二神抄.激突・変化編
現在アルファポリス青春大賞開催中につき、更新が遅れていましたが、無事に更新です。少し展開に変化を付けた程度なので、前回の続編です。
「やれやれ。そちらが変わらぬから、我が変わうてしもうたわ」
立ち上る砂煙と崩れる瓦礫に、穿き捨てるように首を振り、髪を揺らめかせる。
「な、え? ……くう、こ……?」
気づかないうちに人形のように体が硬直していた。落ちた稲浪と九稲を案じて駆け寄るという思考すら空狐はその容姿に略奪する。
「さて、いつまでその愚体を晒すよのぉ」
言葉使いとは不似合いな容姿。単純に見惚れた。
「稲浪っ! 九稲さんっ!」
それでも自我を取り戻して駆け寄る。立ち上る煙に大方の位置の特定は出来る。でも、瓦礫に邪魔をされ、見つけられない。
「稲浪っ! 九稲さんっ! 返事してくれっ」
目の前のビル、青い炎が落ちたビルの窓から焔が零れて路上に落ちた。すぐ近くのビルからも赤い焔が同じように落ちた。俺はどちらを優先するべきか一瞬悩んだ。それでもやっぱり選ぶのは一つ。俺と命約を交わしている稲浪に駆け寄る。
「稲浪っ、大丈夫かっ?」
「う、うむ……我は、問題ない。姉上は?」
問題ないという割には、白い肌に赤い血が染めている。持っていたハンカチで腕の出血を圧迫する。
「九稲さんは……無事みたいだ」
振り返った先、赤い髪から火の粉を揺らしながら、凛と激情を抑えるまなざしで空を見上げて立っている九稲さんがいた。
「そ、そうか。ならば良い。すまぬが隼斗、手を貸してくれ」
「あ、ああ。本当に大丈夫か?」
稲浪の手を引いて立ち上がらせる。見たところの外傷はそれほど多いわけじゃない。むしろ、さっきハンカチで押さえた所の血は止まってる。
「狐鬼の所為じゃ」
狐鬼? さっきのあの焔の塊のことか。でも、それがどうして九稲さんと稲浪の浪費に繋がるんだ? 九稲さんも同じくらいの焔を出していたと思うんだけど。
「狐鬼は、我が狐焔を一時的に一点に集中するのじゃ」
立ち上がるとバランスを崩す稲浪。慌てて肩を抱き押さえる。一撃。たったそれだけだったはずだってのに、どうしてここまで疲労するのか分からなかった。
「すまんの。赫職に支えられるとは、張り切りすぎたようじゃ」
「いや、それは別にいいんだけど、休んだほうが良くないか?」
九稲さんは多分、空狐なんだろうけど、空にいる空狐を見て、身動きしない。ただ、周囲は何もしていないのに近くをまう書類が燃えて、灰に消えている。稲浪に比べて、まだ九稲さんは平気らしい。さっき稲浪に回復してもらった影響があるかもしれないけど、その稲浪がこの状態って言うのは心配だ。
「次期に治る。狐鬼は一気に我が焔を発すだけじゃ。体内の焔が滾れば元に戻る。しかし、何という力じゃ……」
見た目は人間なのに、中身は全然違うのか。分かってはいるけど、ちょっと複雑だった。
「もう、この辺りは廃墟だぞ。一応、創世って極秘なんだろ?」
ビルは倒壊し、戦争でもあったみたいな惨状。NBSLが封鎖しているとは言え、もう人目についているはず。さっきヘリも飛んでいたし。
「そうやもしれん。じゃが、ババ様を野放しには出来んじゃろうが」
いや、まぁ、それはそうだけど。でも、これだけ大騒ぎ……と言うか、大惨事になっていれば、別に俺たちじゃなくてもNBSLにいるとか言っていた神子が相手をしてくれるんじゃないのか? でも、稲浪に言っても無駄なんだろうな。
「稲浪、無事?」
「うむ。姉上こそどうじゃ?」
「私は問題ないわ」
「ならば、此れよりと言うことじゃな?」
「ええ、そうね。空狐が擬態を解いた以上、これは大府の危機」
うん、無理だ。寄ってきた九稲さんと稲浪の会話を聞いていて今更帰ろうとか逃げようと言う俺の心情など、きっと足蹴にされる。そう思った。と言うか、分かった。
「話は済んだかの?」
空狐から言葉が降ってくる。二人が空を見上げ、俺もつられて見る。やっぱりさっきまでの女の子なんていなかった。
