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一神抄.姉妹再会

更新します。もう少し一神抄は続きます。思った以上に長くなりそうなので、分割連載にします。おそらく次で一神抄は終わります。

「うっわー、めちゃくちゃじゃん」

 つばさ君の一言は純粋にして、明確だった。ニュース映像とはまるでの異世界。どこの戦場跡地に来てしまったのか。そう思わずにはいられない非現実の現実の中にいた。

「ひどい……」

 琴音さんもショックを隠しきれず、口を覆った。

「これは何者の仕業なのじゃ?」

 一方で稲浪だけは顔色一つ変えない。肝が据わってると言うか慣れてるのかもしれないけど、今の場では何かずれてるようにしか思えない。

「それを知ってどうするつもり?」

 九稲さんが質問に質問を返す。表情だけは真剣で険しさがある。

「無論、かような真似をする神子と一戦交えるのじゃ」

 強そうな相手だと稲浪は誰だろうと戦いたくなるのか。こっちはそんな気は全くないってのに。

「赫職の隼斗さんはそうでもないみたいよ」

 九稲さんに見透かされる。

「うぬ? 隼斗よ。ここへ来て尻込んでおるのか?」

「いや、そう言うわけじゃないけど……」

 この状況下で戦闘意欲を見出すなんて無理だ。でかいビルを丸ごと一棟破壊して、数百mの四車線道を炭に染め替えてる。街路樹も道路標識も爛れてるんだぞ。幾ら創世とは言え、こんな惨状を残した神子と戦うなんて、無理。

「闘う意思があると申されるのでしたら、私の知る限りの情報をお伝えします。ですが、この現状を見て、多少でも怖気を覚えられたのでしたら、ここから身を引くことを提案します」

 そんな俺の心情すらも見透かして、逃げるように九稲さんが見る。稲浪も綺麗だと思う。でも九稲さんはさらに顔立ちが凛として、大人の女性に見える。狐族は美人揃いなんだろうか。ちょっと稲浪の赫職になれて鼻が高い気がした。

「隼斗さん、やっぱり私たちなんかじゃ……」

 琴音さんが一歩後ろから周囲を見ながら九稲さんの意見に賛意を示す。現状は想像以上だった。専門時代にCGで制作した映像にも廃墟があった。でも所詮は映像。目の前にある瓦礫と散乱する会社の書類、机や椅子、パソコン、道に散乱しているものを撤去してる公安・消防組織の数が桁違いに多い。俺たちは明らかな場違い。琴音さんが周囲に覚えているわけは俺もよく分かる。

「えー? 闘わねぇの?」

 つばさ君の反応は琴音さんを驚かせるが、俺には何となく予想できた。

「そうじゃ。ここまで来て戻るなど神子として見過ごせはせぬ」

「だからと言って赫職への配慮不足は神子として失格ですよ、二人とも」

 九稲さんが二人を宥める。この人は実に話の分かる人と俺の中で印象づいた。

「それにこの現状を引き起こした神子は、NBSLより危険指定を受けた未調整神子なのです。創世だからと闇雲に闘うことは、すなわち己が短命を示唆するも同然です」

 早急に引き返しなさい。九稲さんは俺たちのみを案じて注告してくれてるのがよく分かる。

「ならば姉上。姉上は何故ここにおるのじゃ? 我らは足止めを食ろうた域に、何故姉上は容易く入れるのじゃ?」

 引き下がろうと決めかけた俺と琴音さんを他所に稲浪が食らいつく。

「私は役目があるから、ここにいるの。稲浪、あなたはもう一人ではないわ。そして燕子つばさ。貴方も未調整ね?」

 九稲さんが鋭さのある眼光を向ける。

「お、俺じゃないって。俺、飛行しか出来ないんだって」

 犯人と思ったのか、つばさ君が慌てて否定する。

「そう言うことではありません。貴方が未調整である以上、協定を結んでいる間柄であるとは言え、この罪を犯せし神子との対峙は絶対的不利があります。赫職と共に歩む道を選択するならば、時を経る前にここより去りなさい」

 稲浪の能力は把握している。だからきついことは言わない。だが、つばさ君は風体からして子供。そして未調整だという事実に、九稲さんは何かしらの危惧を感じたのか、問答無用の無調だった。美人に強く言われると言い返す気が湧かない。俺が言われているわけじゃないのに、俺が言われている気が強くした。

「何で俺だけなんだよ。稲浪がいるからだいじょーぶだって」

「つ、つーちゃん。やっぱりダメよ。つーちゃんはまだ闘えないんだから、ここは大人しく従おう?」

 琴音さんが優しく諭す。

「何言ってんだよ、琴音。もしここで俺たちが逃げたら、またこんなことが起こるんだぜ」

「うむ。つばさの言うことは最もじゃ」

 これ幸いと言わんばかりに稲浪が同調する。俺と琴音さんの顔が一緒だった。そして九稲さんも。

「これは遊戯ではない、戦闘という闘いよ。仮にも稲浪もつばさも神子であり、命約を交わした赫職のいる神子なのよ。そして、この(くだん)を引き起こせし神子との戦を勝ち抜いたところで、他の神子との創世に関与し手不利益を被る可能性は高い。創世とは誰が為に交わせし命を結ぶ選択。悔いなき終わりの存在を得てして早める必要はないのです」

