噂と加法定理
今日の昼休みも俺たちは屋上に集合した。
若者らしく外で遊んだり、部活に熱中したりするよりも、屋上でだらだらする方が俺たちには合っている。
今日はいつものメンバーが全員集合。俺と彰と、先生の手伝いで昨日来れなかった春人の三人。
そんな春人がいきなりとんでもないことを話し出した。
「ね、悠太。彰と付き合ってるって本当?」
ーーぶーっ!
ーーげほっげほっ!
彰は飲んでいたオレンジジュースを吹き出し、俺は食べていた焼きそばパンの焼きそばを誤嚥した。
『「んなわけねぇだろ!!!」』
俺と彰は口を揃えてそう怒鳴る。
なんだこのやり取り。昨日とほぼ同じじゃねぇか。しかも状況悪化してるし。
「だよねぇ」
オレンジジュースを辛うじて避けた春人はくすくすと笑う。
「まさか、そんな噂が広まってんの?」
「噂ってほどじゃないけど、悠太の男好き疑惑に尾ひれがついてるって感じかな。ほんと人の話って面白いよね」
「お前、他人事だと思って……」
そう呟き、俺はため息をつく。
彰は立ち上がり、納得いかないと大声を出した。
「つーか、何でおれなんだよ!? 悠太とつるんでんのは春人も一緒だろーが!!」
「え、僕? 僕も一瞬噂の対象になったけど、女の子たちが守ってくれてさ。春人君はそんな人じゃないわ! ってね。役得だよね」
春人はアイドルのような甘い顔で、女子から多大なる人気を誇っている。いわゆるイケメンのモテ男ってやつだ。
「なんだよ、それ! おれだってそんな人じゃねぇよ。そんな人なのは悠太だけで十分だ!」
彰はイイヤツだがお調子者で、勉強も苦手。残念ながら、モテの道からはほど遠い。
「つうかさ、俺もそんな人じゃねえし。俺が気になってるやつだって女だしさ」
俺の言葉にぴくりと彰の耳が動いた。にやりと怪しげに笑う彰。
「そういや悠太! 昨日好きな女の子の名前言いかけたよな。ヘイ、カモン! 言っちゃいな! 美雪ちゃんをフったお前が好きなのは誰なんだ?」
「それ、僕も気になるな。あの子よりも可愛い子なのかい?」
二人の視線が俺に集まった。
「お前らが知らない女だよ、他校の生徒だし。それに、春人。たぶん、お前の言う可愛い女とはほど遠い」
「なんだー、つまんねぇの」
「ふぅん」
名前がわからず残念がる彰と、面白そうに見つめてくる春人。
ゆっくりと春人が立ち上がった。
「まぁ、今度詳しく聞かせてよ。悠太、遅刻カウントヤバイんだろ? そろそろ戻ろう」
ーーーーーーー
隣のクラスの春人と離れ、彰と一緒に教室に入った。その様子を見て、クラスメイトたちは楽しそうににやけている。
どうせ、さっきのくだらない噂でもして笑ってたんだろう。
ーーキーンコーンカーンコーン
昼休み終了の鐘が鳴り、がらりと音をたてて扉が開かれ、担任教師が入ってきた。
「皆お待ちかね、楽しい加法定理の時間だよ」
にこにこと老齢の教師は笑う。
「げーっ!」
「楽しみにしてねぇからー」
「あれ、わけわかんないからキライっ」
クラスメートたちは口々に文句を言っていたが、窓際の席に座る俺はただぼんやりと外を見ていた。
「まぁ、そう言わずに。それと、一つビッグニュースがあってね」
先生が話すビッグニュースなんて、毎度大したことないからなと思って聞いていたのだが、それは意外と大きなニュースで。
「このクラスに仲間が増えるんだよ。転入生が入ってきたんだ。午前中に学校を案内し終わったから、午後から君たちと一緒に授業を受けることになった」
ざわざわとクラスはどよめき出していたが、俺は転校生にさほど興味はなく、頬杖をつきながら外の景色を眺めていた。
先生が廊下に向かって「入っておいで」と声をかけている。
転入生が入ってきたのか、クラスの皆が騒がしくなり、様々な声が飛び交っていく。
どうでもいいと思いつつも、ふと気になって教壇の方を見ようとしたその時、控えめだが澄んだ声が教室に広がった。
「小宮奈緒です。よろしくお願いします」
ぺこりと礼をしている女子。指どおりのよさそうなストレートの髪が、ふわりと広がる。
ゆっくりと顔を上げた彼女を見て、心臓が飛び出そうになるくらい驚いた。
ここらでは見たことのない他校のセーラー服。栗色の髪と焦げ茶の瞳、長いまつげ。
そして、女の子にしては異様に高い身長とすらりと長い手足。
教壇の上に立っていたのは、昨日電車の中で見たのっぽっぽ疑惑の女子高生だった。