第二話 笑顔は時に残酷で
現在、私が歩いてるのは商業都市ステラツィオのド真ん中を通っている、いわゆるメインストリートにあたる場所である。
ステラツィオは面積こそ他の都市よりも劣るが温暖で滅多に荒れることの無い海に面しており、他国との貿易は専らここの港を使うのが主流だ。
どの時期でも活気があり、人の出入りも激しく、様々な人種の人間が常に検問には溢れている、商業都市ステラティオはそんな都市である。
私がこの賑やかな都市に来たのは、とある理由からだ。
私は適当に視界に映ったオープンカフェの席に腰を掛け、ウェイトレスに注文をした。
数分後ウェイトレスが注文の品―ホットコーヒーを持ってくるのとほぼ同時。
「デュオさぁぁぁぁああーーーん!!!」
と、非常に不快極まりない叫び声を上げながら私の隣の席に女性が飛び込むように座った。
そのあまりの勢いに椅子は当然の如く傾き、その隣に座している私に倒れ掛かる。
私は当然倒れぬように抵抗するものの相手の悪意溢れる行為(私の足ごと椅子の足を抱えたり、それでいてきっちりと私の腹に頭突きを入れたり)の前に無駄に終わってしまう。
かくして私とその女性は絡まる様に倒れてしまったわけだが、運が悪いことに私は倒れる際、運ばれてきたホットコーヒーに肘をぶつけ、テーブルから落としてしまった。 そして更に運が悪いことに…その“ホット”コーヒーは私の顔に降りかかってきた…。
「痛い。痛い。痛い。頭突きが決まった腹部が痛い。倒れた時に律儀に君を庇って路面に打ち付けた後頭部が痛い。“ホット”コーヒーがかかった顔面が痛い」
「あははは……申し訳ないです。久しぶりに会ったら、急に抱きつきたくなっちゃって」
あれだ。この子は私のことを熊の人形とかと勘違いしているのだろうか?
というか、前に一緒に旅をしていた時そんなことを頻繁にされた覚えも無いし、させた覚えもない―――はずだ。
「けど、あの時は……」
アレクの言葉をそこまで聞いた時、私の中の記憶のピースが音を立ててはまる。
「……いよぉぉぉし! アレク君!! わざわざ私を呼び出した程、私に伝えたい情報を聞こうではないか!」
運ばれてきたアイスティーを掻き混ぜ顔を赤らめながら話す、彼女―情報屋であるA・ストレインの話を見栄も外聞もなく全力で止める。
我ながら激しくみっともないが背に腹はかえられない。
私のそんな様子を見てアレクは若干、笑いを堪えるような素振りを見せたが素直にその話題を切り上げた。
アレか?今、私は弱みを握られたのだろうか……?
何やら激しく遣る瀬ない思いにかられながら、とりあえず再度彼女に話を促す。
「……で? その情報とは何なのだ? 風魔まで使ったんだ、よほどの情報なのだろう?」
「え〜と、ですね…。有った有った、コレですよ、コレ!」
ひどく嬉しそうに私に情報整理用の手帳を見せてくる。
……情報が命と同等の価値を持つ筈の情報屋が、そんな簡単に情報を見せびらかして良いのだろうか?
「デュオさんだからですよ〜。誰にでもこんなことするわけではないんですよ!」
……や、そんな大きな声で勘違いされる様なことを言わないでほしい。一応、私とて人目は気になるのだ。
で、その内容とは…。
…我知らず、顔が引きつる。
その手帳には見開きの二ページまたいで『クロス・D・ハート暗殺計画!主催リオゼール王国』と、でかでかと書かれていた。
私は視線を横にずらしてアレクの顔を見る。
満面の笑顔だった。
読んで頂きありがとうございます。いや、短いですねぇ。本当は次の章と纏めるつもりでしたが、思いの外切りが良くなってしまったための投稿です。評価、感想、ダメ出し、何でも書いて頂けると、とても嬉しいです。