 九稲さんの言葉に喧騒が遠のく。作業音はどこまでも響いているはずなのに、夏の真白な暑さに遠のく蝉時雨のように、俺たちの周りは九稲さんの放つ空気に包まれた。圧倒的な存在感。絶対的な不可侵の神の子。そう見えた。

「ふむ。姉上の申しは理解した。じゃが、我らは神子。不届きなる神子にならず、厄を起こす神子を野放しにせしめるは、人間との共存の災いに他ならぬ。我らが往くは光ある場。それを犯すやからを我は見捨てては置けぬ。姉上の言とはいえ、我は引き下がらぬぞ」

 俺は今すぐ帰りたいんだけど。そんなことを言ったところで、稲浪に叱責されるのが目に見えてる。わがままな狐だから。

「俺も。琴音を危ない目になんか遭わせたくない。これやったやつがこの辺にいるんならこっちから先にやっちまったほうが良いに決まってるだろ」

「つ、つーちゃん。だからね……?」

 琴音さんがつばさ君の肩を抱いて引き寄せる。

「我は白狐稲浪。狐なるもの汝が信を貫く通すが古が妖じゃ」

 稲浪の決意は固まっていた。俺は諦めていた。

「良いのですか? 神子を統制するは赫職が務めです」

 俺たちは一体今、何と対峙しているのか。稲浪のお姉さんである九稲さんのはずだ。でも、空気が違う。静粛なる審判の中にいるような遠いものがある。

「九稲さんなら分かりますよね? 稲浪のこと。俺には止められません。稲浪には多くの恩があります。それにこんな状況で俺が逃げることを稲浪が許してくれませんよ」

 たとえこの場を逃れたとしても、後が恐い。俺は稲浪には敵わない。言葉も態度も力も。

「それは私にも責任があります。ですが、宜しいのですか?」

 その問いには色々な想いが含まれているんだろう。優しさを感じた。だから俺は肯いた。だって、妹と一緒にいる男が俺。そのお姉さんにみっともない真似は見せたくない。それが稲浪に付き従う形でも、潔さで決めるしかなかった。

「……お二人が納得することを私には否定出来ません」

 言葉は折れても、態度は不変。渋々認めたという感じだ。ちょっと罪悪感が湧く。

「では、あなた方は?」

 稲浪の力を知ってるからこそ、九稲産はそれ以上何も言わなかった。

「わ、わたしは……」

「無理はしないで下さい。俺も恐いです。つばさ君の事を考えると余計だと思います」

「余計ってなんだよっ! 俺は大丈夫だって言ってるだろ! 平気だっての」

 頑なな少年の我儘。琴音さんの不安なんかまだ気づけない年頃なんだろうな。俺だって昔やんちゃだったし、つばさ君くらいの頃のことは何となく分かる。

「つ、つーちゃん……っ」

 琴音さんが止めに入るが、つばさ君は稲浪同様に頑固に闘う意思を告げる。

「……あなた方の思いは確かに受け止めました。ですが、私の見立てよりの真の言を言わせて頂きますと、今の稲浪および燕子つばさの能力では到底及びません」

 はっきりと言われると、逆に実感が湧かない。周囲は壊滅的状況だってのに。NBSLの職員だかだってわんさかといる。曖昧に言われるほうがこの状況下では事態を痛感しそうだ。

「あなた方にお教えしましょう。この厄災をもたらす神子を」

 九稲さんが居を正す。それはもう煮詰まった意見の先にある答えを与えるように。

「大府大阪が梅田曽根崎。ここを壊滅させた神子は、我らが狐族、大伸狐空狐です」

「な、何じゃとっ!?」

 俺と琴音さんとつばさ君は首をかしげた。人間の俺と琴音さんには分かるはずがない。翼君も空狐という狐という言葉に聞き覚えはないようだ。でも、稲浪だけは違った。驚きが誰よりも大きい。

「い、稲浪。知ってるのか?」

「知っておるも何も、空狐とは、我らがババ様じゃ」

「へ?」

 間が起きた。喧騒の中の一時の間。えっと、今稲浪は何と?

「お恥ずかしながら、これを引き起こしたのは私たち狐族の先代長狐なのです」

「え? えっと……?」

「どゆこと?」

 琴音さんとつばさ君も稲浪と九稲さんを見る。

「少し、場を変えてお話しましょう。ここは他の神子の気配がします。これは私たち妖狐族に纏わる話です。現状とは無縁ですので、どうぞこちらへ」

 詳しい話は別の場所で。そう九稲さんが俺たちに背を向け歩き出す。神社の神子さんのような装束は九稲さんの神子服なんだろう。色気よりも荘厳さに、ただついていくだけだった。

「まさか、これをババ様がしたとは……信じられぬ」

 稲浪だけは周りの惨劇に驚きを見せ続けた。最初に俺たちが浮かべた顔をして。


次回更新もまた暫く後になります。いつ頃かは提示できませんんで、他の作品の更新時に次回更新作を提示しますので、そのときにご確認をいただければ幸いです。

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