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十七神噺.静寂と匂い

更新です。

今回はアクションをそろそろ持ってこいとか思う人がいるかもしれませんが(私自身が書こうと思ってたんだけど(苦笑))、そう言う展開は次からにしました。


先に企画物と文学賞物、「if」と「Youth Walkers」を更新するつもりなので、次回更新日は7月4日くらいになります。

「お、おい、稲浪」 

 手を引く稲浪の力は、そこいらの女の子とは比にならない強さだった。

「待てって。さっきのこはくさんって……」

「隼斗。こはく殿は只者ではない。忠言を申したのであらば、我らは従うに越したことはないのじゃ。直に日も暮れる。我も意を解したわけではないが、ここは引いた方が良いのじゃ」

 稲浪にしてはやけに素直な反応だ。かえって疑問が大きくなる。

「なぁ稲浪。お前、今日何かあったのか?」

 そうとしか思えない。

「うむ。こはく殿は只者ではない。そう感じただけじゃ」

 只者じゃないって。俺には綺麗なお姉さんって感じしかしなかったけどなぁ。

「詳細は帰ってから話そう。我もあまり良い気がせぬのじゃ」

 駅に向かって歩く俺たちは、主に稲浪がだけど、人の注目を集めている。格好が格好ってことなんだろうけど、俺まで一緒に恥ずかしい。それでも稲浪が堂々と歩くもんだから、さらに困るんだ、これが。

「まぁ、ここでゆっくり話すのは俺も遠慮したいしな」

 奇抜な格好をしている人はいるにはいる。稲浪も恐らくその一人として見られているんだろうけど、中には俺たちみたいに、趣味とかそう言うものじゃなくて、創世の神子としての戦闘に特化した各神子の特徴を支援する神子服の可能性もないわけじゃない。稲浪が何も言わない以上、俺が分かるのは赫職の体のいずこかにある、俺の手にあるものと同じ赫職紋を探すことだけ。とは言ってもやはりこの人の波の中で一人一人を見ることは難しい。俺も手はポケットに入れたままだし、他の赫職も同じように隠しているはず。湊川先輩は別ものとして。

「じゃがの、隼斗」

「ん? どうした?」

 話が終わったものかと思っていたら、稲浪が腕を引いた。引き寄せられて腕が胸に当たる。やわらけぇとか思う前に、公衆の面前ではやっぱり恥ずかしい。

「あくまでも我の推測に過ぎんのじゃが、近いうちに強大な力が動くやもしれん」

 道往く人の顔は誰もが笑顔か無表情、覇気のない顔の三種類ばかり。その中で稲浪だけは真剣と言うか、表情を固くしていた。

「強大なって、亀甲さんみたいな、か?」

 四霊亀の亀甲さん。湊川先輩の神子で世界中の神子の中でも圧倒的な能力を有する人。のんびりと毒を吐くちょっと変わった人だけど、あの人のおかげで俺は助けられたのは事実。

「四霊とはまた別じゃ。と言うより四霊の力は今の我では対抗しうるものではない。あれはそう簡単に動きはせんじゃろう」

 どうやら違うらしい。俺としてはまだまだ知らないことが多いから、ちょっとした体験に合わせてその世界を知ることが出来ると言うか、それでしか分からないんだけど。

「じゃあ他のことなのか?」

「前に言うたことがあろう。この国には我も其の内である神子と、NBSLより遣わされし神子がおると」

「狗とか言ってた神子のことか?」

「うむ。四霊は無論じゃが、あやつらの力も別格じゃ。確証得るものはないが、我にはこはく殿の忠言に相賛ずるものを感じるのじゃ」

 人間の俺には分からないものを、稲浪は感じているのか。疑うものがない以上は、そのことに関しては間違いがない可能性はある。

「帰ったら琴音さんにも話したほうが良いな」

「うむ。じゃがあの二人は元より戦闘向きではない。故に出歩くようなことはせぬとは思うが」

 腕を組んだまま稲浪が言う。離す気はないんだろうな。これは単に稲浪がくっつきたいだけなのか、それとも感じる何かに対する不安のようなものを紛らわそうとしているのか、俺には判断が付かず、そのまま歩くしかない。

「それでも、琴音さんとつばさ君は仲間なんだから情報は共有したほうがいいだろ」

「あくまでも我の予感でしかないのじゃがの」

 稲浪が苦笑する。その苦笑すら綺麗なもんだと思う俺は、随分と絆されたんだろうか。

「俺は創世のことは稲浪の話と山田さんの冗談かどうか曖昧なことからしかよく分からないんだ。だから稲浪がそう思うなら信じるよ」

「隼斗……」

 じゃないと、またあんな目に遭ったら、次は助かる確約なんかありはしない。だから創世に関しては俺は稲浪が最も信頼の置ける人、いや神子なんだ。つーかもっと本音を言えば、稲浪を信用しないと俺が死ぬかもしれないって体現があったらなんだよな。