「あ、あれ、どういうこと、なんですか?」
九稲さんに聞いてみる。
「あれが、空狐の開放された姿です。恐らくは私たちを悠に超える焔の使い手のはずです」
「我も見えたことはないのじゃが、ババ様の焔から漂う力は、我が狐焔を怯えさせておる」
二人とも見るのは初めてらしい。稲浪にいたっては、さっきまで轟々と燃えていた青い炎が落ち着きなく揺れている。それでも、どうしてだろうな。稲浪の奴、怯えると言うより、武者震いしているみたいに見える。俺は正直、逃げられるなら今すぐ逃げ出したいくらいなんだけど、そうはさせてもらえそうな状況じゃない。
「稲浪、ここからは尾の解放をしなければ闘えないわ。隼斗さんの手前、あなたはそれでも良いの?」
何を言っているのか分からない。尾の解放というのは、さっき九稲さんの焔が尻尾みたいに生えたやつのことか? それなら別に俺に意見を求める必要はないと思うんだけど、稲浪が俺を見る。
「稲浪?」
「隼斗よ。隼斗は我が赫職じゃ。神子が使命は赫職と共にあり、その命を守護するものじゃ。我に力を貸してはくれるじゃろ?」
「え? あ、ああ。そりゃ……この状況もいい加減大変だろうからな」
そうしないと、納得しないんだろ、稲浪は。もう生活に慣れた以上、それくらいは分かってしまう自分自身が誇らしく、半ば諦めすらあった。
「うむ。ならば誓えるの?」
「何を?」
いきなり何を誓えと?
「わ、我が姿を、その……嫌うのじゃ、ないのじゃ」
「は? 稲浪の姿を?」
嫌う? そんな今更だと思うんだけど。むしろ稲浪の姿を見て好きになることはあっても、嫌いになることは、男としてはないだろう。
「はい。空狐をご覧下さい。あれが本来あるべき空狐の姿なのです」
九稲さんが会話に混じる。そして見上げる。相変わらず西洋人形のような美しい姿と、蜃気楼のように空が歪んで見える数本の透明に近い白い炎が空狐を守るように燃えている。あれが、空狐の本当の姿。さっきの子供とは全くの別人。
「空狐は狐族の長を司ったものです。故に既に獣としての姿を亡くし、一種の神という領域にまで達しているのです。それに対抗しうるは、同等の力か、現在狐族を従える長、天狐だけでしょう」
それは、何か聞き覚えがあった。
「我らのこの姿では満足に力は出せぬ。あのババ様に対抗するには、我らも尾の解放をせねばならぬのじゃ」
その尾の解放とやらが分からないけど、きっと空狐みたいに違う焔を出したりするのかも。それはそれで興味があったりする。
「故にじゃ。我は隼斗に元来の姿を晒す。だから、隼斗、それでも我を好いてくれるか?」
いきなりそんなことを言われても、告白にしか聞こえなくて、少したじろいだ。今だってどちらかと言うと好きだし、改めて聞かれると余計に恥ずかしい。
「隼斗さん。空狐は本来の姿と言えど、恐らくは完全ではありません。今なら私たちで押さえ込むことは可能でしょう。私からもお願いします。稲浪が認めた貴方ですから、私も稲浪のことを否定してはほしくありません」
まさか九稲産からもそう言われるなんて。俺の想像とは違うのか?
「そ、それは、あの、えっと……」
恥ずかしい。彼女と彼女のお姉さんの目の前で、彼女のことが好きですと言うようなものじゃないか。しかもお姉さんからもよろしくされたら、断れないだろ・
「大丈夫。俺と稲浪は契約しているんだ。嫌いになんてならないし、信用してる」
俺の答えに、稲浪と九稲さんが顔を合わせた。肯きあって、二人が俺を見る。微かに稲浪の顔が赤い。
「やはり、貴方で良かった」
「え? あの?」
ふふっ、九稲さんがそう微笑んで、思わずドキッとした。
「うむ。さすがは我が赫職じゃ。我も隼斗のことは、信用しておるのじゃ」
「あ、ああ……ありがとう」
恥ずかしそうなんだけど、そうはっきり言われると、こっちが照れる。稲浪にとって照れるなんて大したことじゃないのか?
