23.がんばれ黒石
23.ホワイトデー
三月初めの三年生の送り出し会と卒業式も無事終わり、生徒会は今年度の仕事整理に入った。
「会長、四月からの体制です。いかがでしょうか」
黒石は次期会長として、副会長、書記、会計、各委員長の指名権限を持つ。生徒会役員は黒石が選び、各委員会からはそれぞれの委員会内で決めたやつが委員長候補として黒石のもとに名前が挙がってくる。
黒石が差し出した体制一覧を見て、にやりとする。
会長黒石、副会長ノア、書記香川、会計梅野。各委員会は俺から見ても実力のあるやつばかり。
「ノアが副会長?」
内心同意しつつ、聞いてみる。
「はい。乃亜さんが適任かと思います」
「三浦並の働きは期待できない。それでもいいな?」
念押しする。
「いいです。乃亜さんの勘の良さ優先です。信号方式を四月から来年の三月まで貫きます」
黒石が確信を持った目で頷く。俺は笑う。
「よし。じゃ、黒石会長にノア副会長な。楽しみだな。今日の定例会で発表しろ」
「はい。ありがとうございます」
黒石が書類を持って席へ戻っていく。そろそろ生徒会室内の私物を整理しなきゃな。この会長机ともお別れだ。
生徒会室の窓拭きをしていたノアのところへ行く。
「ノア、これ食べながら作業しろ」
サランラップでくるんだゴルフボール大のマシュマロを三つ、ノアに渡す。
「は、はい。会長、これは……我が家直伝のお菓子ですか?」
ノアが俺を見上げる。
「うん。俺も作ってみた。バレンタインのお返し。生徒会の時間内に全部食べろ。食べながら作業な。同時進行」
「なんと、お返しですか。ありがとうございます。嬉しいです。いただきながらお掃除します」
ノアが笑顔で頷く。
「会長、最終予算上がったよぉ」
会計の水原が呼ぶ。
「はいよ」
予算をチェックしながらノアの様子を窺う。マシュマロを食べながら、ノアがのんびりと窓を拭いている。あのポンコツもようやく二動作同時進行ができるようになったか。
はてさて何個目で当たるか。
「会長、今年度の議事録整理も終わったー」
書記の沢野が呼ぶ。
「ちょい待ち」
水原の予算を確認して合格判断をし、沢野の元へ行く途中でノアが二個目を食べていた。とうことは、三個目で当たるか。狙い通りだな。
議事録の抜けがないことも確認し、会長机で書類仕事をしていると、三個目のマシュマロをかじったノアがぎょっとしたような顔をした。口元を押さえてマシュマロを凝視している。
当たったな。
俺は笑いながらノアのところに行く。
「マシュマロとワサビ、結構合うだろ」
「か……、会長、ワサビ、ですか、これは。この緑色のものは」
「うまいだろ。俺も自分で食べてみて気に入った」
さも当然という顔で言うと、ノアがじっと俺を見る。
「嘘、ですね。会長。食べていらっしゃらないですね。わかります。はい」
見破られたか。かなり上手いこと演技して言ったつもりなのだが。バレたなら仕方ない。
「うん。嘘。味見すらしてない。まずいだろそれ。ゴミ箱に捨てとけ」
マシュマロをレンジで溶かしてレーズンと混ぜるとノアが言っていたので、昨晩真似して適当に作ってみた。中身はひとつはレーズン、ひとつはチョコ、当たりがワサビ。
「いえ、会長からのお返しですので、おいしくいただきます、はい」
ノアがマシュマロを見つめる。決意したように食べようとするので、その手からマシュマロを取り上げて自分の口に放り込む。
うえ。めっちゃ辛い。ワサビの量が多すぎた。
しかも、マシュマロの甘みとワサビの辛み、両方の味が主張し合って果てしなくまずい。
会長机に置いていたペットボトルのお茶を飲む。
「うーわ、すごい味。お前よく吐き出さなかったな。茶を飲め、ほれ」
ノアにペットボトルを渡す。
「は、はい、ありがとうございます。いただきます。ですが会長……マシュマロにワサビとは、さすがに、さすがに、我が家でもチャレンジしない組み合わせです」
目を白黒させながら、ノアがお茶を飲む。
「普通チャレンジしないな。ま、旨いお返しは黒石がくれるだろ。黒石の菓子で口直ししとけ」
「は……、いえ、しかし、黒石くんにお返しをいただけるかといいますと、どうでしょうか」
「もらえるだろ。期待しとけ」
ぽん、とノアの頭をなでて、ノアと目が合って、またぎくりとした。
どうなってんだ俺は。ワサビのせいか。心拍数がおかしい。
会長机に引き返して決裁書類にとりかかる。
夜七時の定例会で、黒石が生徒会人事を発表した。
ノアは自分が次期副会長ということにおののいていたが、黒石が論理的に説得していた。
さてあのふたりは今からマックか。黒石はノアに告白するのかどうか。あいつ慎重派だし、まだひっぱるか。
どうだろな、次期会長と副会長がお付き合いとなれば連絡も密になるし生徒会も安泰だがな。そういや、と、例の雪だるま写真を黒石の携帯電話に転送する。ノアと黒石が笑顔で雪だるまの両脇に立っている写真。メールの件名を「がんばれ黒石」にしておいた。




