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学園迷宮で会いましょう  作者: 夜行
第2章
30/109

番外、見ている人たち

 



 そのパーティが転送されてきたのを目撃した、迷宮受付前広間にいた生徒達はざわめいた。

 よくも悪くも、同学年から上級生までそれと知られたイロモノパーティが、至極イロモノらしい格好で広間のど真ん中に現れたのだから当然だった。

 帰還用の陣ではなく、広間に直接現れたということは、緊急事態が起きて脱出クリスタルを使うはめになったということだが、かつてこんな格好で転送されてきたパーティがいただろうか。


 一年生にも関わらず上級生よりもはるかに大きく、そしてこれまた異様に大きな盾を背中に背負った狼族(ルプス)の少年が、黒衣の少女と白衣の少女を一人ずつ、右と左に抱えて突然広間に現れたのだ。

 黒い方はここ最近で上級生にも名前が知れ渡った、一年生の性転換撲殺魔女オーリアス。白い方は元々一部から熱烈に支持されていた、同じく一年生の惨殺僧侶マリーウェル。盾を背負った狼族は落ちこぼれと有名だったが、最近ぼちぼち評価を上げている圧殺盾士、これまた一年生のグレゴリー。

 三人合わせて『残酷物語』とこっそり上級生たちに呼ばれている、一年生の注目パーティの内の一組だった。

 その撲殺魔女と惨殺僧侶が、一番頼りにならなさそうなグレゴリーに半死半生といった有様で抱えられて緊急脱出してくるとは、一体どんな事態が彼女たちの身に起こったというのか。

 その場にいた一年生達がひそひそとパーティの様子を窺う中、一部の上級生たちは興味津々で彼らの様子を観察していた。


 毎年、各学年に必ず一組は存在するイロモノパーティ。だが、イロモノパーティは周囲からイロモノというだけでなく注目される。なぜなら、毎年巣立っていく卒業生の中で、冒険者として名を上げるパーティやソロは、不思議とイロモノ出身者が多い。奇抜、奇矯な戦い方を3年貫き続けるということは、やはり飛び抜けた何かがなければ不可能なのだろう。その上なぜか、イロモノパーティには顔がいい生徒が多かった。

 言うなれば、ある意味選ばれた存在。王道を着実に進んでいく優等生のパーティとはまた違う、裏の王道を進む存在。


 現2年生には、女子の魔法使い3人組『滅殺魔法少女』、それに弓術士(アーチャー)投具術士(スリンガー)の二人組『遠距離革命』が、3年生には孤高のソロ格闘家(ファイター)『裸一貫』がいるし、盗賊(シーフ)罠士(トラッパー)地図職人マッパーの紙防御三人衆『突撃紙部隊』もいる。

 いずれ劣らぬツワモノという奴で、なんでアレで迷宮に潜り、あまつさえ最前線で探索を進めることが出来るのか、と首を捻られているイロモノパーティたちだ。


 一般の生徒達は順風満帆に進んでいく王道優等生達を表向きは賞賛する。かくあるべきという姿は憧れ、尊敬、妬み、嫉み諸々の対象である。だがその影では、度肝を抜いてくれるイロモノパーティを愛でている。

 イロモノたちも、自分達には到底追いつけない高みにいる。しかし、それは届かなくてもいいやと思える高みだ。イロモノゆえに、とても自分には真似できないとあっさり納得することができるし、そもそも真似したくない。だから、王道たちを歯牙にもかけず我が道を驀進するイロモノたちに素直に驚嘆し感動を覚え、まことに愉快痛快、と気持ちよく応援することができるのである。

 しかし、それは彼らに悟られてはならない。あくまで、ひっそりこっそり応援するのが伝統であり、彼らの迷惑になるような抜け駆けをすると、真面目な有志で構成されている『お仕置き担当班』からお仕置きされることになっている。ちなみにイロモノパーティの友人達はそれに含まれない。あくまで、彼らと接点のない一般生徒たちの中でのお約束である。


 そんな一般生徒たちで溢れた広間に、今年のイロモノパーティとして認識されている残酷物語が尋常ではない様子で現れたのだから注目されるのも当然だった。

 ざわつきはすぐに普通を装った空気に取り繕われ、しかしこっそりと観察が行われている中、こそこそと人影に隠れて残酷物語を窺っている、とある上級生パーティが小声で熱心に話しこんでいた。


