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Chapter.1

 九月に入った。暦の上ではすっかり秋になっているものの、実際にはまだまだ暑い日が続いている。さすがに八月の溶けるような熱波ではないけれど、それにしたってうだるような暑さには変わりない。

 だいたい。八月に立秋といったって、旧暦の八月を指しているのだからひと月ほどズレているのだ。それを無理に現在の暦に当て嵌めるからこういうことになる。つまり、まだしばらくは夏というわけだ。

 本日、九月一日。二学期初日。始業式の日にやることといったら、校長先生の話を聞くことと通知表の提出、簡単なホームルーム程度。幸い、わがクラスには二学期デビューをして人が変わったという輩はいなかったので、ホームルームにそう時間を割かれることもなく、後はチャイムが鳴るのを待つのみだった。

 今日は午前中にすぱっと終わって、明日からまた授業が始まる。

――そう、本格的な授業は明日からなのだ。



「じゃあな!」


 教室の時計が十時半を指し、鐘の音が鳴ると同時に、前の座席の飯島が颯爽と教室を出て行った。

 夏休みはどうだった、と話している者――主に女子――もいるにはいるが、全体として人が捌けるのは割と早い。みんな宿題が残っているのだ。

 夏休みの最終日に焦って宿題をやる人間なんて、イマドキごくごく僅かだろう。殆どの宿題の提出日は、それぞれの教科の最初の授業だ。八月は最後の最後まで夏休みを満喫し、九月に入ってからまとめて宿題を消化する。これぞ、正しい夏の学生姿である。


「さて、と」


 ぼくはかばんを持って立ち上がる。


「ちゃっす、紅月(くづき)君。もうお帰り?」


 声を掛けてきたのはクラスメイトの雁葉笹(かりはささ)だった。

 茶色の入ったストレートヘアをセンターで分け、腰にはセーターを巻いている彼女は、わがクラスのクラス委員サマである。


「まあね。雁葉こそ早く帰らなくて良いの?」

「ほほーう。まるでうちが宿題をやってないのが当然のような言い方だね。生まれ変わった笹さんを甘く見て貰っちゃあ困るなあ」


 誇らしげに腰に手を当てて不敵な微笑みを浮かべる。

 これはまさか、本当に本当なのだろうか。


「クラス委員の癖して平気で授業をばっくれてたあの雁葉が!?」

「驚き方が白々しいっ」


 一学期と何ら変わらぬやりとりが懐かしかった。


「そんなこと言うけど、紅月君だって人のコト言えないじゃんよ。散々授業をサボって、その都度、那木(なぎ)さんに怒られてたのはどこの誰だったっけ?」


 それを言われると耳が痛い。

 というか、だいぶぼくの方に分が悪い。ぼくも結構な問題児なのだ。


「お、そろそろぼくは行かなくちゃ。じゃ、雁葉。また明日!」


 黒板横に掛けられている時計を大仰に確認し、飯島もびっくりの早業でその場から立ち去る。


「あ、逃げ――」


 背後から聞こえる雁葉の声はさらりと無視し、教室を出る。

 ぼくには、これから重大な用事があるのだ。

 目的地は、いま現在いる南校舎から少し離れたところにある部室棟。

 そのためにはまず、昇降口に向かう必要がある。われらが一年G組のある四階から一階へと降りるには本来、エレベーターを使うのが最短ルートだ。しかしながら、下校時刻と重なったこの時間帯は利用者も多い。待ち時間を考えると、大人しく階段を使った方が早そうだ。

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