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一神抄.姉妹・ババ

予定より早い更新です。これで一神抄は終わりです。

次回よりやっと戦闘シーンがかけます(笑)

では、ご覧くださいませ。

 稲浪だけは周りの惨劇に驚きを見せ続けた。最初に俺たちが浮かべた顔をして。

 九稲さんの後をついていく。いつまでも変わらない惨状と刺激臭、目にさえ痛みを感じる粉塵は熱を帯びていた。

「このあたりで良いでしょう」

 足取りが止まる。俺の隣の稲浪は表情を崩さない。後ろに居る琴音さんとつばさ君は手を繋いでいた。周りは直接的な被害を受けては居ないけど、規制線に阻まれ無人街に果てている。昼間だってのに気味が悪いくらいに生暖かい風が吹いていた。

「姉上、どういうことなのじゃ? 何故ババ様がかようなこと犯すのじゃ?」

「落ち着きなさい、稲浪。順を追って説明するわ」

 振り返る九稲さんは、冗談などではない、真剣過ぎるほどに険しい顔つきだった。

「まず、隼斗さんはご存知でしょうが、私は稲浪の姉、妖狐が九稲と申します」

 九稲さんが琴音さんたちに頭を下げる。

「は、はい。私は藤川琴音です。こ、こっちは、私の神子の……」

「燕子つばさだ」

 つばさ君が名乗る。

「存じております。先日、東京よりこちらへ越されたそうですね」

「は、はい。で、でも、あ、あの、どうして……?」

 不思議だった。どうして九稲さんが琴音さんのことまで知っているんだ?

「私は稲浪とは異なり、全ての神子の所存を探知出来ます。詳細は良いでしょう。話を戻します」

 上手くはぐらかされ、それ以上何も聞くなと、九稲さんの表情に俺たちは押し黙った。

「先もお話した通り、この惨劇を引き起こした神子は、私たち狐の先代長の大伸狐空狐と申します」

「我らのババ様じゃ」

 稲浪が明朗に補足する。

「はい。空狐は狐族の神子にとってはババ様と崇められし存在で、その力は未だ健在なほどに強大なのです」

 きっとそうなんだろう。この現状を目の当たりにしては、嘘には思えない。

「しかし永年の時を持つ空狐の徳は尊く、己が念を失うほどではありません」

 長生きしてるのか。妖怪だから人間の寿命みたいなものは無いんだろうけど、ならどうして? と思う。

「それもNBSLによる神子という名の適応によるものです。本来、神子は適応を通し、人と物の怪との差を学びます。しかし、未調整の段階にて嵩天原島を出た神子は、物の怪としての自覚を改善しておりません。故に神子となりさらに力を増した物の怪は、程を知らぬ存在なのです」

「だからとて、ババ様は何故かようなことを仕出かす? これではただの殺戮に他ならぬではないか?」

 今、この場において稲浪以外は呆気に取られてる。と言うよりも、何のこっちゃ? って感じかも。

「それは分かりません。だからこそ、私はここにて空狐を待つのです」

「待つ? 何でだよ?」

 つばさ君が聞く。

「定めだからです」

 九稲さんは即答した。意味が分からないんだけど。

「ならば我もここにてババ様を待つ。姉上が居ると言うに、我が去っては白狐の名が廃ると言うものじゃ」

 はぁ。またそんな勝手に決めちゃってさ。少しは俺の身を案じてくれたりしないのか?

「そうしてどうするの、稲浪? 空狐とは言え、先代が長。稲浪一人の力で勝ることは不可能よ」

 九稲さんが言い切る。姉のことばだからか、稲浪は反論の代わりに言葉をのんだ。少し悔しげに。

「あ、あの、一つ、良いですか?」

 琴音さんが俺の隣に来る。

「その、先代と言うのは分かりましたが、その、今の代の、方も創世には……」

「無論、参戦されております」

 琴音さんの意味を言葉を区切って言う。琴音さんがトーンを落として肯いた。

「今の代の長って、誰なんですか?」

 ちょっと興味心をそそられて聞いてみた。

「今代が長は、名を(てん)()と申します」

「天狐? 色々いるんですね?」

 空狐に天狐、稲浪の白狐に九稲さんの妖狐。一体狐だけでどれくらい創世に参戦してるんだ?

