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幽霊たちと、紫陽花と。  作者: 上篠あさぎ
第一章~霊感系女子、頑張る。
5/8

そういえば私新入生だったわ。

 放課後。ホームルームが終わると、すぐに宮内先輩に指定された教室に向かった。

 まだ軽いスクールバッグを持ち、自分の教室のある本館二階から新館を目指す……が。


「ここどこおおおおおお!?」


 ……どうやら迷子になったらしいです。

 そうだった。私、まだ入学して数日しか経ってなかった!

 誰かに道を訊こうと辺りを見渡すが、運悪く人通りの少ない場所で迷ってしまったらしく、人が通らない。余計に困った……!


──(ユカリ、入学式の日に配られてた校内地図は?)


(教室……)


 リオの呆れたような溜め息が聞こえた。うっかり地図を教室に置いてきてしまったのは、本当に失敗だった。

「どうしよう……」

 腕時計をちらりと確認すれば、間もなく五時を指すところ。教室を出たのは四時過ぎだったので、約一時間程うろうろしていることになる。

「おい、お前何やってるんだ?」

「うわっ!?」

 突然かけられた低い声に飛び上がった。後ろを振り向くと、片手に文庫本を持った男子生徒がこちらをじっと見ていた。

「……もしかしてお前、中一か?」

「え、はい……」

 びくりとしながら恐る恐る頷くと、ああ成る程、と彼は納得したように呟いた。しかし、彼の表情はぴくりとも変わらない。背の高さや廊下の暗さと相まって、怖いという印象を受けてしまう。

 暗い中、向かい合って黙り込んでいると、彼は首を傾げた。

「……道、教えようか?」

「!お願いします!」

 新館二階の心理学研究会に行きたい、と言うと、その男子生徒は眉を顰める。

「なんでまたそんな所に……って仮入部か?まあいいや、着いてこい」

 くるりと踵を返すと、スタスタと歩いていってしまう男子生徒を慌てて追いかける。暗いので、足元がよく見えずに何度か転びかけたがなんとか心理学研究会の教室の前に辿り着いた。

「オレは部活に行くから……じゃあな」

「ありがとうございました!」

 去っていく彼にぺこりと頭を下げると、教室の扉に向かい合ってコンコン、と扉を叩く。「はーい」という声に恐る恐る扉を開くと、蛍光灯の光に目を射されてまばたきを繰り返した。

「おー、やっと来た」

「道に迷ったか?」

 思わず、呆けててしまった。ぐるりと部屋を囲うように並べられ、ぎっしりと資料の詰まった本棚に対してでもなければ、教室の狭さに対してでも、彼らが今やっているトランプに対してでもない。彼らの、足元にいるものに驚いたのだ。


「おきつね…さま?」


 丁度八雲先輩の足元にちょこんと座っているのは、もこもこした尻尾をふわりと揺らす“狐”だった。かなり大きく、私の膝の上あたりまでの大きさだ。バサバサッという音に顔をあげれば、本棚の上の所に大鷲がとまっていた。

「やっぱり、春日先輩と一緒なんやな……」

「え、あ」

 しみじみといった風な八雲先輩の言葉に、はっと我に返る。しまった。うっかり口に出してしまった。

「あ、もう霊感のことは先輩に聞いてあるんや。気にせんでええよ」

「自分たちに何が憑いてるのかも知ってるしな。それに、俺たちも全く視えないわけじゃないから」

 真っ青になった私に、慌てた二人が口々に言う。それにほっとしつつ、勧められるがままにパイプ椅子に座った。

 座ると、すぐに兄のことを訊ねようとする。が、


「先輩のことを訊こう思うとるな?まあ落ち着きぃ」


「ふぁ?!」

 なんでわかったの?!とまたもやぽかんとしてしまう。その様子を見た宮内先輩が、片付けていたトランプのケースで八雲先輩の頭をパコン、と叩いた。

「早く話し始めてください。時間が無いです」

「イタっ?!おん……まずな、オレとそこの……宮内は君の兄さんの後輩や。ここは心理学研究会ゆうて、まあ……いわゆる弱小部さかい。部員も今はオレと、宮内だけやな。で、前に偶々先輩が口滑らせてぽろっとこぼしてしもたんが霊感があるっちゅう話やった」

「はあ……」

「そんでな、卒業間近の先輩に言われたんや。トラブルメーカー(幽霊ホイホイ)な妹が今年入るから、なるべく気にかけて欲しい、て」

 トラブルメーカーてなんだトラブルメーカーて!お前もだろ兄貴!!