「ならば、始めましょう」
「うむ。隼斗よ、力を借りるぞ」
「あ、ああ」
何をすればいいのか分からず、そこに突っ立つしかない。
「九尾が妖狐、九稲。焔尾灼放」
「七尾が白狐、稲浪。焔尾蒼放じゃっ」
その瞬間、俺の目の前で赤い焔と青い焔が二人の腰辺りから沸き立つように生えた。
「おぉ……っ! くっ……あ、つい……っ」
その姿に声を漏らした瞬間、赫職紋に熱と痛みが走って、二人を見てられなくなった。
「うっ、あぁっ……っ……な、何だ……っ」
腕に走る赫職紋が青く光っていて、火傷しそうなくらいに熱くなる。腕が千切られる。そう思うくらいに物凄い力に助けを呼ぶ声すらまともに出なかった。
「うああぁぁあああ―――っ!」
空に救いを求めるように、勝手に空に腕を伸ばす。そうしたら、急に痛みも熱も引いてきた。
「はぁはぁ……はぁ……はぁ」
「大丈夫か、隼斗?」
大きく何度も呼吸を繰り返しながら腕を見ると、前はうっすらと見えていたはずの赫職紋が、くっきりと俺の腕に刻まれて、湯気見たいな煙が腕から昇っていた。
「はぁ……な、なんとか……」
余裕なんてなかった。腕の力が抜けて、だらりと垂れる腕を上げられない。
「い、稲浪っ?」
落ち着いてきて、隣を見て、驚きの声が漏れた。さっきまで隣には九稲さんと稲浪がいたはずなのに、その光景を信じられなかった。
「これが私たち、狐族の本来の姿です」
目の前には青い焔が轟々と燃えている。
「い、稲浪……?」
そっと視線を辿っていく。空狐の焔みたいに青い炎が七本、尻尾として揺れている。そして、四本の太い焔の柱が大地から伸びて、焔の塊が目の前にある。もっと視線を辿ると……。
「うわっ!? な、なに?」
焔の中に、猛獣のように鋭い牙と瞳がこっちを向いていて、後ずさって、足が絡まって尻餅をついた。。
「驚くのは無理がないとは言え、それは傷つくのじゃ……」
「え? い、稲浪、なのか?」
目の前には七本の焔の尾を持つ、巨大な狐みたいなものがいた。
「驚かれることでしょう。ですが、これが私たちなのです、隼斗さん」
「く、九稲、さん?」
その向こうから、真っ赤な焔に身を包んでいる、同じ姿があった。ただ、尻尾は九本に揺れている。尾の解放が、この姿……なのか。驚いた。と言うよりも一種の恐怖みたいに立ち上がれなかった。
「詳しい話をするべきなのでしょうが、今は猶予もありません。稲浪、行くわよ」
「う、うむ。は、隼斗……約束じゃからな」
「うわっ」
熱風と共に俺の視界から二つの焔が空へ飛んでいった。その後姿は紛れもなく四速歩行動物のようで、さっきまでの人の姿をした二人じゃなかった。
「……あれが、狐なんだ……」
呆然と見るしかなかった。稲浪が人じゃないことは出会った最初に小さな狐に化けたのを見たから理解していたつもりだったけど、まさかあれが本当の姿じゃなくて、七本の大きな焔の尾を揺らせて空狐に飛んでいく、あの姿が本当の姿だったのか……。じゃあ、俺は今まであんな神子と一緒に暮らしていた。そう考えると、背筋にぞっとしたものを感じてしまった。
「ギャップ……ありすぎだろ……」
へたれた腰に立ち上がれなくて、ただ空を眺めるしかなかった。
「ほっほっほ。ようやく見せたか」
地上から飛んでくる青と赤の焔を纏う巨大な狐に、空狐は嬉しそうに笑んだ。
「よもや、孫を、それも二人も相手になんと思わなんざ」
ようやく姿を現した二人の姿に、空狐は子供の姿の無邪気さとは異なる、妖艶なる笑みを携え、両手を広げ、取り巻く焔を二人へ差し向ける。
「躊躇はなしよ、稲浪」
「分かっておるのじゃ」