「うむ。狐族が物の怪において名馳せし一族じゃ。他にも(せき)()黒狐(くろこ)(きん)()銀狐(ぎんこ)がおる」

「すげぇ。狐ってそんなにいんのかよ……」

 つばさ君も驚いてる。俺も驚いた。まさかそんなにいるなんて。

「ですが、狐族は大きく分け、三種にぞくしております。まず、(せん)()と区分されしが空狐と天狐。双方は一族が長となれし強大な力の持ち主です。次いで善狐と呼ばれますが、稲浪が申した狐たちに加え、私たちも属します」

「善狐である我らは不要なる悪を持たぬ。故に善いものじゃ」

 自慢げに稲浪が語る。まぁ悪い奴じゃないのは分かってるけど。

「そして、()()と呼ばれし区分に属するは、地狐と申す粗悪なる狐なのです」

「うむ。我は知らぬが地狐の噂は予てより有名じゃ」

 狐の中にもやっぱり悪いものもいるのか。人間と一緒なんだな、その辺は。

「創世において、地狐の参戦はありません。地狐は人世に生きるモノではないので、恐らく今も姿を眩ましていることでしょう」

「そ、そうなんですか……」

 なんだかよく分からないけど、悪い狐はいないっぽい。それならとりあえず一安心かも。

「でも、空狐って良い狐なんだろ? 未調整だからってやりすぎくらいは自覚ねぇの?」

 また鋭角にツッコムなぁ、つばさ君。感心するよ、その子供の無垢さってのには。

「空狐の嗜好は得てして善とは限りません。神たるものが善悪を両断し、在るものではありませんので、恐らく空狐は己が欲望に動いているのでしょう」

 破壊したい欲望に駆られての所業なのか? だったらめっちゃ恐いんだけど。そんな欲望に忠実に動いた結果が、これって、何?

「姉上よ。ババ様と謁してどうするのじゃ?」

「それは、私が定めを果たすのみ。この(くだん)においての詳細は明かせません」

 稲浪も頑固だけど、九稲さんもなかなかに頑固っぽいな。

「……ふむ。まぁ姉上のことじゃ。我が心配る必要もないのじゃろう」

「だからこそ、この場を去ることが神子と赫職が永らえることなのです」

 やっぱり俺たちを追い出したいみたいだ。心配してくれている表情なのは分かる。嘘には聞こえない。きっとまたここで何かが起こるのかもしれない。そんな危惧を教えてくれてるなら、従うことが一番。俺はそう考える。

「でも俺、その空狐ってのに会ってみたいな。狐の長なんだろ? そんなもん滅多に見れるもんじゃないよな?」

「つ、つーちゃんっ!?」

「我もババ様とは会したことはない。(もとい)、我は姉上よりが狐はみな知らぬ」

 知ってはいても、見たことはないのか。俺としてはこのまま会うこともない方が事なきを得る結果じゃないかと思うけど、神子二人はそうじゃないんだろうな。目、輝いてるし。

「ほっほっほ。そなに我が見たいとな? 誠に愉快よの、九尾が九稲?」

「っ!?」

 不意に響く声。九稲さんが殺気を帯びた鋭い視線で空を見上げ、風が止んだのに赤い髪が揺らめいた。

 眩すぎる焔が見えた。

「隼斗っ!」

「琴音ぇっ!」

 俺の前に稲浪が立った。琴音さんの前につばさ君が立った。

「つーちゃんっ!」

「稲浪っ!」

 琴音さんと俺も叫んだ。

「炎舞、(しょう)(しょう)