「おい、ズルくね? なんであいつ両脇に黒白抱えちゃってんの? そんなこと許されるのか? もふもふ好きの女子連中が許しても、オレは断固許さん。巨乳と貧乳、両手に花とか羨ましすぎるっ……! くそう、感触を教えてくれ!」

「黒は元男じゃねーか。おまえそれでもいいわけ?」

「だって今女なら、女だもん。あの揺れるお胸様が見えないのか? いいか、男には! あんな魅惑の小山はない! 断じて! よって黒は女と判定する!」

「もんとか言うな、アホ。貧乳なめてんのか? あ? 白のあの、ローブを着ていることを差し引いても凹凸のはっきりしないつるっとしてぺたっとしているであろう禁断の聖域に思いを馳せることの崇高さがなんでわかんねぇかな」

「オレは今年の一年ではカロニアちゃん押しだぜ」

「おい……出たぞ勇者が」

「おまえ本気か? アレはやばい。アレは絶対手加減という言葉を知らないぞ」

「あの豹耳! 揺れる尻尾! ああ、カロニアちゃんに殴られたい踏まれたい座られたい」

「豹族相手はシャレにならないからやめとけよ」

「まあ、見てる分にはいいけど、死なないようにな……」


 口では会話目では観察をこなしていた彼らの前で、ぐったりしている残酷物語に声をかけるパーティが現れた。

 今年の一年生では頭一つ出ていると、これまた注目の『王道くん』だ。こちらは一応王道なのだが、剣士のフォルティスを魔法使いと僧侶の美少女二人が派手な取り合いをしていて、迷宮内でも常に喧嘩に終始しているにも関わらず、戦闘の実力は図抜けているという、若干イロモノ寄りの王道系パーティだ。

 それがなにやら多大な同情のこもった声で話しかけているのが、ここまで聞えてくる。


「……ああ、血吸い人形(チュパドール)! あれは確かに、初見はびびるよな」

「オレらも逃げたよなぁ」

「逃げるよアレは。怖すぎるって」

「それにしても可愛いな、おい! 緊急脱出するほど怖かったのか」

「教えてやりたい……あれ、慣れるといい経験値稼ぎ用のカモになるって」


 どうやら16階層に初めて到達した二組が、16階の初見殺しと言われている血吸い人形(チュパドール)に遭遇して、逃げ帰ってきたところらしい。

 普通なら、迷宮にどんな魔物が出るかなんてとっくに知っていて当然なのだが、この迷宮学園は違う。 先輩から後輩へ渡されるであろう迷宮攻略知識は、一切伝達することが禁じられているからだ。

 卒業後、冒険者となることを踏まえ、他人の知識を当てにして行動せず、自分で判断をする、という行動指針を身につけさせるためで、安易にコツや効率のいい方法ばかりに頼るなということらしい。かといって情報収集が大事なことも間違いないので、同学年内での情報収集は許されている。いかに周囲と協調し、有利な情報を手に入れるかも冒険者にとっては必要な技術である。


 とはいえ、探索進度の速い組は大変だ。何でも自分で一から調べなければいけないので相当苦労する。しかし、その分臨機応変に戦うことが身につくし、知識も自分が調べ、戦って得たものなので上滑りせず身につく。

 新しい階層に到達する度、誰よりも早く苦労する最先端の探索組に敬意を表して、それぞれの学年の一般生徒たちはさりげなく、回復系のアイテムを貢ぐのが慣例だった。


 そうこうしている間に二組の間で話が纏まったらしい。6人が固まって広間から退出していく。

 さりげなさを装ってその後姿を視線で追った一般生徒たちは、彼らが完全に出て行ってから漸く、いつもどおり迷宮に潜るために行動し始めた。学年関係なく、男子も女子もにこやかに次々と迷宮へと転移していく。

 見ようによっては希少動物愛好会のような光景だが、一般生徒とイロモノと王道が存在するかぎり、伝統はこのまま続いていくのだろう。


「んじゃ、オレらも行くかぁ」

「了解」

「だけど、チュパドールで逃げてたら、これからどうすんだろな」

「ああ……44階に行ったら、アレが出る」

「アレこそまさに恐怖だろ」

「今度こそ泣いちゃうかもな……オレ、本気で泣いて逃げ帰ったし」

「知ってる。つーか、オレら全員泣いてただろ」

「号泣だった。そして悪夢に魘された」


 今年の一年生たちもいずれ悪夢に魘されるんだろうな、と頷きあったとあるパーティは、自分達も迷宮に潜るべく、転移陣を目指して歩いていった。



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