先輩方が霊より恐い件について。
ごたごたしながらも連れてこられたのは図書館だった。
まだ入学したての私は初めて来ましたとも、ええ!
「こことG-7の関係……?」
「そか、中1はまだ図書館来とらんのか」
八雲先輩が今更のように呟く。
だだっ広い図書館を見渡しながら、リオが苛々したように言った。
『もったいぶってないで早く教えてよ』
「そうですよ……ん?」
リオに同調しようとした宮内先輩が、ふと手近の本を手にとる。
裏返してみると、“私立神原学院図書館”のシール。そして……
「“S-23”?もしかして……」
私が見たシールの下には、小さくアルファベットと数字が印刷されていた。
本の名前は、“斜陽”。英語にすると、頭文字はSだ。
「“G-7”は図書館のどれかの本のはずや」
ぐるっと図書館を見渡し、絶望した。
この中から探すの?まじで?ねえまじで?
しっかり死んだ魚の目をした私とリオの顔を見て、八雲先輩はまたけらけら笑う。
「大丈夫や、ちゃんとアルファベット順番号順に整理されとるからな」
「……」
若干先輩が遠い目をしている気がするが……知らぬ存ぜぬ。
「“G”……ここですね」
狭い通路に三人(と幽霊一人と動物二匹(羽))で入り、“G-7”の本を探す。
何故だか知らないが、“G”の棚は古い本が多い。だからか、ほとんどの本はぎっしりと詰まったままだった。これなら見つかるだろう。
と、思ったが
「“G-4”、“G-5”、“G-6”……あれ?無い!?」
「なんとなくそうとは思っていたが……やっぱりか」
宮内先輩がはあ、と溜め息を吐く。G-7だけ、見事にすっぽり抜けていた。
でも、よく考えてみれば依り代はオカルト研究会が持っていなければ意味がないはずだ。無くて当然かもしれない。
「せめて、本の名前がわかればええんやけど……」
「……“岩窟王”だ」
八雲先輩が困ったように頭を掻いたとき、宮内先輩がぽそりと言った。
「“G-6”は“ガリレオ・ガリレイ”。ガリレオの伝記だ。“G-8”の本の題は“擬悪”……そうなると、無いのはアレクサンドル・デュマの“岩窟王”のはずだ。順番的にな」
……先輩頭良いィィイイイ!!!
普通そんなの推測出来んの?出来ないよね?!あ!でも出来るの?!
「おお、流石やん」
狐そっくりの笑いをニイッと浮かべる八雲先輩。恐っ!
「先輩方二人がタッグ組んだら……」
ボソッと私の口から零れた言葉に、六つの瞳がこちらを向く。
「……最恐な気がシマス」
「おい待てゴラァ。字がおかしいぞ後半んん」
そこらの不良もビックリのおっかない顔で静かにキレる宮内先輩に頭をぐりぐりされる。イタタタタタタ!!地味に痛い!穴空くて!ただでさえ空っぽな可哀想な頭に穴空く!!
「伊達に学年十位以内常連やってねえよ」
「……what?」
「オレも千尋も常連やでー」
八雲先輩、さらっと言うな!恐い!もうやだこの先輩!
「カウンターに貸出用のコンピューターがあるんや。そこで誰が岩窟王を借りとるんか調べてみよか」
「え、でもパスワードとかは?」
「さっきから質問多いなー。大丈夫やで、オレ図書委員やし」
職権乱用ってやつですね!わかります!
横にいる宮内先輩も呆れた顔で彼を見つつ、呟いた。
「まあ、俺も予想はついてるけど」
多分家に居るであろう兄貴。
あんたの後輩、変に逞しく育ってるよ。