2月12日(朝)
路地を後にした僕はひとまず自宅に戻った。
理由は二つある。一つは今日学校で使う教科書やノートの入った鞄を家に置き忘れていたという理由。もう一つは血塗れのシャツを着替えなければならないという理由だ。
僕の高校では私服通学が許可されていたが、だからと言って血塗れのシャツで登校するつもりはない。どんなパンクロックだ。
と、いうわけで。
帰宅した僕は、服を着替えるついでに朝風呂に入ることにした。服を脱ぎ、一瞬だけ迷ってから全部ゴミ箱に捨てる。黒く変色した血液は洗濯しても落ちそうになかったからだ。
脱衣所の鏡に僕の裸身が映る。少なくとも10箇所は刺されたはずだが、僕の身体には傷ひとつない。
僕が自分の特異体質に気付いたのは8年前のことだった。
父の運転する車が高速道路で事故にあった。父と、同乗していた母は車と一緒に潰されて即死。僕も、ひしゃげた座席と座席の間に挟まれて全身裂傷、複雑骨折、内臓破裂、脊椎損傷、脳挫傷の大怪我を負った。普通なら死亡を通り越して人間から肉塊へのクラスチェンジを果たしているレベルのダメージを受けて、それでも僕は死んでいなかった。
あのときの感覚は今も忘れられない。
自分という存在が一度完全に崩壊し、再構築されていく感覚。時計の逆回しのようにして身体がもとの健康な状態に戻っていく。
レスキューが到着した頃には僕の身体は完全に修復されており、事故は死者二名、奇跡的無傷の生存者一名として処理された。
どういうわけかわからないが、僕には死亡、もしくはそれに匹敵する怪我を負うと自動で修復される特殊能力が備わっていたらしい。
だが、しかし、だ。
そんな人外的超特殊能力にも関わらず、僕の人生は(両親の死を除けば)平々凡々たるものだった。両親の死後は親戚に引き取られ、それなりに満ち足りた生活を送ってきたし、高校進学以降は両親の保険金をやりくりしながら、高校の近くにあるマンションで一人暮らしをしている。これといって不思議なことも異常なこともない。
かくして、僕が死から蘇生するのはこれが二回目。正直今かなり興奮している。子供の頃のアレは夢じゃなかったんだなーと。
しかし、だとすれば僕は一体なんなのだろう。漫画やアニメで蘇生能力といえば吸血鬼か人造人間と相場が決まっているが、僕はそのどちらでもない(多分)。両親がいればその辺確認とれたのだろうけど、あいにく既に死んでいる。あ、死んでいるってことは両親はこの能力持ってなかったってことだな。だとすると吸血鬼のセンは薄いか?
「まあいいや、今は」
そんなことより早く風呂に入らないと。
授業に遅刻してしまう。