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第五話 白銀は紅き絨毯の上で思考に耽る

 正面から叩きつけるように突き出された爪を左に避け、左から飛び込むようにして頸動脈を狙ってきた牙をしゃがんで交わし、かなり無理な体勢をとりながらもそれらをまとめて叩き切る。

 首を切られた方は無論即死。腕を切られた方は怯んでたたらを踏んだ所を見逃さず、蹴飛ばして転んだ所に剣を突き刺す。絶命したのを確認し、引き抜いた剣を後ろも見ずにすぐさま背後へと叩きつける。小さい断末魔を残し顎から上が無くなったケルベロスを確認し、爪によって切られた衣服を確認しながら改めて辺りを見回す。


 ―辺りにはケルベロスの死体が累々と転がり、一帯には血や臓物で彩られた深紅の絨毯が広がっている。それでも未だに数体が距離をとって私を取り囲んでいる。



 ……面倒なことになったな。


 アレクと別れて数十分。襲撃―――否、どちらかというと『待ち伏せ』はすでに5度目となる。

 しかも襲撃の度に学習しているようで、最初の頃と比べると私を囲むように戦闘を展開したり、団体の利を生かし波状攻撃を仕掛けてきたりと段々と厄介になってきている。


「…まぁそれでもたいしたことはない、か。こちらとしては敵が集まってきてくれるので楽といえば楽である…っが!」


 私のぼやきの途中で左右からから飛び出してきた二体に剣と鞘を同時に打ちつける。

 両手とも狙い違わずケルベロスの首筋へと吸い込まれ、剣を持つ右手側ではその首を切り飛ばし、鞘を持つ左手側では頚椎を激しく打ち据えて破壊する。


 ……それにしても妙だ。


 どうして、こうも私の行こうとしている場所に敵が待ち伏せているのだろうか?

 敵が匂いでの追跡を得意としているとはいえ、これほど完璧に私の居所を掴めるのはおかしいのだ。


 …ならば何故だ?


 考えられる可能性は一つ。

 何者かが私を索敵し、それをケルベロスたちに伝えていた、ということだ。

 その何者か、は恐らくケルベロスを生み出した者………つまりはロキ級だ。

 もし本当にそうだとしたら非常に………不味い。

 そもそもロキ級の”ロキ”とは大昔に一度世界を破滅させかけた魔物の名前からつけられている。

 そして、その名を冠するだけにロキ級に属される魔物の強さは半端なものではない。

 人前に出ることはほとんどないのだが、一度その重い腰を動かすと国一つがまともに抵抗すら出来ずに一夜にして消滅する。

 それほどの怪物バケモノなのだ。


 それがこの街に居る。


 我知らずに冷汗が頬を伝う。この都市ステラツィオには相当の人間が居る。

 もし戦闘になった場合、どれだけの犠牲が出ることになるか想像すら出来ない。


 さて、どうする?


 ………。

 ……。


 …考えるのは後だ。今は眼前の敵に集中するとしよう。


 私が思考に耽りながら片手間に戦っていたケルベロスも残り二体となっていた。


 二体とも距離を取ったままこちらを睨みつけ―――その足下に赤い色をした魔法陣を展開していた。

 ケルベロスが得意としている炎刹えんさつ系の魔法”火球”を放とうとしているのだ。

 出来るだけ接近戦に持ち込み、集束陣の展開を阻止していたのだが……。

 他の事ばかり考えているからだな。気をつけねばな。

 ケルベロスが一声吠えると集束した炎を私に向かって吐き出す。

 私は一つ溜息を吐き、剣を鞘に納め、着ていたコートから通常の拳銃よりも一回り大きく、グリップの部分に半透明な宝石が付いた銃を取り出し、火球にポイント、間髪入れずに連続して発砲した。


 撃ち出されるのは鉄の弾丸ではなく、凝縮された炎の弾丸。


 この銃―名をヒドゥンという―は例の似非護身武器―ライトニング・レイを私に渡したくだんの仕入れ屋から渡された銃であり、グリップの部分に付いた宝石から体内の魔力を少量吸収し、凝縮、通常の弾の代わりに打ち出す銃―まぁ平たく言えば武器型の集束器だ。

 この集束器があれば魔法を扱えない者や、実戦で使えない程魔法が下手糞な者等でも比較的容易に魔法が使えたり、武器自体に特殊効果を付加したり出来る、というわけだ。

 私の場合は少し違った理由でコレを使っているのだが、それはまた別の話だ。


 そもそも魔法とは…っと、また余計な事を…。この話もまた後でしよう。


 放たれた弾丸が火球を難なく貫き、内から掻き乱して一瞬の内に霧散させる。

 炎の弾丸は火球を相殺させるだけに留まらず、貫通してケルベロスに襲い掛かる。

 炎の弾丸がケルベロスに触れた瞬間、投網を広げるように弾けてケルベロスを包み込む。

 全身を炎に包まれたケルベロスは全身を焼く痛みのためか、はたまた炎を消そうとしたのかゴロゴロと路面を転がるが、すぐに路面を舐める様に沈黙する。


 さてと……、一掃はしたか。

 私はため息を吐きながらとりあえず片手に持ったままであった剣を背中に固定すると視線を周辺に向ける。


 …なんというか、まぁ暴れに暴れたな、我ながら。

 肉が焼き焦げる匂いを感じながら再び走り出そうと瞬間、視界にメインストリートをこちら側に走ってくる三つの人影が入る。

 次第に影が大きくなるにつれ何やら声が聞こえてくる。


「デュオさぁぁぁあん!!!」

「しぃぃぃしょぉぉぉ!!!」


 三つの影のうちの二つから叫び声に似た歓声が聴こえてくる。


 …私の周りにはこんな人間ばかりなのだろうか?

 少しだけ涙がこみ上げてきた。

5話目にしてようやく戦闘シーンがかけました(少しだけですが)。


次回、弟子・中ボス1・中ボス2が登場です。

戦闘色がもっと濃くなります。…筈です(爆)。

ではこれにて。感想、評価を頂けると嬉しいです。

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