「だから、まだ力のないつばさ君の為にも俺たちがしっかりしないといけないだろ?」

「……そうじゃな。全く、我が赫職には感心させられてばかりじゃ」

 腕を組む力が強くなった。腕に感じる柔らかい感触に神経が集中した。

「それは俺の言葉だと思うぞ」

 稲浪には巻き込まれたこともあるけど、生活においては潤いと温もり、懐が厚くなった恩がある。その上俺の危機を助けてくれた。どう考えても俺が稲浪に言うべき言葉だと思う。

「いや、これは我の言葉じゃ。我の言葉は我のものじゃ。誰のものでもない」

 かっけぇ。とか思った。

「なら、俺にも言葉はあるぞ」

 そこでちょっとした対抗心のようなものが燃えた。稲浪が俺を少し見上げる。綺麗な目だよなぁとかつい見惚れそうになる。

「稲浪が来てくれて、俺はほんとに感謝してる。退屈で何もなかった生活が楽しくなった」

 それは事実だ。無意味に明日を迎える為だけに生きている俺の前に現れた、あまりにも俺には不釣合いな美しさを持つ稲浪。専門の頃に学んだものが、今目の前で現実としたある。それは恐怖であり、混乱であり、不安であり、楽しい。

「ふむ、ならば良い。これもまた巡り合わせの賜物じゃ」

 ふふっ、と稲浪が笑った。俺を見ずに夕陽に顔を赤くして歩き去る人間の行き交う前を見ながら。

「自演したのも賜物なのか?」

「あれは姉上の仕業じゃ。我は何もしておらん」

 そこはお姉さんのせいと言うことは変える気はないのか。俺にしてみればどっちもどっちなんだけど。

「あ、おかえりなさい、隼斗さん」

「琴音さん。今からお出かけですか?」

 電車を降り、家に向かって歩いてたらマンションの階段で琴音さんとつばさ君がいた。

「はい、ちょっとお夕飯の買い物に」

 陽は随分と落ちた。一番星が煌めいている。稲浪とこはくさんの言葉を思うと、どうするべきか少し躊躇った。

「うむ。往くはあそこじゃろう?」

「? そうですよ」

 階段の先から稲浪が指す、俺がいつも利用するスーパー。そっからそこだ。

「何だよ? なんかあんのかよ?」

 つばさ君が相変わらずまだ少しふてくされたように見てくる。

「この辺りならば影響はないじゃろうが、夜間の外出は抑えよ」

 俺の代わりに稲浪が簡潔に言う。ほんとに凛々しい奴だよ。

「どういうこと、ですか?」

 琴音さんが首を傾げる。

「神子、か?」

 勘づいたつばさ君が言う。やっぱり神子には神子なりの勘のような本能でもあるのか?

「それはまだはっきり分からないんですけど、稲浪と俺の知り合いの人がそう言うので」

 間違いはない。と思うことにしている。

「知り合い、ですか? と言うことは隼斗さんは他にもこのことをご存知の方が?」

 琴音さんの疑問の声に、俺ははっとした。

「そう言えば、そうだ……」

 何でこはくさんは俺と稲浪にあんなことを言い残したんだ? 俺は創世のことなんか言ってない。

「稲浪、お前もしかして喋った?」

「何を言う。機密は我とて守る」

 馬鹿を申せ、と稲浪が言う。そうだよな。こいつ何気に危ないことはあるけど、確信は言わないよな。

「どういうことですか?」

「何だよ、俺にも分かるように言えよ」

 琴音さんとつばさ君が不思議そうな目で見てくる。

「あ、いえ。なんと言えば良いのか……」

 正直なところ、こはくさんに関して知ってることは少ない。太陽の丘という孤児院の園長をしていて、綺麗で優しい人。それくらいだ。

「今は何とも言えぬ。我もあくまでと言うわずかの可能性でしか感ずるに至っておらぬ。詳細は追って伝えよう。今はこの忠告を片隅においておくが無難と言うものじゃ」

「はぁ……」

「わけわかんねぇけど、分かった。夜に出かけなけりゃ良いんだろ?」

「うむ。今は神子の活動も感じられぬ。ならば今のうちに要件を済ませておくと良い」

 稲浪がそう言うなら安心なんだろうな。

「はい。では足早に買い物は済ませます。行こう、つーちゃん」

「うん。じゃあな」

 俺たちの横を抜けて二人がマンションから出て行く。別に大したことじゃないんだけど、今日は夕飯は一緒じゃないのかと、ちょっと残念だった。

「隼斗よ。我らも夕餉の支度じゃ」

 稲浪に急かされ部屋に戻る。支度と言いつつも、結局稲浪は料理は出来ぬと食器を出すだけを手伝った。それって手伝いって言えるのか分からないけど、まぁ片付けも手伝ってくれたから良しとする夜だった。

