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Chapter.4

「羽燐、その前にひとつ訊きたいんだけど」

「ん?」


 ぼくは疑問に思っていた旨を羽燐にぶつけてみる。

 すると。


「ああ、そのこと。南校舎からこの部室棟まではちょっと距離がある上に、むぐのクラスとこの探偵部の部室はお互い、四偕と五階の最上階同士でしょ。今日みたいな日はエレベーターも混んでるだろうから、たぶんむぐは階段を選んだハズ。仮に乗れたとしても、一階までの間に誰かがボタンを押していた場合、そこの階でも止まらざるを得ないので、すんなり降りられる可能性の方が低い」


 そこまで説明すると、羽燐は一息つく。


「ちょっと、喉渇いちゃった。何か飲んでも良い?」

「どうぞ」


 温度を下げたのか先程よりもクーラーは効いてはいたが、この猛暑だ。水分補給は欠かせない。室内でも水分をきちんと摂らないと熱中症になると聞いたことがあるしね。

 羽燐はソファから立ち上がり、書斎机の後ろに回ってしゃがみ込む。ここからでは見えないけれど、小型の冷蔵庫が置いてあるのだ。


「むぐも何か飲む?」

「じゃあ紅茶系のやつで」

「オーケー」


 再び羽燐がこちらへ戻ってくると、その手にはグレープの炭酸飲料とレモンティーの缶がそれぞれ握られていた。


「はい、冷えてるよ」

「さんきゅ」


 向かいのソファに腰掛けて、左手を伸ばしてレモンティーを手渡してくれる。掌に伝わるひんやりとした感覚が気持ち良い。


「それで、どこまで話したんだっけ?」


 プルトップを起こしながら羽燐が訊ねる。


「階段で降りたところまで」

「そうそう、そうだった。もう気付いてると思うけど、学活終了のチャイムが鳴ったのが十時半。で、むぐがここに顔を出したのが十時四十二分。どう考えてもギリギリでしょ? UMA研の部室に寄って、さらに報告書を部屋中隈なく探し回ってる時間的余裕なんてなかった。ましてやむぐは部室の鍵を持ってないんだから、実際にはそれを調達する時間も必要になってくるわけだしね」


 他の類に漏れず、UMA研(うち)の部室も三年生の部長が鍵を預かっていた。

 それにしても。確かにあのとき、テーブル上のデジタル時計は10:42を表示していたが、よくもまあ、そんなに細かいことまで覚えているものだ。伊達に探偵部の部長を名乗っていない。

 とはいえ、こうも完膚なきまでに論破されてしまうと、悪足掻きをしたくなるのが人情というもので。苦し紛れに最後の抵抗を試みる。


「でもさ、朝に確認したのかもしれないよ」

「鍵もないのに?」

「それは、予めぼくが鍵を預かっていたという可能性を考慮して」


 勿論、事実と反する仮定だが。


「ううん、それはない。むぐが自分で “さっき ”って言ってたじゃない。朝のことをさっきとは言わないでしょ」


 しっかりと言質を取られていた。


「じゃ、じゃあ! 鍵は予めぼくが持っていて、めちゃくちゃ大急ぎで部室棟までやってきて、UMA研の部室内を探し回った可能性は?」

「それもムリ。たとえ鍵を入手する時間を省略したところで、むぐが部室を捜索したのがさっきだと言ってる以上、そんな時間はないんだってば」

「それはわからないじゃん。頑張ればどうにかなるかもしれないし」

「わかるよ。だって、あたし自身、学活が終わってすぐにここへ来たのに、むぐよりちょっと前に着いた程度だったもん」


 優雅に読書をしている最中だと思ったら、あのときはまだやって来たばかりだったのか。

――てゆーか。


「それってもはや、推理とか関係なしに、ただ単に自分の行動を元にしただけの事実の裏付けじゃないの!?」

「甘いね、むぐ。普通なら『ああそう』と納得するところを、疑問を感じて突き崩したんだから、それは立派な推理だよ」

「うーん」


 いまいち納得できない。


「第一、むぐにだって、あたしがむぐよりもほんの少し前に着いたことを推理する材料は与えられてたはずだよ?」

「へ!?」


 今日、ここに来てからこれまでの羽燐との会話を改めて思い返す。

 そんなものあったっけ? 全然、わからないんですけど。


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