「ここからがやっと本題だ……この間、久し振りに会ったら、これを渡されたんだが」

 宮内先輩が取り出したのは、さっきも見た白い封筒。蛍光灯の光に反射して、ぼんやり光っているように見える。それを受け取り、中身を取り出して読んでみると……


「……入部届ええ!?」


「……ああ」

 素っ頓狂な声を上げた私に、苦虫を潰したような顔をした宮内先輩が頷いた。もう一回、それをまじまじと見直してみる。父親のサインと、きちんと“春日”と印鑑の捺されたものだ。

「これ、私が入部しろと……?」

「まあ、そうゆうことやな」

「帰宅部希望なんですけど」

「無理だろうな」

「こんなところで変なチームワーク発揮しないでください!!」

 入部届をくしゃりと握りしめ、机に突っ伏す。兄め、勝手なことしやがって。

 起き上がりながら壁に掛けられた時計を見ると、五時半をまわっていた。この教室に来てから三十分以上経っていたことに驚いたが、それを振り払って再度椅子に座り直した。

「……考えます」

「そうしろ。どうしても嫌なら、この入部届は処分して先輩にはしらばっくれてやるから」

「さらっとエラいこと言っちゃってますけど、ありがとうございます」

 目の前で頬杖を突いている宮内先輩に礼を言い、立ち上がる。顔が良いとこういう姿でも絵になるよね。(※だがしかし手癖、足癖、口が少々わろし)

「帰るん?じゃあ、オレらも一緒してもええ?」

「はい。兄の弱みなら教えられますよ!」

「まじか。くれ」

 宮内先輩、兄貴に何されたの。

 帰る準備をさっさと済ませ、(と言っても、ブレザー着たりするだけだったけど)戸締まりを確認し、帰ろうと思って扉を開けた。


 ……が、

「は……?」

「うわあ……」

「あちゃー……」

 三種三様の声が私たちの口からこぼれ落ちる。扉の前に三人で並び、前に踏み出せないまま。そりゃそうだ。だって……


「異空間にウェルカム!ってことでいいんですかねえ……?」


 もう、ここは学校ではなくなっていた。正確には、確かにここは『神原学院』だが、異世界の『神原学院』だった。

 窓から見える空は紫色に染まり、その毒々しい紫は壁も廊下も染め上げている。私たち三人以外の人影は見えない。無音だ。

八雲先輩の狐も、宮内先輩の大鷲も、その廊下に向かって警戒するように身構えたり、頭上をぐるぐると飛び回ったりしている。

 ど う し て こ う な っ た ! !


「トラブルメーカー、納得した」

「これは先輩に負けんくらいのホイホイやなあ」


──(あーあ、僕も出て行くべき?)


(頼む……まじで)


 冷水を被ったような感覚の後すぐに、隣にリオが現れる。相変わらずの無表情で、紫色に染まった校舎を睨む。

「お?それは春日サンの守護霊なん?」

 八雲先輩がリオに気付き、訊ねてきた。彼の狐がリオの足元をくんくん嗅ぎ回る。どうやら、安全確認のようだ。ある程度視えるというのは本当らしい。

「まあそんなとこ……なの?」

『断言してよね』

 じゃあ守護霊さんよ、何故私は今までこんなに幽霊絡みに巻き込まれてきたんだ。十文字で答えやがれ。




中学校生活三日目。


どうやら早くも異空間にウェルカムしてしまったらしいです。



____________


宛先:春日碧

送信者:春日紫

件名 無し

本文 帰るの遅くなるかもー


ちょっくら異空間行ってくら(^^♯)


____________

宛先:春日碧

送信者:宮内千尋

件名 無し

本文 なんて後輩を押しつけてくれたんですか。


おかげで現在異空間なんですけど。


____________

宛先:春日碧

送信者:八雲和真

件名 無し

本文 先輩の妹ちゃん面白すぎやわ 笑

おかげで現在異空間やけどな 笑


わろしは悪いという意味です<(_ _)>

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