「なぁ稲浪」

「なんじゃ?」

 夕食後、入浴を済ませ、休憩を挟んで寝る。いつもの繰り返しなのに風呂上りの稲浪の色っぽさにはまだ慣れなかった。

「お前、今日何したんだ?」

「こはく殿の下でのことか?」

「ああ」

 そして就寝。稲浪が歯を磨いている最中に部屋に布団を敷いといたんだけど、入れ替わりに俺が歯を磨いて部屋に戻ると、その布団がなくなってた。そして俺のベッドには稲浪がいた。まぁ予想してなかったわけじゃない。形式として、モラルとして一応の策を講じた。それを稲浪は見事に打ち払った。

「そうじゃな。我がしたのは、まずは清掃じゃ」

「掃除?」

「うむ。こはく殿曰く、掃除は全てを整理し始まりをもたらす行い、だそうじゃ」

 勉強になったぞ、とどこか自慢げにトイレからリビングを掃除したことを俺に話す。その様子は俺と横になって、広がった髪から甘い香りが漂い頬に垂れる稲浪の顔が俺を誘っているようにしか見えない。感じる温もりすら妖艶だ。でも、言葉は幼い子供のように弾む声色で、妙に自制心を働かせる。

「他には?」

「斉人と此芽と共に荷解きも手伝ったぞ」

「また荷解きか。稲浪って何気にそう言う仕事多いな」

 琴音さんの時といい、今日のことといい、稲浪には俺と同じ引越し業務の一つの荷解きをする定めでもあるのか?

「その後は昼餉を囲み、花壇に花を植えたな。花が咲くのは春じゃそうじゃ。色とりどりで綺麗な花が咲くと言うておった」

「そっか。ならその時に見に行かないとな」

「うむ。じゃが、こはく殿には他にも習うたこともある。いや、見透かされたようなものを感じたのじゃ」

「ん? 見透かされたって?」

 稲浪の表情と声色が相応に戻る。もぞもぞと動き、稲浪がうつぶせになり、枕を抱きかかえるようにして俺を見る。三段階の小照ライトがついているから稲浪が妙に色気を帯びて、うつ伏せでベッドのマットに押し付けられる裸体が布団に曲線を帯びさせ、ネグリジェ姿のせいで形の分かる乳房が押しつぶされて、思わず視線が何度も稲浪の顔と行き来してしまった。ダメだ、俺。こんな美人を横にしてはしたないことしか考えてない。

「なんと言うべきなのかの。こはく殿はどこか姉上のような匂いがするのじゃ」

「匂い? お姉さんと同じ?」

 ごまかす為に稲浪を見ないで天井を見る。けど美しく艶かしい体温と香りだけは遮れない。

「何とも言えぬは誠じゃ。じゃが、こはく殿にはどうも神子として反応するものを感じるのじゃ」

「それって、こはくさんが神子ってことか?」

 どう見てもそんな雰囲気はないし、神子としての稲浪にあるような紋も見られなかった。

「それは分からぬ。今分かるは只者ではないということだけじゃ」

「何だそれ?」

 思わず苦笑がもれた。どう考えてもあの人は綺麗な女性だ。落ち着いていて穏やかで、俺が巻き込まれているような非現実な世界なんか知らなくて、孤児の為に宿りの家を構え、安息をもたらしている、強いて言えば聖母のような印象しかない。

