかっ!」

 稲浪がバッと立ち上がり、琴音とつばさを呼んだ。


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