向かってくる焔に対して、二人は口を開き、牙を差し向け、喉奥から溢れ出す焔をその焔へ吐き出す。
「邪焔」
「鬼火っ」
「ほぉ……?」
先ほどは空狐のその焔に落ちた二人だったが、吐き出す邪炎と鬼火は空狐の焔を打ち破り、その始点浮かぶ空狐へと伸びた。
空狐はそれにも動じることなく、感心するように声を漏らすだけだった。
「空天拭焔」
その言葉と同時に空狐が指先で輪を作り、口元に当て、輪の中へ冷静な吐息を漏らすと、そこから白煙のような焔が噴出す。空で燃える三色の炎が衝突した。
「うわっ……」
絡み合う三色の焔は、やがて一つの塊となり、行き場を失い、炸裂した。吹き荒れる暴風に隼斗は地上で転げるように滑っていた。
「どうじゃ? 効果はあったのか?」
漂う大気中の水蒸気が蒸発されて立ち上る、雲という白煙に互いが風に消えるときを待つ。
「この程度で収まるのでしたら、ありがたい限りです」
空狐の焔は二人には届かなかった。その効果に稲浪が期待するように言うが、九稲は冷静に時を待ち、警戒するように焔をたぎらせる。
「払え。我が頂が焔よ」
雲の向こうから空間が陽炎のように揺らめいた。
「稲浪、退避っ」
「分かっておるっ」
その瞬間、雲が焔に吹き飛ばされ渦を巻き、その中心からさらに渦を巻く眩い焔が噴出した。九稲と稲浪は即座に空間を蹴るように飛び上がり、それを回避する。
「え? うわああぁぁっ」
しかし、焔は直線に進み、到達点にいない二人を追うことなく、新たな到達点を目がけて地上へ吹き降ろす。
「隼斗っ」
「焔帝、七の舞っ」
突き抜ける空狐の焔が町を襲う。破壊すら遅れをとる熔解に、町に在るものがその焔に触れた場所から溶岩と化し、町がさらに黒地へと解けていく。そのすぐ傍に隼斗を見つけた稲浪が叫ぶが、その隣から九稲が烈火を地上へ吹き降ろす。隼斗のいるすぐ隣に、その焔が隼斗を守るように空狐の焔との壁を作る。
「隼斗っ! その場から去るのじゃっ」
稲浪の声が届いたのか、隼斗は一瞬呆然とその焔を見ていたが、すぐに被害を受けていない逆へ駆け出した。
「余所見をして、我に相対しても良いのかの?」
晴れた雲の向こう、更なる上空に空狐はいた。
「なっ!?」
「な、なんじゃ、あれは……?」
そして、それを視野に捉えた九稲と稲浪は、その光景に驚きの声を上げていた。
「言うたであろう。戦場ならば、一が技では廃人と化す、とな」
そこにいる空狐は、炎の中心。その体を取り巻く白く長い焔が二本、空狐を守り、さらに空狐の背中からは十本の焔の柱が打ち上げられたロケットの白煙のように空へ昇り、その先には町を破壊しつくした焔の玉が十、燃えていた。一つを抑えるだけで九稲も稲浪も力を相当使ったと言うのに、目の前にはそれが十の塊を作り、落ちる時を待っている。
「ババを侮るなかれよ、孫よ」
不敵に笑む空狐が両手を広げる。
「源焔」
そう告げると同時に、開かれた腕の先にさらに二つの黄色い焔の柱が龍のごとく、蠢き始める。
「同時に、三の技をじゃと……?」
「あれほど強大な力を有する焔を宿すなんて……」
そのあまりに差のある焔に、二人は守る術を考える以上に、その神々しさすら覚える光景に立ち尽くすように浮いていた。
「姉上、どうするのじゃ?」
「悩んでいても先を読まれるわ。上空の焔球が私が相殺するから、稲浪、あなたは源焔を滅して。焔が神通力の焔だけになったら、構わず空狐を攻撃よ」
「うむ。では、往くぞっ、ババ様よっ」
九稲が上空へ朱直に駆け上がると同時に、稲浪は空狐へ突進するように焔の尾を引く。上空で一度立ち止まる九稲の眼前には十の白く輝く焔の球が待ち構えていたと言わんばかりに燃え盛る。幅数キロを悠に占める焔の熱が、所々に上昇気流を生み、空を雲が覆う。空間全てを空狐の領域だと主張するように。九稲は溢れる焔をコロナのように噴出させ、動向を待つ。
