第六話 ゼブラな双子とお馬鹿さん
(叫び)声を上げながら三つの影が近づいてくるにつれ、その姿が鮮明となってくる。
そのうちの二つの影は同じ服装をしている。
いわゆる着物、というもので極東にある小さな島国では日常生活でも着られている代物であるが通常のソレとは違い、裾や袖等の邪魔になる部分は糸で縫い付けてあるようだ。無論この大陸ではそういった服装が一般化していないのだから一際異彩を放っていたであろうことは想像に難くない。
しかし、何よりも異彩なのはその着物の色だ。
一人はいわゆる純白。
一人はいわゆる漆黒。
裾やら袖やらが短くなってもはためいて走りずらそうな服を気にもせずこちらに走って来ている。
………何というか、一段と趣味悪くなったな。
まぁ襟がコーヒー色をしているワイシャツを着ている私が言うのも何なのだが…。
残りの一つの影は言うまでもない。…というかあまり考えたくない。
自然、視線が他所に泳ぐことを誰が咎めることが出来よう?
「デュオさぁぁぁぁぁぁん!」
…。
「デュオさぁぁぁあああん!!」
…。…。
「デュオさああああああん!!!」
…。…。…。
段々と近づいてくる声を無視し続けるのは流石に無理と察し、視線を戻すともはや数メートルという所にまで彼らは近づいていたようでもはや細かい表情すら見て取れる。
二人喜色満面。一人無表情。
「ううう……師匠〜、久しぶりです。久しぶりすぎて涙が…」
「…師、久し振り」
「あぁ、久し振りだな。あ〜、あとハクヤ、五月蝿い。コクエ、ちゃんと飯を食え」
白黒双子―――短髪で年の割にはがっしりとして、笑顔がやたら似合いそうな印象を受ける白い方、H・シンドー。肩口まで伸びた髪、中性的な顔立ちとそれに見合った様に華奢な身体つきをしている黒い方、K・シンドーは共に性格を如実に現わす挨拶をしてくる。
相変わらず双子とは思えない対称っぷりである。
性格も昔のままだな。
「師匠、相変わらずの毒舌っぷりです!もっと、もっと責め…」
「…死ねばいいのに」
「えっ!? コクエ酷くね!?」
………否、ボケには更に馬鹿さが増して、ツッコミには冷徹さが加わっていた。
頼もしいな…。ツッコミの方。
「デュオさんも言ってくれれば良いのに〜、男の子の双子さんだなんて〜。勘違いしちゃいましたよ〜」
「ん…?」
いつの間にか近づいて来ていたアレクがやたらと上機嫌に話しかけてくる。私は適当に相槌を打とうとしてその言葉に引っ掛かる。
…男の子の双子さん?
アレク………、君はまさか。
「特にコクエさんの方なんて綺麗な顔してるから女の子かと思っちゃいましたよ」
俯きながら自分の手で頭を小突くアレク。えらく可愛く見えるその仕草だがそれを観察している余裕は今の私には………無い。
アレクが俯いているおかげで気づかれていないが、今私は視線を逸らして思いきり頬を引き攣らせている。
ちなみに、逸らした視線の先ではコクエが顔を赤くしながら俯き、ハクヤが斜め下を見ながらフルフルと握った拳を震わしていた。
そういえばコクエは真正面から褒められると弱いんだったな…。
「お化粧映えしそうな肌なんですよね〜。それに髪もほんとに黒くてツヤもあって綺麗ですし」
今度は腕を組みながら目を閉じて一人頷きながら語っている。
今度は目を瞑っているから気づかれていないのだが、私はすでに腹筋を痙攣させ、いい加減限界を迎えようとしていた。
視線の先には顔を更に赤らめ、たぶんこのまま放っておいたら卒倒するのではないかと思われるコクエと、完全に後ろを向き肩を小刻みに震わせているハクヤが居た。
今更だが彼女は大きな勘違いをしている。
そして彼女のことだ。その理由は容易に想像できる。
「………して、それ程女の子要素を持つコクエを何で男の子だと思ったのだ?」
めくるめく笑いの予感に後押しされ私は言葉を吐き出す。
「そんなの決まってるじゃないですか!」
アレクは両手を腰に当て胸を張る。
「女のカンですっ!!」
爆笑が辺りを蹂躙した。
えー、誠に申し訳ありません。次こそは中ボスが登場するかと…。次話はわりと早めに投稿できる筈かと。では、失礼しますm(__)m




