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Chapter.2

羽燐(うりん)、いる?」


 ドアを開けると、社長室にでも置いてありそうな幅のある書斎机の向こうで、ゆったりとイスに躰を預け小説を読んでいた端整な顔立ちの女の子が視線をこちらに向ける。

 クーラーの効きが弱いせいか、色白の首筋にはうっすらと汗の雫が滲み、空いている方の手を使ってしきりにハンカチで扇いでいた。

 男子が着る開襟シャツに女子のスカート、瞳は一点の曇りもないスカイブルー。れもん色の綺麗な髪は、印象的な瞳と同じ色のりぼんでポニーテールに束ねられている。


「あ、むぐ。久し振り。二学期早々、あたしの顔が見たくなっちゃった?」

「そういうわけじゃないけどね。夏休みの終わりにも逢ってるし」


 “むぐ”というのは、彼女がぼくに付けた仇名だ。ぼくの名前――紅月(りつ)の「葎」という字が“むぐら”と読めることからの連想らしい。


「何だ、残念」


 羽燐がふーん、といった具合にわざとらしく拗ねてみせる。

 乱刃(みだれば)羽燐。ぼくの親友にして御音(みおと)学園探偵部の一年生部長である。



 御音学園部室棟五階、最奥。探偵部室。

 わが御音学園には、他の学校では見られないような大小様々な部活動が存在する。ぼくの入っている未確認生物研究会や、羽燐の立ち上げた探偵部もそのひとつだ。

 そして、それら文化部の多くが居を構えているのが、この部室棟である。本校舎よりも一階高い五階建ての部室棟は、「生徒の自主性を重んじる」御音学園の象徴であり、多くの学生たちの憩いの場となっている。

 部室の鍵はそれぞれの部の部長が管理し、祝日や長期休暇中でも、管理人室にさえ話を通しておけば生徒は自由に出入りできる。さすがに今日のような日は殆どの部室が無人で閑散としているけれど、成績トップクラスで学校の宿題風情に頭を悩ますことのない羽燐であれば、今日も今日とていつものように、確実にここにいるだろうと踏んでいた。


「それはともかく。とりあえず座ってよ」

「お言葉に甘えて」


 ガラステーブルを挟んで向かい合うように配置されている黒革のソファに腰を下ろす。

テーブルの上には透明なプラスチック面にデジタル表示で10:42と浮かべた、これまた洒落たデザインの置き時計。

 相も変わらず、およそ高校の部室には似つかわしくない調度ばかりで、どこかの会社の応接室のようだ。

 羽燐が小説を置いて、ぼくの対面に座る。読んでいたのは月面に結婚式場を建てるという内容のSF小説だった。ぼくは好きだけど、いつもミステリしか読まない羽燐がSFとは珍しい。今度、感想を聞いてみよう。


「で、ご用件は」


 この他人行儀な言い方。先ほどの軽口を流したのが、余程お気に召さなかったらしい。

 まあ一応、聞いてはくれるみたいなので、その点は一安心か。


「それがさ、さっき部室に行ったら、うちの部の調査報告書が部室からなくなってたんだ」

UMA研(うまけん)の?」

「うん」

「それって確か、むぐが書いてるあの小説みたいなやつだよね」

「そうそう、それそれ」


 未確認生物研究会ではこれまでにも何件か、御音市内で起きる不可思議な事件の調査を行ってきた。そこで、ぼくが関わったものについてはなるべく詳しく記しておこうと思い、報告書を小説仕立てにして残しているのだ。

 後から読み返すときに、ただ文字が羅列されただけの報告書じゃあ退屈だしね。


「嘘」

「は?」

「むぐ、嘘ついてるでしょ」

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