第三話 対価はあまりに高すぎて
固まった思考を無理矢理に解凍し、改めて現在の状況を整理していく。
確かにあの国とは少しばかり問題を起こした、が、暗殺を企てられる程、恨まれる理由が無い。
そう。第一太子がちょっとムカついたので、精一杯に手加減をしてぶっ飛ばした、それだけだ。
今だに満面の笑みを浮かべているアレクに詳しい内容を聞く。
「で、その暗……」
「これ以上はいくらデュオさんでも言えませんよ〜」
未だに笑顔である。
………。
なるほど、な。
ようやく彼女が笑顔を浮かべている理由がわかった。
「雇え、と?」
「さすがデュオさん! わかってますねぇ」
メリット、デメリットを比較し熟考を……、する必要もないか。
「わかった、頼もう」
懐から革の袋を取り出して彼女の前に置く。
それを見て、アレクはキョトンとした顔をしている。
ん?足らないだろうか?
まぁ彼女は性格やその他諸々の問題に目をつむれば、非常に優秀な情報屋で、尚且つ魔法もかなり扱えるのだ。確かにこれだけでは雇うことは出来ないかもしれない。
かといって手元には森の中で出会った、例の野盗達から拝借したこの金貨銀貨しかない。
………どうしたものか。
「そんなものいりませんよ〜。嫌だなぁデュオさん」
彼女をどうやって丸め込むかと思考しているときに、けらけらと笑いながらアレクが声を掛けてきた。
………それが雇え、と言った人間の言うことだろうか?
「お金なんていりませんよ。ただちょっとした条件を呑んでほしいんです」
…なるほど。交換条件か。
彼女ほどの情報屋が出す条件だ、難解な可能性も多いにあるが背に腹は変えられまい。
私は新たに頼んだレモンティー(アイスである)を一口飲み決心をきめる。
「わかった。どんな条件だ?」
「結婚してくださいッ!!」
賑やかであったオープンカフェが瞬間的に凍結した。
私は口に残っていたレモンティーを誤嚥し、むせる。
………いや、そんな赤い顔しながら言われると、どういう反応をすれば良いのかわからない。
というか、彼女の姿やその他の詳細を特に説明していなかったから、この状況がいかにマズイのか分からないと思う。
彼女、ことA・ストレインは長いブロンドの髪を後ろでまとめ、大きい翡翠色の瞳、それとは対照的に小さい顔とそのパーツ、そしてその肌は抜けるように白い。
そのどれもが全く違和感無く調和しており、「美しい」と評しても一切合切、誰も文句を言わないであろう………………十四歳だ。
あ、あと身長は低い、かなり、とだけ言っておこう。
この状況がいかにマズイか何となく察してもらったところで思考に戻ろう。
というか先程の彼女の発言のせいで周りからは何か薄ら寒い視線を感じる。
それと同時に様々な場所からヒソヒソと声が聞こえてくる。内容は聞きたくないので意図的に無視する。
どうやってこの場から逃れるか、脳内で様々なシュミレーションを行う。そしてそのどれもが彼女の圧倒的な口撃により打ち砕かれる結果となることは火を見るより明らかだった。
彼女は高らかに結婚宣言した後、じっ、と私を見つめている。
周りからの視線と小声という不可視の暴力は更に高まる。
………何時までも黙っているわけにはいかない。何か言葉を発し、打開策を模索しようとした、
瞬間。
地を揺らす程の爆音が連続して辺りになり響く。
私は反射的に彼女を抱き抱えテーブルを盾の代わりに倒し、そこに身を隠す。
爆風は……、来ない。
すぐさま身を翻し、背中の鞘から剣を抜き放ち、構える。メインストリート沿いのフードショップが爆発、炎上している。それ以外の店も数店、否、十数店がメインストリート、横道、問わずに炎上している。
大勢の人間が逃げ惑い、辺りは騒然となっている。この騒ぎを起こした者の姿は見えないが、魔磁場の揺らぎを感じる。
魔物か?魔法使いか?
私は横でテーブルから顔だけ覗かせているアレクに問いかける。
「これは明らかに計画的な襲撃だ。そういった情報は無かったのか?」
「え〜とですね、非常に言いづらいのですが、デュオさんの命を取りに来たのではないかと…」
苦笑いを浮かべるアレク。
頬が引きつっている私。
しばらく、お互い見つめ合いながら固まっていた。
次回にてとうとうまともな戦闘です。
少し楽しみながら書けるかな、と(笑)
追記ですが、次回からもう少し長くなるかもしれません。そちらのほうが楽しめますしね。作者が(ぇ
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