依代は何?
「パスワードは1914っと……ん、変わっとらん」
「やっぱり、司書の石垣の好きな本の初版年だな。あいつ、図書館来る度にこの本のこと話してきやがる」
「うちの小学校は建立記念日の日付だったのに……」
つか宮内先輩なんで初版年なんて覚えてんの恐い。これが頭が良い人と凡人の格差か?
なにかぞっとするものを感じつつも、岩窟王を検索する八雲先輩の横に立つ。
そして十秒後、思ったよりあっさりと結果は出たらしい。
「……はあああぁぁぁあ?!あいつが?!」
「うわっ?!」
突然叫んだと思えば、頭を抱えてぶつぶつ言い出す八雲先輩から約数メートル距離をとる。
勿論、リオと宮内先輩も。
「せんぱーい、結果はー?」
「ちょっ、なんでお前ら全員そんな遠いん?!」
『いやー余りにも雰囲気が、ねえ……?』
リオにも白い目で見られるとは何事……。
宮内先輩はカウンターへ近付くと、酷いわーと泣き真似をする八雲先輩には目もくれずに岩窟王を借りている生徒の名前を読み上げた。
「中等部3年B組猫屋敷伊織……って、おい」
宮内先輩がじとっとした目で八雲先輩を睨んだ。
「あんたのクラスメートじゃねえか
。しかも俺、この人の話何度かあんたから聞いたことあんだけど」
「確かにあいつ無類の読書好きやけど……そういえば、最近海外の小説にハマったって話しとったな」
と、ここで問題点。
「この猫屋敷先輩?が岩窟王を借りてることはわかりましたけど、どうするんですか?ここに本が無いなら……」
元の世界に帰れないってことじゃないのこれ。
あえて先を言わない私の言葉に、その場が静まり返った。
……帰れなかったら困る。
「これからどーすんだよ。完全に詰んだじゃねえか……!」
「そーやん……本が無ければまた振り出しに戻って考え直しや……」
先輩たちは頭を抱えて呻いた。もう、この人たちでもこれじゃあ無理じゃん……!
諦めかけたとき、ふと何か引っ掛かるものを感じた。
「あれ?結局……依代って“岩窟王”だったんですか?」
今更なんだ、と怪訝げな顔で宮内先輩が頷く。
「だったらおかしくないですか?だって、いくら紙でも本ですよ?しかも図書館の」
もし、何かがあって依代を破こうとして、依代が本だった場合。
まず、破くのが大変過ぎる。それに、一ページ破くだけで良くても、確実に司書の先生に怒られる。
つまり、だ。
「“G-7”は依代とは無関係で、何か他の理由があってノートの後ろに走り書きしてあったんじゃないかなーと……オモイマシテ」
「おいカタコト」
あれデジャヴ。
段々自信が無くなってきて声が小さくなってしまったが、なんとか言い切った!
硬くなっていた身体の力を抜いて先輩たちの方向を向くと、そこには十人中十人が不気味と感じるであろう笑みを浮かべた化けも……じゃなくて妖か……でもなくて八雲先輩と宮内先輩が居た。
『何恐い顔してんの。そこらの悪霊もビックリだよ』
「恐い顔とは失礼やん。なあ春日サン?」
「……黙秘権を行使します」
「先輩ザマア。……春日、お前のおかげである可能性が出てきた」
宮内先輩が八雲先輩けなしつつ、私を見た。
「……え、なんか私の発言に重要な要素入ってました?」
岩窟王は依代とは無関係なんじゃないかとしか言ってないはずですけど?
「ああ。岩窟王≠依代は盲点だった。完全に岩窟王が依代だと思い込んでたからな」
苦い顔をしながら彼はそう言う。
それに八雲先輩が続けた。
「でも、岩窟王が100%依代と無関係とはどうしても思えへん。だとしても、春日サンの言うたように岩窟王を依代にして破くというのもおかしい」
へ?
いや……言ってる意味がイマイチわからないんだけど……え?
「依代は、オレらが思うとるよりちゃーんと隠されとったちゅうことや。まあ、それが仇なってしまったかもしれへんけど……」