「人間にはない、じゃが我らにはある特異の雰囲気を感じるのじゃ」

 稲浪の言うことはよく分からない。稲浪も俺に伝わらないから、どう説明すれば良いのか分からないようで、何度か小さく唸った。

「とにかく、我が居ぬ間にこはく殿には不用意に近づかぬことが無難なのじゃ」

 良いか? と稲浪が顔を寄せてくる。それに合わせて足にスッと稲浪の足が触れる。思わぬ温もりに脈動が強くなる。

「いや、別にこはくさんはそんな人じゃないって。人を疑うのは大事かも知んないけど、あんまり失礼な態度は取るなよ」

「そのようなことは承知しておる。じゃが隼斗。主は先日のことを忘れたわけではあるまいな? 警戒を怠るはすなわち、命を捨てたも同然ぞ」

「うっ……痛いところを」

 先日の騒動。そのことに関しては素直に聞き入れるしかない。

「良いか隼斗。隼斗は軽視しすぎておる。神子による創世は甘いものではないのじゃぞ」

 稲浪が頬に垂れる髪を掻き揚げる、いちいち色っぽくて話が半分ほど聞こえない。

「隼斗の神子は我だけじゃ。他の九十九の神子は全て隼斗の命をも狙うのじゃぞ」

「いや、つばさ君は違うだろ」

「今でこそじゃ。出会いこそ違えば、琴音とは敵対に解するところじゃったのじゃぞ」

「そりゃぁ、まぁ……」

 言われてみればそうなんだよな。つばさ君の赫職が琴音さんじゃなくて、この前のあの男みたいな奴だったら、確実に稲浪は手に掛けたはずだもんな。

「じゃからこそじゃ。疑わしきは()する前に距離をとれ、じゃ」

 ふふん、と良いことを言ったように稲浪に笑みが浮かぶ。ほんと何人だよお前とか思う。

「気をつけるよ。稲浪がここまで心配してくれてるんだし」

「なっ、何を当たり前のことをゆうておるのじゃっ。我は隼斗が神子。赫職こそが我が御霊も同然なのじゃ」

 薄暗くても分かる稲浪の紅潮は可愛いと思うのと同時に愛くるしかった。

「明日はどうする?」

「こはく殿の下、と言いたい所じゃが、我はまだ人間社会を垣間見ておらぬ。隼斗について往くぞ」

「えっ? それはちょっと……」

「何じゃ? 我が同行するは不満か?」

 さっきの愛くるしさはどこへやら。稲浪の顔が近くで俺を威嚇してくる。

「なんて言うかな……ちょっと、まずいかも」

 今の話を聞いていると、稲浪を仕事場に連れてきたらどういうことになるのか、何となく予想がついてしまう今が嫌だった。

「何がまずいのじゃ?」

 何も知らないからこその無垢なる疑問の瞳を見返せない。だって、仕事場には湊川先輩が居るし、この前助けてもらった亀甲さんは先輩の神子らしいし、亀甲産の話を聞いているともう一人先輩は神子と命約を交わしてるっぽい。もしそれが稲浪に知られたら、俺は何を言われるものか。きっと怒られる。稲浪に怒られるのって恐いんだよな。外人に怒られてる感覚しかないし。

「いや、まぁ稲浪には関係ないから」

 思いっきり関係ある。つーか、稲浪を連れて行けば創生のことは先輩も知ってるけど、俺を敵視しないって言ってるから、それは少しは信じてるけど、それ以上に稲浪は白狐だけど、見た目はどう見ても女。それもかなりの美人。そうなると会社の人たちはともかく、先輩が一番厄介だ。