「これでも、あなたは私たちを侮るのですね」
その口調、不満。空狐からの返答はない。しかし、空狐の表情は喜びに満ちている。殺戮と破壊を子猫相手の猫じゃらしでの戯れとしか認識していないようだ。
「ならば、示しましょう。九尾が何故に妖狐とし、人々に恐れ慄かれたのか。渦焔、五の舞」
うねる尾の中央部に天を指すように伸びる尾が激しく燃える。同時に先ほどは五本だった焔の渦が、あたり一面の空狐の焔を排除するようにそれを取り囲むように一面を赤く染め上げる。その数は四十五本。空狐の焔球は檻に入れられたように囲まれた。
「これ以上の狼藉、身を以って償って頂きます」
波打つように揺れていた尾が、ピンと燃え盛り、針のように伸び、九稲は焔球へ向かってその場から姿を消したようにしか見えない動きで、そこから姿を消した。
「ババ様、何が望みなのじゃ?」
その頃稲浪は、空狐の目と鼻の先ほどで立ち止まり、そう問いかける。二人の空間は互いの熱に、時空の歪みのように空間が激しく滾っていた。
「望み、とな? 孫と交えることに理由が必要かえ?」
稲浪の青い焔は威圧的に燃えるが、空狐は表情一つ変えることなく、平然と応える。
「我らと交えることは良い。じゃが、人間が世界を破壊などとあってはならんことじゃ」
「現に起きておる。起きたものを我ら狐が直せると?」
挑発的な物言いに、稲浪の口から牙が鋭さを増すように立つ。
「して、稲浪よ」
「何じゃ?」
空狐が逆に問う。
「そちは狐。何故に愚かなる存在、人間に従う? 我らは此国において、最強を示す狐よ。我にはそちらの意味が解しがたいがの?」
互いの口調は普通だが、見えない焔の衝突は気を抜けば飲み込まれる緊張にある。
「今こそ、人間がこの地を支配しよる。基は我らが地。我らがものを守り、治むるは我らが役というものよの? 何故に取り戻さぬ?」
「それは違うのじゃ、ババ様。我らが治めた地は廃れた。それは我らが未熟だからじゃ。しかし、人間はそれすら自らが脱し、維持しておるのじゃ。幾ら我じゃって、どちらが世が良いか分かるのじゃ」
相対する意見。
「狐に泥を塗った人間ごときに感化されおったか。……致し方ないの。その思考、如何な過ちであるか、このババが示そうぞ」
「ならば、我もババ様へ牙を剥くのじゃ。我ら神子と人間は共存出来るのじゃ」
対立する緊張が同時に破られる。
「七尾が目覚め集えよ。蒼焔っ」
稲浪が唱えると、稲浪を覆う焔が数倍に膨れ上がり、焔の狐の中に狐へと姿を化した稲浪がいた。
「ほっほっほ、盛りがついた孫を相手にするは、まことに愉快よの」
稲浪が大きく口を開くと、纏う焔からも同じように焔が吐き出され、空狐へと伸びる。しかし、同時に空狐の神通力として防御壁の作用をする二つの透明に近い炎が空狐を守るように稲浪の焔に立ちふさぐように集まり、その向こうで空狐が空へ手を掲げていた。
青春大賞用更新作ユースウォーカーズを18日に更新します。
また、22日にはココクラを更新します。
青春大賞はそこそこのランクになっていますが、恐らく順位が変動することはないと思うので(投票下さった方、ありがとうございました(^^))、ユースウォーカーズを最終更新作として、今後は通常更新するかもしれません。
訂正追記。
18日と22日更新予定の上記作品を、仕事の都合により更新が3日づつ遅れます。
誠に申し訳ありませんが、ご理解とご協力をよろしくお願いします。