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短編小説【問題文】

作者: ぐるん

問題文 



「始め!」

現代文の教師の合図と共に、教室にけたたましくペン先と紙が触れ合う音が鳴り始めた。高校一年、第一回定期テストの二時間目の科目、「現代文」が始まったのだ。素早く問題用紙を捲り、問題文に目を通す。問1は漢字の読み書きの問題。範囲になっていた漢字を良く勉強していたので、スラスラ解くことができた。難なく漢字をクリアした僕は問2の小説の問題を解き始める。…と、その問題文を読んでいて、僕はとても不思議な感覚を覚えた。この話を前に読んだことがあるような、ないような。その感覚の正体は、物語を読み進めるにつれ明らかになっていった。小説の内容はこうだった。

―あるところにタケル君という小学校二年生の男の子が居て、学校帰りに友達と行った駄菓子屋で友達に唆されて万引きをしてしまう。彼は家に帰ってその駄菓子を食べたのだが、罪悪感からその菓子を吐いてしまい、そのことを母親に心配され病院に行くよう言われるが、万引きが原因だとバレるのが怖くて断固拒否する―

テストの問題文なのでここできられていて、話は最後まで書かれていない。しかし、僕はこの話の結末を知っていた。何故なら、この話は僕が小学校二年生の時に体験した出来事と全く同じものだったからだ。僕の名前は白川徹なので名前は一致しないが、出来事は完全に一致している。ちなみに、話の結末はかなり恥ずかしいものなので思い出したくはない。

(こんな事ってあるんだな…)

僕は少しゾッとしつつ、心の中でそう呟いた。驚いたことに、その場面で描かれているタケル君の気持ちまで僕の当時抱いた感情と同じなのだ。…でも、きっとこれは僕の経験と似ただけの小説だ。僕はそう自分に言い聞かせると、時間がかなり経っていたことに気づき慌てて問題を解く作業に戻った。

 何日か後に、そのテストが帰ってきた。先生には物語文の出来がかなり良くなっていると褒められた。それもそのはず、僕はその小説の内容と同じことを同じ時期に経験しているのだから、「この時のタケル君の気持ちを答えなさい」だとか、「何故、タケル君は下線部1のような行動をとったのですか」というような問題が解けないはずがない。僕は喜んでいいのか分からないまま小さく会釈しテストを受け取ると、自分の席に戻って一問だけ間違えていた漢字のことを悔やんだ。

 一ヶ月後、進研模試があった。その国語のテスト中、僕は先月の出来事を思い出し、一瞬、物語文のページを開くのを躊躇った。…何を躊躇っているんだ、馬鹿馬鹿しい。僕はそう思い直して物語文のページを開いた。小説の内容はこうだった。

―小学校五年生になりたての鈴木啓太は、何か運動をしたいということでミニバスケットボール部に所属することになった。そして彼はそのミニバスケットボール部で仲良くなった竹下美香に恋をする。その関係は順調に進んだと思われたのだが、美香と仲良くなるに連れ啓太は彼女に違和感を覚え始める。そしてある休日、街で社会人と思しき男性にお金を貰ってホテルに入る美香を偶然見かけてしまい…―

読み終わった僕は、床にペンを落としていた。何人かがそれに注目したが、僕はそれどころではなかった。僕は小学校五年生の時、同じ体験をしていた。

「君、大丈夫かね?」

試験監督の先生が僕を心配そうに覗き込む。僕はハッと我に帰ると、大丈夫ですと言って先生からペンを受け取った。

 二ヶ月後、今度は校内実力テストがあった。僕は現代文のテストを受けるのが気味が悪くて嫌だったが、そうも言っていられず問題用紙に目を通した。小説の内容はこうだった。

―中学校二年生の夏、部屋に一人だった主人公の安藤邦夫は、部屋に蜘蛛がいるのを見つけ退治しようとする。しかし、ここは元々草原で、そこに後から僕たちが家を建てた。ならば後から来た僕には蜘蛛を追い出す権利など無いのではないだろうか。そう思い殺すことが出来なくなって―

「結局庭に逃がしたんだっけ」

僕は思わず小さく口に出してしまった。テスト中の静かな教室から冷たい視線がいくつか浴びせられる。僕は恥ずかしくなり俯くと、この現象を理解しようと必死に頭を巡らせていた。今回もやはり僕が中学校二年生の時に経験した出来事だったのだ。誰かの悪戯だろうか?しかしそれにしては大掛かりすぎる。それに、蜘蛛のことは誰にも話していないから他人に知られようがない。

僕は国語の問題文が怖くなっていた。現代文の先生が何か企んでいるのだろうか?いや、進研模試でも僕の体験が出てきたからそれはない…。

「はい、それでは時間です」

僕は試験監督の声にビクッと過剰反応すると、慌てて記号問題をカンで書いて出した。僕は考えを巡らせすぎて、問題を解くことを忘れていた。

 それから三ヶ月後、再び定期テストがやってきた。しかし、僕は今回の国語の問題文に対して、恐怖よりも期待が高まっていた。何故なら、僕はある法則を見つけたからだ。

はじめに僕の過去の出来事について書かれたのが小学校二年生のこと。次に小学校五年生、そして中学校二年生。そう考えているうちに、僕は三年おきに起こったことが書かれていることに気づいた。つまり、理論上は今度は中学校二年生に三年を足した高校二年生のことが書かれることになる。僕は今高校一年生。つまり、未来のことを知ることが出来るかもしれないのだ。

「では始め!」

待ちに待った開始の合図。僕は恐らくこの教室の誰よりも緊張しながら問題文を捲っていただろう。漢字の問題など解いている場合ではない。僕は問1そっちのけで期待と恐怖で震える手を抑え、小説のページへと進んだ。







何度目を凝らしても、そこには何も書かれていなかった。




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― 新着の感想 ―
[良い点] 物語の発想がとても面白かったです。三回のテストによって僕の現代文の小説に対する疑惑が確信に変わり、確信が期待に変わる様子はとても上手に表現できていたと思います。 オチに関しても、問題が白紙…
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