 灼熱の劫火。眼前に迫り来る橙色の焔。何が起きたのか分からなかった。気がついたら稲浪とつばさ君の神子が俺たちの前に立った。

「ほっほっほ。やりようようだの。さすがは九尾よ」

 でも俺たちは何もしなかった。稲浪とつばさ君の前に立っていた九稲さんが神楽を舞うようにその場で舞った。

「……随分なご挨拶ですね」

 すると俺たちの周囲に風のような焔の渦が多い尽くし、迫った炎を打ち消した。熱さは無かった。稲浪の青焔に近いものがあった。

「お怪我はありませんか?」

「うむ。姉上の焔に守られたぞ」

「す、すごい。一瞬であんなに出来るんですね……」

「かっけぇー……」

 各々の九稲さんを現す言葉。俺は綺麗だと思ってしまった。神子であり、まさしく巫女に見えた。

「うむ。手加減とやらはしてやった。ほんに挨拶と言うものよ」

 霧散した焔の向こうの空に、浮いていた。

「何故に舞い戻られたのです、大伸狐空狐」

「何じゃとっ!? ババ様となっ?」

「うえぇっ!?」

「あれ、が……?」

「う、そ……?」

 九稲さん以外、この場は驚きに満ちた。稲浪や九稲さんとは違う短髪。サイドヘアーが異様に長い。日本人のような黒髪に白い髪がメッシュのように混じっている。

「何故とな? 並びに揃う一族あらば、赴かぬわけにはいくまい?」

 俺は、稲浪がババ様って言うし、九稲さんも長って言っていたから、てっきりお婆さんかと思った。

「現長は天狐様です。貴女は既に引かれた身。創世へ加わりのこの所業。妖狐九稲、見過ごすには参りません」

 ゆっくりと空から降りてくる空狐。驚きが止まらない。

「子供じゃん」

「つ、つーちゃん……っ」

「ふぁぐっ」

 慌てて琴音さんがつばさ君の口を塞ぐ。

「す、すみませんっ」

「よいよい。我とて身の丈の程は解しておる」

 穏やかだった。つばさ君と差して変わらない風体の少女。どう考えても婆さんには見えない。呆気に取られて変な緊張が解けた。

「油断してはなりません。子供の様態と申しても我らを凌駕する焔の用手です」

 九稲さんは警戒を強めた。それを見た空狐が鼻で笑った。

「稲浪とやらよ」

 だが、言葉はない。あるのは稲浪を呼ぶ声だけ。

「ん? 我か?」

 稲浪が視線を微かに下げる。

「かわいい、かわいい、我が(そん)よ。ほんに良い良い」 

 何だ? いきなり稲浪を褒めた。

「何じゃ? 気に解せぬぞ」

 稲浪も首を傾げてる。いきなり褒められたって分からないよな、普通。

「ほんに良う育ったものよ。まことに愚かで醜きよ」

 声は子供のように高い。でも口調は不相応に年美いている。

「……何じゃと?」

 でも言葉は毒だった。稲浪の表情に怒の感情が沸く。

「その顔じゃ。その顔こそ我を走らせよる」

 比べ、空狐は愉快そうに笑う。少女のあどけない笑み。そうとしか見えない。

「我を蔑むか。我は誇り高き白狐稲浪なるぞ」

 卑下するものを許さない。稲浪の相変わらずの格好良い物言い。

「稲浪、下がりなさい。ここは私の場。稲浪に出る幕はないわ」

 だが、九稲さんがそれを左手を出し、制す。

「ほっほっほ。良い良い。我を楽しませるとあらば、姉妹して我に挑めよ」

 緊迫している。九稲さんと稲浪が空狐を睨む。でも空狐は笑顔。分からない。それが素直な感想。

「は、隼斗、さん」

 琴音さんが裾を引く。どうしたらいいのか分からない不安な顔だった。

「赫職藤川琴音、神子燕子つばさとやらよ。貴様らはどうするかえ? 我を楽しませるか? はてさて、逃げ出すか?」

 二人を置いて、その向こうにいる琴音さんたちを空狐が見る。笑顔なんだけど、無意識下に訴えてくる恐怖は何なんだ?

「戦う必要はありません。これは忠告ではなく命令です。お二方は直ちにこの場を去りなさい」

 振り返ることなく九稲さんの背中から声が通る。

「姉上の警告は絶対じゃ。つばさよ。琴音をつれ去れ。ババ様の神子力はつばさでは防げぬ」

 同族だから分かるんだろうか? 俺にはまるで分からないんだけど。

「つーちゃん、我侭はダメよ」

「お、うん……稲浪、大丈夫なんだよな?」

 空気に感じたんだろうな。

「無論じゃ。この場は我に任せよ」

「分かった。行こう、琴音」

 小さな手が琴音さんの人差し指から薬指の三本をとった。

「は、隼斗さん……」

「逃げてください。俺は稲浪がいるんで大丈夫です」

「急げ、琴音」

 つばさ君が先に俺を通り過ぎる。

「死ぬなよ、隼斗」

「ああ。琴音さんを頼むぞ」

 小さな風が琴音さんをつれて行く。

「なかなか良い度胸よの。しかし、つまらんな」

 振り返りはしなかった。つばさ君ならきっと大丈夫だと思ったから。

「え……っ?」

 何かが通り過ぎた。熱い風が二つ、俺の横を吹きぬけた。

「弱き神子に価値はない。散れ」

 怒の無情。

「つばさっ! 琴音っ!」

 稲浪が俺を向いて叫ぶ。青い焔が掠めた。

 

