せいたかのっぽ
ーーガタンガタン
帰り途中の電車内、うとうととまどろむ。電車の揺れと暖かな太陽の光が心地良い。
あぁ今日は散々な日だった。俺に対して温かかったのは太陽だけだ、とアホなことまで考えはじめる。
美雪についてこれ以上悩んでいても、いいことなんか一つもない。もう今日のことは忘れて早くメシ食って寝よう。
そう心の中で決め、こくりこくりと船をこぎ始めていると、女の子たちが小声で話すのが聞こえてくる。
「あの子、背ぇ高いね。モデルさんみたい」
隣に座っている他校の女子たちの視線は扉の前に向かっている。
視線の先を追うと一人の女の子がいた。
確かにデカイ。彼女は反対側のポール側に立つおばさんより、頭一つ~二つ分くらい大きい。
隣の女の子たちは彼女の背の高さについて語っていたが、俺はそんなことよりも彼女の姿に釘付けだった。
扉の隙間から入り込む風で、背中まで伸びた栗色の髪がさらさらと揺れる。
長いまつげが頬に影を落とし、焦げ茶の瞳は太陽の光でキラキラと輝いていた。
どこかで見た写真みたいで、すごく綺麗だと思った。
いや、写真というか、もっと他に身近なところで見た気がする。
そう思った時、彼女はふとこちらを向いた。やばい、見てたのバレたか、そう思って顔を背けようとしたのだが……できなかった。
だって彼女は、ずっと俺が気になっていた『のっぽっぽ』その人によく似ていたから。
「春海駅~春海駅~」
アナウンスと共に扉が音をたてて開き、彼女はホームに一歩足を踏み出す。
まずい、彼女が行ってしまう。
のっぽっぽなのかを確かめるために、俺は席を立ち上がり声を出す。
「待っ……!」
ーーぷしゅー
彼女にその声は届くことなく、無情にもドアは閉まっていった。
今のは、本当にのっぽっぽなのか? 俺が知るのっぽっぽはあんなに綺麗な女じゃなかったぞ。
ショートの髪で、肉付きが悪くひょろっとしてて、いつも猫背で。自信がないのか、いつも下を向いて歩いてた。
あんな風に背筋を伸ばして、目に輝きがあるような女じゃなかった。
でも。
ーーちび様。のっぽなのも悪くないね。
あの時そう言って笑った、のっぽっぽのキラキラとした瞳は、扉近くにいた彼女の瞳にとても良く似ていて。
この電車でのっぽっぽらしき人を見ることができた。たったそれだけで、今日の憂鬱は全て吹き飛んだ気がした。
ーーまた、彼女に会いたい。
久々に感じた胸の高鳴り。あの頃の気持ちが戻ってくる。
また明日、同じ時間の電車に乗ろう。彼女に会えたら、のっぽっぽなのか確かめよう。
俺はそう心の中で固く誓ったのだった。