7.黒石の黄信号
7.体育祭一ヶ月前~三週間前
体育祭まで一ヶ月を切り、生徒会と体育委員会の仕事はますます激化した。競技ごとの選手名簿を作り、生徒動線・道具配置を設計する。テントやマイク、スピーカーのチェックも入る。各組の応援団たちが応援合戦用の衣装や小道具を作り始めるので、その予算申請を受付け、安全確認もする。
来賓の案内係に校門での観客受付、保健、競技前後の選手誘導、道具準備・片づけ、各競技のスタート係、審判、順位記録、アナウンス、点数集計、掲示その他、複数の係を、各自が参加する競技を把握しつつ、パズルのように当てはめていく。
夜七時の定例会後も、帰れないメンバーがほとんどになった。互いをフォローしながら、最終下校時刻のギリギリまで仕事をする。俺はメンバーに、仕事を持ち帰ることを固く禁じた。一度許すと歯止めが利かなくなる。どうでもいい仕事まで完璧にやろうとして無理を続け、当日ダウンするやつが出てくる。
黒石が青信号として、ノアのノートに載った。俺も手一杯だった。フォローできずにいると、黄色になった。仕事が多すぎる、とのことだった。さすがにまずい。このままでは赤になる。
「黒石」
打ち合わせの合間を縫って声をかける。
「今、仕事、なにを持ってる」
黒石が次々と仕事を答える。俺はそれをすべて付箋に書かせた。
「重要度順に上から並べろ」
俺に命じられ、黒石が、十数個の付箋を的確に並べていく。
「どうすればいいか、わかるな」
「はい」
黒石が一瞬息を呑んで、答えた。
「優先度の低い仕事、切ります」
「合格。どう切る」
黒石が、一番下にあった「議事録」の付箋を脇によけた。
「手を抜きます。要点だけにします。結論だけ書いて話し合いの経過は省略」
「ああ、それでいい。他は?」
黒石が下から二番目の付箋を手に取る。
「これは、体育委員会に投げ返します。俺が背負いきれない」
「誰に渡す?」
黒石がしばらく悩んで、体育委員会の一年生の名前を挙げた。若干頼りないが、まだ仕事に余裕のあるやつだった。しかし、それではダメだ。否定はせずに質問を重ねる。
「どう伝える?」
「内容を、説明して……」
言いかけて、黒石が気づく。
「すみません、間違えました。渡す先は体育委員長です。俺が直接言ったら指揮系統が混乱する。彼がいいだろうってことは言い添えます」
「うん。正しい。あとは?」
黒石が下から三番目の付箋を手に取る。
「これは、すみません。会長お願いします」
俺は付箋を受け取って笑った。
「オッケー。他は?」
付箋を眺めて黒石が迷う。が、考えてから言った。
「あとは、できます。予算関連は、水原先輩に日限ゆるめてもらいます。そしたら大丈夫です」
残った付箋は、確かに黒石の適正量だった。自分の力量を若干越える程度の負荷。
黒石は本当によくわかっている。
「よし、それでいい。混乱したらまた付箋並べろ。お前は自分でできる。もし困ったらノアに言え」
「はい」
黒石が強い目で頷く。
「頼んだ」
とん、とその肩を叩いて、俺は赤信号のやつに声をかけた。