異空間にこんにちは
ちょっと書き方を変えてみました(*・ω・)ノ
二章から、登場人物たちのプロフィールを書いてみようかな(´ε` )
「なんしか、ここで溜まっててもしゃあないわ。ちょっと校内見て回ろか」
八雲先輩の的を射た発言に、ようやく私たち人間三人と幽霊一人、鷲一羽、狐一匹は歩き始めた。
先輩二人がすいすい進んでしまうところから、どうやら校内の構造は変わってないらしい。彼らの会話から、現在地の新館二階は部室が集まっているということを知った。(特別教室もちらほら混じっているとのことだ)
しかし……
「……おかしいくらいに何も出てきいへんわ……」
八雲先輩が呟く。彼の狐も辺りをうろちょろとしているが、何も見つからないらしい。ちらりとリオを見たが、黙って首を振られた。
宮内先輩は近くの扉を開けて室内を確認しながら、八雲先輩の方を見ずに返す。
「何もない方がいいじゃないですか。俺達だって専門家じゃない。ただ霊が視えるだけの中学生なんだから、対処法だってそんなにないんだよ」
少し棘のある言葉を聞き、我が家の例外を思い出す。
「兄貴なら超人じみたこと結構出来るんですけどねー……」
私が小学生の頃から、ふと見れば護身用の御札だの御守りだのを作っていた兄。移動する前にメールを送ったが、ちゃんと届いただろうか。
しばらく近くの部室を片っ端から覗いていたが、ある扉を開いた瞬間、ぞわぞわっと大量の小さな虫が背中を走っていくような妙な気配に背後を勢いよく振り返る。
前方を歩いていた先輩たちが、突然立ち止まった私に気付き、首を傾げた。
「……春日?」
「先輩……嫌なお知らせと良いお知らせ、どっちから聞きたいですか?」
「……じゃあ良い方からで」
後ろを振り返ったまま、私は今開けたばかりの扉を指差した。
「多分、この部屋にこの異空間の手掛かりがあるはずです」
「ほんなら、ここ調べよか……もう一つは?」
今歩いてきた廊下の向こうの曲がり角がある方から、キュルッ、キュルッ、と何かツルツルしたものが床に擦れる音が近づいてくる。その音が聞こえたらしい宮内先輩の顔が嫌そうに引きつった。
やがてそれが姿を現したとき、私はもう一つのことを告げた。
「変なのがこっちに近づいてきてます」
それは、異様に伸びた自分の手をズルズルと引き猾っていた。頭からは脳味噌がぽろぽろと零れ落ち、白い床に赤い花が咲いている。キュルキュルという音は、白くて長い腕の皮膚がリノリウムの床に擦れる音だった。一応神原学院の制服を着ている男子生徒は、明らかに生きてはいないだろう。
……なのに歩いてくるって、それどんなホラーゲームだよ!!現実だけど!!
「それを早く言え!!」
扉の一番近くに居た宮内先輩が、盛大に舌打ちしながら私と八雲先輩を部屋の中に引きずり込む。私がつんのめって転びかけている間に、扉は勢いよく閉められた。
部屋は、心理学研究会と同じ様な造りだった。小さな正方形型の部屋の真ん中には、小さなテーブルとパイプ椅子が六つ置かれている。
「なんやねんあいつ……」
「あれですよ、最近流行りの……体のパーツ伸びちゃった系男子」
「んなもん流行ったら世も末だわアホ」
スパァン、と丸めた紙で頭を叩かれる。デジャヴを感じながらも上を見上げると、不機嫌そうな宮内先輩が御札の束を片手にぺたぺたと扉に貼り付けていた。
「全く……春日先輩の御札持ったままで良かったぜ……」
ぶつぶつ呟きながらも扉に一通り御札を貼り終えると、彼はこちらを振り向く。
「何ぼけっとしてんだよ。さっさと手掛かり探すぞ」
「ああ、そんならこんなもん見つけたで」
八雲先輩が、手のひらサイズの手帳をひらひらも振ってみせる。ページはちょっとよれていて、結構使い込まれていそうだ……って、あんたいつの間に探してたの?
「んー……この手帳、オカルト研究会のもんやな。この教室も、よお見ればオカルト研究会の部室や」
言われてみれば、オカルトグッズらしきものがちらほら窺える。それにしてもこの学校……マニアックな部活多くない?他にもなんか色々……もういいや!思い出そうとしたら多すぎてツッコみきれなくなりそう!
八雲先輩が手帳のページをペラペラと捲る。すると、しばらくして突然ページを捲る手が止まった。
彼の隣から手帳を覗き込んで見て、真っ先に目についたのは蛍光ピンクのマーカーで目立たせてあるとある単語。
『「“異空間に行く方法”……?』」
私の声とリオの声が重なる。八雲先輩は片眉をピクリと上げ、溜め息混じりに言う。
「元凶はこれやな……」
「オカ研かよ……クソッ、面倒なことにしやがって……」
「確かオカ研には多田が居ったな。あいつ……帰ったらしばいたるわ」
八雲先輩……こめかみに青筋が見えるんですが。ああこれ……相手の方死亡フラグ立ってるわ。まだ会って一日も経ってないけど、この人絶対に他人の精神抉って楽しむタイプだわ。うちの兄そっくりだわ。
……取り敢えず、名前しか知らない多田さんに黙祷。
「ところで、結局私のホイホイって関係なくないですか?」
「……せやな」
「えっと……悪かった」
ばつが悪そうに頬をかく先輩たち。目を逸らしたりと、相当気まずそうだ。まあ、初回に免じて許してやろう。次?……んなもんあってたまるか!胃に穴空くわ!
「で、八雲先輩。そのノートに、ここからの脱出法とか書いてないんですか?」
「ん……お、あったで!」
八雲先輩が指している細かくびっしりと書かれた文を必死に読む。目ぇ痛ー……なんでもないです。
残念ながら異空間の行き方だのなんだのはさっくり省略されている(つーか書かれてない)が、帰り方はシンプルイズザベストな感じで記されていた。
【…………異空間から出るには、依り代を破く必要がある】
「……はあ?」
あー次は宮内先輩のこめかみに青筋が見えるなー……いや、ほんとあんたら沸点低っ!ひっく!
だが、こればかりは私も笑ってはいられなかった。
「……依り代について、何も書かれてない……」
どこを読んでも、書かれていない。手帳を逆さまにしてみたが、何が出てくるわけでもない。
ここからわかる手がかりは、依り代が紙か何かであることだけであって……
「あーもー訳わかんない!」
ぽいっとテーブルに手帳を放ったものの、コントロールが悪すぎて放物線を描きながら床に落下する。あ、やべ。おっかしーなー机狙ったのに。
自分のコントロール力を嘆きつつ反対側にまわり、手帳を拾おうと手を伸ばす。落ちた衝撃で、一番後ろのページが見開かれていた。
「春日サーン、汚さんよーに頼むわ~」
「うぐぐ……善処シマス」
「カタコトだぞ」
けらけらと笑う八雲先輩の言葉にぐさっときつつ、手帳を手に取る。そして、そのページ……一番後ろの、一番端に小さく走り書きされた文字に気が付いた。
「先輩先輩!これ!」
私の興奮した声に、八雲先輩が横からひょこっと手元を覗き込んでくる。続いて覗き込んだ宮内先輩が、怪訝そうな顔をした。
「“G-7”?」
「……何かの暗号ですかね?」
「ちゃうわ」
八雲先輩の顔が愉しげにまた歪んだ。
「もーっと単純なもんや」
だーかーらー笑顔が恐いんだってえええええ!!!!