「我に関係なきことなら、我が同行したところで問題はなかろう?」

「あ、いや、関係ある、かな?」

 思わず口が滑った。否みに思い留まってもらおうと思ったのに、そこを突くとは。

「怪しいのぉ。何を隠しておる? 赫職と神子は一心双体。体は(たが)えど心は一つ。我への隠は隼斗への不信になるのじゃぞ」

 つまり、包み隠さず話せと? じゃなければ稲浪は俺を信用しないと? なんと言うか子供の駄々みたいだな。

「まぁそんなに言うなら来てみるか? 俺は勧めないぞ」

「構わぬ。我は往くと決めたのじゃ」

 俺が折れた。稲浪のこの状態での我儘が、正直俺にはいつもの稲浪よりも愛おしさを感じてしまった。ダメだな俺。

「でも明日も現場だから、ついてくるのは事務所までだからな。作業は契約で人数決まってるんだ」

「ふむ。その間は我は町を流浪でもするとしよう」

「流浪って……」

 俺は隣でふさふさサラサラの好い匂いの髪に包まれて目を閉じる稲浪に、不安が脳裏を過ぎって、なかなか寝付けなかった。







 〜次回予告〜



「はぁい、みんな。あたしのこと覚えてる? つーか覚えてるわけないわよねぇ……」

「あらあら、いきなり暗い顔ですね。どうかしましたか?」

「誰よ、あんた。あたしはね、この前金髪狐にやられたのよ」

「もしかして稲浪さんですか?」

「そうよっ! って、何であんたが知ってるのよ?」

「うふふっ、何となくです」

「何となくねぇ。ま、良いけど。つーかさ、あの狐もそうだけど、亀よ亀。馬鹿じゃないの、あれ」

「亀、ですか?」

「あんたも知らないのね。なら忠告しといてあげる。どうせあたしなんて創世から外されたんだし、あとは嵩天原に戻らされるんだもん……」

「あらあら、そう落ち込まないで下さい。あなたはお強いじゃないですか」

「亀に傷一つ付けられなかったのに? 狐の火にあたしの土竜は打ち砕かれたのに?」

「…………」

「ほぉら見なさい。良いのよ、別に。どうせあたしなんて掴みの為に駆り出されたキャラなのよ。名前しか出てこないようなキャラじゃない分いくらもマシよ」

「随分捻くれてますね……。とりあえず、ここはそう言う場ではありませんから、元気を出していきましょう?」

「そうね。て言うかさぁ、何であたしがここに居るわけ? あたし回収されたのにさ」

「だからじゃないですか? 創世中の神子は赫職様と行動を共にしなければなりませんし、単独の神子は生き残る為に下手な行動は取れませんし」

「……つまり、敗者に与えられたせめてもの時間って感じ?」

「端的に言ってしまえば、そうですね」

「……何よ何よ。つまりあたしは敗者のレッテルを公にされた哀れな神子なだけじゃないっ! ……負けたのは負けたけどさ」

「まぁまぁ。そう気を落とさないで下さい」

「……あんたも負けたの?」

「いいえ」

「は?」

「いえ、ですから、私は敗者ではありません。マスターに頼まれてここにいるだけですから」

「…………」

「さて、話が脱線してしまいましたが、そろそろ次回予告をしましょうか」

「ちょっ、ちょっと、待ちなさいよ。それ、どういうことよ?」

「次回、いよいよ皆さんお待ちかねのあの方が稲浪さんと隼斗君の前に登場するようです」

「ちょっ、それあたしの台詞じゃないっ! ってかADっ! 何であたしがあの狐のことをいわないといけないのよっ!」

「ですから私があなたを思って代弁したのですけれど……」

「それ単にあたしの出番減らしてるだけじゃないのよっ!」

「では、ご自身でこれ、お読みになられます?」

「んなもん嫌に決まってるでしょっ!」

「我儘な方ですね……」

「何がよっ! あんたはどうせ闘いもせずに逃げて隠れてるだけでしょ? だから負けない。勝てない。倒せない。倒さない。のないない尽くしであたしのことをあざ笑ってんでしょっ。これだから戦わずの神子は嫌いなのよ。そんなんだったらさっさと嵩天原に帰りゃいいじゃない。何しに来たってのよ、この弱虫」

「……黙りなさい、下級神子が」

「へ?」

「……神子は闘うことに疑問を持たず、戦うことに意義を見出している以上、勝者であろうと敗者であろうとそれは愚者でしかないのです。愚者の貴女に言われる筋合いはありませんよ。言葉を慎みなさい。位を弁えなさい。私を誰と心得ているのです?」

「え? ちょっ、な、何よ、急に……」

「あなたに愚弄されるのは甚だ心外です。私も随分と舐められたものを覚えておきましょう」

「え? それ、どう言う意味よ? ちょっとちょっとAD、何者なのよ、こいつって」

 …………。

「はぁぁっ!? ちょっ、な、何でこんなとこにいんのよっ! つーか、あんたのカンペのおかげであたしすっごい失言しまくりじゃないのよっ! 馬鹿じゃないのあんたっ!」

「良いのですよ。あなたがそこまで言うのでしたら、お見せしましょう、私の神火(しんび)を」

「え? あ、ちょっと、ま、待ちなさいって、っていや、待ってくださいっ!」

 …………。

「うわぁ、ちょっとやばいんじゃないの、これってさぁ。AD、あんた何てことしてくれたのよっ! あたし人間界に戻れないから知らないわよっ! ちょっとカメラっ! あんたもいつまで映してんのよっ! こんなの放送したらあんた埋めるわよ。じゃあテープはどうしろって? んなもんさっさと捨てろ馬鹿っ!」

 …………。

「あ〜ぁ、なんかやばいことにならないと良いと言うか、あのお方の餌食になる神子の為にも、ゆっくり休める穴倉でも作っててあげるかな。えっと、そんなわけであたしには無関係だから、何かあってもあたしを責めないでよ。んじゃねっ! 人間界はなかなか楽しかったわよ.

それから啓一。……って、どうせ覚えてない、わね。……いいわ、やっぱり最後のは無しっ。ほら、さっさとカメラ止めて撤収よ撤収」


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