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マジカル・サイエンス  作者: ぜんまい山
確立
9/9

8

勇は夕食としてこの街では贅沢とされる具がたっぷり入ったスープと柔らかいパンと肉を食べていた。


人付き合いが得意ではない彼は一人で食事を済ませるのが常であったが、今夜はそんなことも気にならない豪華なメニューである。


「おい、ちっこいの。今夜はやたら豪華な飯くってるじゃねえか」


声をかけてきたのは日雇いの頃少し話したことのある男であった。

名前も知らない男だったが、話しかけられたら無視しない程度には親しかった。


「労働に対する正当な報酬さ」


「はあ? お前最近いないじゃねえか」


「別の所で働いてるんだよ」


いつの間にか目の前に座り込んでいた男と話し込んでしまい、隠そうと思っていた勇か狩りをしている事実は白日の元に晒されてしまった。

男はしばらく考え込むような仕草をしたあとこう言った。


「俺も狩りに連れてってくれよ」


冗談じゃない、と断ろうとした勇だったが、そこまで悪い話ではないかもしれないと思い止まった。


人手が増えることの利点は明らかであったからだ。しかし、あくまでこの男とは顔見知り程度の関係だ。

裏切り等のリスクを考慮してなお彼を同行させるほどの有益な何かを持っているか。

勇は率直に男に尋ねた。


「何かできることある? 剣とか、弓とか、魔法とか」


「弓は無理だ。剣は手慰み程度には使える。魔法は……使えたらこんなとこにはいねえだろうな」


勇もこの男が魔法使いだ等とは毛ほども思っていなかったが、手慰み程度というのが怪しいように思えた。


はっきり言って信用は出来ない。

しかしメリットも捨てがたい……。

悩んだ結果、とりあえず一回一緒に行ってみるという結論に至った。


獲物の取り分も7:3にする、勇の言うことを必ず聞く、といった細かい条件を男は快諾した。自信家だな、と思った所で勇は男の名前を忘れ去っていることに気づいた。


「あのさ、悪いんだけど……名前なんだったっけ」


「おいおい、忘れちまったのか? マックールだよ。」


男――マックールに気を害した様子が無いことに勇は安堵した。

微妙に小心者の勇は筋骨隆々の大男マックールに圧倒されていたのだ。気を取り直して勇は実務的な会話を始めた。

明日の予定のことであり、早朝に門に集合することとなった。


少々の問題もあった。マックールが武器になるものを何一つ持っていないというのだ。

良く狩りについてくるとか言えたな、とは言わず勇は多少考えたが特に妙案は浮かばず結局マックールは素手で街の外に出ることになった。


荷物持ち兼見張りの自分に武器はいらぬと豪語するマックールに勇は彼の命知らずさを上方修正する必要に迫られたのだった。

翌日の早朝、予定通りに勇とマックールは門の前に集合していた。


「よし、じゃあ……いくか」


「おう」


マックールは勇の見慣れないクロスボウに多少興味を引かれた様子だったが、それに気づかない振りをして出発した。

勇は何時ものようにすいすいと狩場に向かっていったがマックールは崖に向かって走っていく人間を見るような顔を勇に向けてこう言った。


「お前……いつもこうなのか?」


勇が頷くとマックールは頭を抱えた。


「魔物のこと知らない訳じゃないだろ」


「知ってるけど。大丈夫だろ、多分」


いつぞや以来魔物の気配すら感じたことの無い勇にとっては魔物など空想の産物に等しいものであった。


しかし現地人であり、実際に魔物の脅威を肌で感じているマックールにとっては恐ろしいほどの無謀に見えたに違いない。


「そんなことしてると早死にするぞ」


勇は気を付けるよ、と返事するだけだった。


「そんなことよりあれ、いけそうじゃないか?」


勇は鹿もどきを指差してマックールに呼び掛けた。マックールは周りを見渡し、頷いた。クロスボウを取りだし、腹這いになって構える。


あ、二脚作れば良かった、とふと思ったが頭を降って雑念を追い出し鹿もどきを睨み付けた。呼吸を整え――射った。


「外れたな」


マックールは結構厳しかった。釈然としないまま勇は次の獲物を探し始めた。歩き回ること30分ほど、勇達はお目当てのものを見つけた。


あてる、と口の中で呟き狙いを定め一射。

今回は運命の女神は勇に微笑んだようである。近づいて確認すると、この前しとめた角つき兎のようであった。


したり顔でマックールの方に振り向いたが、マックールは特に感銘を受けなかったらしく早く入れろよ、と袋を差し出してきた。


謎の敗北感を感じながら兎を袋に乱雑に突っ込み、狩りを続行した。結局昼まで続けたが、収穫は無かった。どうも女神は移り気なようである。


「今日はこの位にしとくか」


引き際を心得たマックールに勇は不承不承従い、街へ歩を向けた。

いつの間にかマックールに主導権が移っていることは考えないようにした。

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