この世の真理
ーー告白してみたら、うまくいくかもしれないよ。
……か。
結局、その言葉にうちひしがれた俺は、あの後何回か小宮さんと話す機会はあったが、のっぽっぽ疑惑のことについては一切触れることができなかった。
その場の勢いとはいえ、なぜ俺はあんなことを口走ってしまったのだろうか。
もし、時を戻せるのなら、全力でさっきの自分の口を塞いでやりたいくらいだ。
下校途中の駅までの道。一人、空を見上げて大きくため息をついた。
これまで俺は、好きな人はいるのか? という問いに、『気になっている人がいる』という言葉を選び、答えを返し続けてきた。
まるで、その女の子にただ興味があるだけ、とでも言うように。
けれど本当は……。
気になるという段階はとうの昔に過ぎ去っていたんだ。
小宮さんはのっぽっぽではないかもしれない。
だから、こんなふうに落ち込むことすら馬鹿馬鹿しいのかもしれない。
二人は別人であってくれ、と思うと同時に、不思議と根拠もないのに、同一人物であることを確信しつつある自分がいる。
いろいろと考えを巡らせながら、駅の改札をくぐり、まばらに人がいるホームに立った。
下校中の生徒や、買い物帰りのおばさんたちが、騒がしい駅のホーム。
小宮さんに真相を聞けずに、ただ考えを巡らすことしかできない臆病者で情けない俺を、嘲笑っているかのようにすら感じる。
快速電車が通りすぎるのを、ただただぼんやりと眺め、そしてゆっくりとまぶたを閉じた。
もし、のっぽっぽを想う気持ちに名前をつけるとしたら、それは恐らく『恋』だった。
それも俺にとって、初めての……。
間接的にフラれてわかった。初恋は実らない、という言葉はこの世の真理だ。
俺の三年越しの初恋は、昨日の電車で再開を告げ、今日の教室で早々と終わりを迎えたのだった。
「丘町~丘町駅~」
駅員の独特な声のアナウンスがあり、電車の扉が音をたてて開く。
中は空いていたが、座らずに扉横のポールに寄りかかって、外の景色をぼんやりと眺めた。
きぃきぃと車輪を軋ませながら電車は走る。少し走ると、やがて海が見えはじめた。
春の太陽の光を反射し、きらきらと波を煌めかせる広大な海。瑞々しいスカイブルーの空と、輝く青色の海が作り出す一本の水平線がどこまでも続いている。
内陸に住む人にとっては、海は心踊るもののようで、海沿いに住んでいることを話すといつも羨望の眼差しを向けられるが、こっちとしては海なんて見慣れたもんで、海のある景色に特別な感情はわかない。
母さんに至っては、海が近いからいつも空気が湿気てるだとか、鉄が錆びるのが早いだとか、そんなことを言っているくらいだ。
だが、こうやってしみじみ見るといいもんだな、海ってやつは。
こんなに近くにあるのに、最後に行ったのはいったい、いつだっただろうか……。
そう考えながら、視線を電車内に戻していく。
同じ扉の反対側に立っている人と目が合った。
視線が合わさったと同時に、その人の目は柔らかく細くなり、口角を上げ、口元が弧を描く。
「やっと気づいた」
そう言って髪を揺らしながら、くすくす笑っていたのは、背の高い女の子。小宮さんだった。