校舎黒とかどんな悪趣味だよ
「兄貴ぃぃぃぃい」
「その兄貴っていうの止めない?」
「無理かな」
四月初旬。暖かくなるのが早かったせいか、残念ながら、桜は殆ど葉桜と化している。
そんなある日の朝のこと、私と六歳上の兄、春日碧は小さなテーブルを挟んで向かい合って座っていた。これから、兄と二人の生活になる。別に、両親はピンピンしているので念の為。私の通うことになった私立校が、兄が住むことになったマンションと近かったのだ。距離的な問題。うん。
「ユカ、制服まあまあ似合ってんじゃん」
「まだ着られてる感凄まじいけどね~」
白いブラウスの胸元についた紺色のリボンを引っ張る。上にブレザーを羽織り、下はリボンとブレザーの色と同じく紺色のスカートだ。準制服で青いブラウスとチェックのスカートもある。肩下まで伸びた髪の毛は、横で一つの三つ編みに結った。
「まだ卒業したばかりなのに、また同じ制服を見ることになるなんてなぁ……」
兄が遠い目をして呟く。兄も、私が行くことになった学校……神原学院に通っており、先月に卒業したばかりなのだ。
「そんな遠い目してると禿げるぞ。あと身長縮め」
「うるせえまだ毛あるわ。縮んでたまるか」
パコンっと丸めた新聞で頭を殴られる。痛くない。でも叩くな。あと身長分けろ。
「なんで百八十センチもあるんだし」
「いや知らねえし。ユカも百六十センチはあるでしょ」
「口調ブレッブレだなおい」
そろそろ家出ないと入学式早々遅刻するよ、という言葉にハッと腕時計を見る。後少しで八時……生徒の集合は八時半。保護者は十時。このマンションから学校までは十分程かかったはずだ。そろそろ出ないとマズい。
「行って来まーす」
「後で父さんたちと行くから~あ、『ヤツら』と極力目を合わせないように!巻き込まれたくないなら」
「フラグ建てるなぁぁぁぁぁあ!!」
ひらひらと手を振られて見送られつつ、新品のスクールバッグを肩に掛けて家を出た。
* * *
さて、家を出てから十分が経過し、そろそろ学校が見えてきたわけだが、
「何あれ……何あれ」
大切なことなので二回繰り返しました。
──(何もカニも……ユカリの胃痛
の原因でしょ。)
(やめて胃痛の原因言わんといて。てかなんでカニチョイスしたし)
私は、普通は憑いて守るはずの守護霊が中に入り込んでいるという特殊な守られ方をしている。まあ簡単に言ってしまえば、ニコイチってやつだ。(たまに出てくることもあるけれど。)身体は一つだけど、人格は二つみたいな……二重人格みたいな。それがこの男の子(幽霊)、リオだ。なかなかに毒舌である。もっと年上を敬え。
それより、だ。あれはなんだ。
「なんか……学校のあちこちに幽霊団子が視える」
桜並木の真ん中で立ち止まり、ぽつりとこぼす。人通り少なくて本当に良かった。
だってあれはヤバいって。校舎黒ですか?うわー趣味悪!ってレベルになってるから!(校舎は実際白だった)
『なんだい嬢ちゃん、あれが視えるのかい?』
「うわっ?!……って、あんたもしかして、兄貴の言ってたここらへんの桜並木の長ってヤツ?」
『む、その御守り……アオイの妹か?』
「おーそうそう」
周りの桜の木の中でも一際大きな木の陰からひょこっと白髪の老人が現れる。彼は私のスクールバッグに付けられた兄の手作りの御守り(ちなみに、兄も霊感が強い)を見て、ニコリと笑った。兄のコミュニケーション能力(※幽霊も問わず)、半端ない。
『あの団子なんなの?』
リオが身体から抜け出て、老人──長に訊ねる。長は一瞬驚いた顔をしたが、すぐに答えた。
『んー……わからんのじゃ』
『「え?』」
私とリオの声が重なる。
『今日がえっとー……』
「入学式」
『そう!それだからといっても、多すぎるし……』
早速嫌な予感しかしない。思わず頭を抱える。なんなの?超ホイホイとか新入生に居るの?笑えないから!
「……取り敢えず、逝こうかな……」
『ついにユカリも僕らの仲間入りするの?』
「縁起でもないこと言うなし」
隣のリオに攻撃(物理)を当てると、桜並木の長に手を振って別れた。
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宛先:春日碧
送信者:春日紫
件名 無し
本文 この間神社で教わった御札と塩と数珠と御守り常備してきて!
死ぬから!
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宛先:春日紫
送信者:春日碧
件名 Re:
本文 了解~
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