 ―――何が起きた?

 

「え?」

「なっ……!?」

 振り返る。つばさ君と琴音さんと一瞬目が合った、ように見えた。

「つばさぁっ! 琴音ぇっ!」

 背中に稲浪の大声が突き刺さった。














   〜FCE放送局〜



「皆さん、こんばんわ。またこのコーナーがやってまいりました。今回は長らく待ったゲストをおよびしております。では、どうぞ〜」

「うむ。呼ばれてきてみたが、何の様じゃ?」

「このコーナーではFCEの世界を皆様にお送りするコーナーなんですよ」

「そうなのか? して、主よ。何故般若の面などをしておるのじゃ?」

「大人の事情です」

「ふむ。まぁよい。我は何をすれば良いのじゃ?」

「そうですね、とりあえず自己紹介をして頂けますか?」

「自己紹介とな? うむ。聞けよ、見えぬ輩よ。我は狐族最強、白狐稲浪じゃ。赫職は風祭隼斗じゃ」

「仲が宜しいようですね、隼斗さんとは」

「無論じゃ。命約を交わせし赫職じゃ」

「では当然、夜の営みもお済なんですね?」

「夜の営み? 何じゃ、それは?」

「ご存知ない? そうでしたか。夜の営みと言うのはですね……」

「ふむ?」

 …………。

「…………と、言うのが定番ですね」

「なっ、あ、そ、それを、申すか?」

「はい。ですが、関係が深まると、殿方の……を……したり、稲浪さんの……を殿方に……して頂いたりと、奥が深いものなのですよ」

「……わ、我と、は、隼斗が……?」

「ごく一般的なことですよ?」

「な、なんとっ!? ま、誠なのじゃな?」

「はい。殿方ならば、稲浪さんのようにお綺麗な方に対しては特にそう思われているかもしれませんよ」

「むむ……は、隼斗が、わ、我に……」

「うふふ。稲浪さん、可愛いですね。私が殿方なら間違いなくそう思いますよ?」

「なっ、なな、何を申しておるのじゃっ。主は女子(おみなこ)じゃろうっ」

「私が殿方でしたらのお話ですよ。それくらいに稲浪さんは可愛らしいと言う事ですよ」

「うむ……複雑じゃ」

「うふふ。稲浪さんならきっと隼斗さんにぴったりの神子さんですよ」

「そ、それは当然じゃ。隼斗は我だけのものじゃ」

「あらあら。まぁ、愛らしい稲浪さんのご紹介はこの辺りにして、予告に移りましょう」

「そ、そうじゃ。して、予告とはどうなのじゃ?」

「はい。これは私がお送りします。次回FCEは絶体絶命のピンチっ!? 助けはない。術もない。圧倒的で絶対的な力。どうなる稲浪っ!? どうする稲浪っ!? をお送りします」

「……なんじゃ、それは?」

「お気になさらずに、ですっ。では、次回より皆様の待ち望んだ戦記らしい戦記に突入です」

「主よ。愛らしい声をしておるが、その面を外したほうが良いとみるぞ?」

「稲浪さんにはまだまだ早いです、私の素顔は」

「な、何じゃ。それはどういうことじゃ?」

「それでは次回もご覧くださいね〜」

「あ、こらっ、待たぬか…………」

 プツ……。

拝読ありがとうございました。

読まれた方はぜひ評価、感想をお願いします。感想等をして頂いた方には、こちらよりも貴作に評価をさせていただきたいと思います。まぁ、大したことは書けないですけど(苦笑)


次に更新する作品は、「ハウンと犬の解消記」です。

更新予定は当初の今作の予定日の六日です。

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