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学園迷宮で会いましょう  作者: 夜行
第2章
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22、薬草学とクロロス先生




「では、各自用意はいいな。籠一杯になったら終了だ。持ち帰り、ポーションを作成する。結界は張られているが、必ず誰かは目に入る位置にいるように常に確認しろ。そして、もう一度言うがこの紫の葉には決して触らぬように。では始め」


 わっと蜘蛛の子を散らすようにあちこち散らばり、地面に這い蹲り始めた生徒達の中に、もれなくオーリアスたちも含まれている。それぞれ蔓で編んだ小さな籠を持ち、ぷちぷちと薬草を摘んでいく。三つ葉の内、真ん中の葉だけを摘むのがいいポーションを作るための秘訣らしい。


「遠足みたいですねぇ」

「天気もいいしな」

「ワウ」


 新しいクラス『黒曜』として出発したオーリアスたちは、校外実習の薬草採取に来ていた。


 発表から一夜明け、元琥珀組、現黒曜組にやってきた生徒たちは、それぞれ新しい環境に少しだけわくわくしながら、担任であるクロロスを待っていた。

 このクラスにはあまり人見知りをしないメンバーが多いらしく、適当に席についた後、周囲の会話は自然と新しい担任のことになり、どんな先生なんだと盛り上がる。

 オーリアスは『お静かに(クワプリ)』使いの呪術師、ということしか知らなかったので、グレゴリーに聞いてみたものの、グレゴリーにもよくわからないという。他のクラスメイトたちも大半がクロロスについて知りたがっていたようで、グレゴリー以外の琥珀組、双子パーティのレラ、リラ、四人パーティのドニ、ブラン、アレク、ゴドフリーに質問していたが、やはり、よくわからないと首を傾げていた。とにかく変わった先生らしい。


「でも、怒らせないほうがいいと思う」


 ぽつりと呟いたドニの言葉に元琥珀組が一斉に頷いたので、それは間違いないようだ。

 少々クロロスによからぬ印象を抱き始めていた時、クロロスがやってきた。


「担任のクロロスだ。ジョブは呪術師、担当する授業は薬草学」


 色あせた黒いローブですっぽりと身体を覆い、首から下がさっぱりわからないクロロスは、のそのそと教壇に立つと、陰気な雰囲気を存分に放ちながら生徒達ひとりひとりと、じっくり視線を合わせていく。

 ルーヴとはまた違うぼさぼさ感溢れる髪を一つにくくっており、瞳の色は黒っぽい。

 ひとしきり生徒を眺めた後、では廊下側一番前から自己紹介、と陰鬱な声で呟かれ、自己紹介が始まった。自己紹介と言っても、立ち上がって名前とジョブを名乗るだけなのですぐに全員が名乗り終わる。


「……では、残りの時間は次の授業の準備をする」


 もそもそと懐を探ったクロロスが、見慣れた小瓶を二つ、教壇の上に置いた。


「ヒューイ、これが何か答えよ」

「はっ、はい、体力回復薬、です」

「よろしい。ではターシャ、こちらは」

「はい、魔力回復薬です」


 きちんと目を合わせて指名された二人は、驚いた顔でクロロスを見上げた。他の生徒達も同じだ。この先生は、まさか今の短時間の自己紹介で全員の顔と名前を覚えたのだろうか。

 クロロスは、体格上、一番後ろの席に座っているグレゴリーの所まで来ると、小瓶をその前に置いた。


「グレゴリー、この二つの水薬は同じように見えて違う点がある。どこか答えよ」


 机に置かれた小瓶は四つ。体力と魔力の回復薬がそれぞれ二つだが、一見すると同じように見える。グレゴリーは真剣に小瓶を見比べ、おずおずと答えた。


「……色、違ウ?」

「そのとおりだ。ではオーリアス、この色の違いは何を示しているか答えよ」


 その隣に座っていたオーリアスは、思わず答えに詰まった。ポーションの色の違いについてなんて習った覚えがない。そもそも、薬草学なんて最初の頃に、一般に使われている薬の原料として覚えさせられたくらいしか授業がなかったはずだ。

 しげしげと見比べると、体力回復薬はお茶のような赤みを帯びた茶、魔力回復薬は薄紫をしているが、色が少しだけ濃いもの、それよりも薄く見えるものとがある。


「……回復量、ですか」

「正解だ。こちらの色の濃いものの回復量は色の薄いものに比べて約1・2倍から1・3倍ほど多い」


 クロロスの言葉に、生徒達がざわめく。そんなこと聞いたことがない。


「諸君が普段使っているものは、迷宮内でのドロップか、校内の売店で売られているもの、そうだな?」


 皆が頷く中、幻の『美味しいポーション』を手に入れる伝手を得たオーリアスとマリエル、それに実際飲まされたグレゴリーが一瞬変な顔になったが、気軽に使えるのは、やはり今までのぶっかけ式ポーションで間違いないので頷く。


「ララ、なぜこのような違いが生まれるのか、考えられる理由を述べてみよ」


 難しい質問をされたエイレンパーティのララは、少し考え込んでから口を開いた。


「……作り方が、違うのでは」

「では聞こう。ポーションはどのように作られるのかね」

「えっ……」


 クラス内がざわめいた。ポーションは一番ありふれた水薬だ。誰でも買えるし、誰でも持っている。

 しかし、それがどのようにして作られるかなんて知らない。ポーションはポーション、誰もがそう思っていたのだから。


 振り返ったマリエルとオーリアスがちらりと視線を合わせる。

 考えてみれば確かにおかしな話だった。美味しいポーション屋を教えてもらったからこそわかる。あの店主のお姉さんは、自分で作っているといっていた。ポーションは自作できるのだ。それがスキルか、純然たる手作業かはわからないが。

 しかし、迷宮の中では魔物のドロップアイテムとして、完成された状態で出てくる。それが回復力の違いに繋がるのではないか?


「マリーウェル、言いたいことがありそうだな。考えを述べよ」


 あちゃあ、という顔でマリエルが首を竦めた。周囲の生徒も運が悪いなという視線を送る。


「ええと、どういった工程を経て、作成されるのかはわかりませんが、恐らくスキルによって作成したものが色の濃いもの。迷宮内などで最初から完成品としてドロップしたものが色の薄いものではないでしょうか」

「そのような考えに至ったのはどうしてか述べたまえ」


 美味しいポーション屋を知っているので、とは言えない。行ってわかったが、あのお店は名刺を渡された人だけが行くことのできる、一見さんお断りの店だったのだ。


「……ジョブによっては、特殊な効果を付与するスキルや、魔道具を作成するスキルがあると本で見かけたことがあります。回復と言う効果を付与することができるか、ポーションそのものを作成できるスキルがあるのではないかと推測しました」


 クロロスが面白がるような光を一瞬浮かべたが、それはすぐに消え、陰気に頷いた。


「よろしい。ほぼ正解だ」


 ほっと教室内の空気が緩み、正解したマリエルに感心のため息が漏れる。マリエル自身は困ったような微笑を浮かべていた。ちょっとズルをしたような気まずさを感じているのだろう。

 教壇まで戻ったクロロスは、改めて生徒達を見回した。


「ポーションはスキルで作成できる。これは正解だ。スキルによって作成されたものは効果が高く、販売されているものも値段が高い」


 売られてるんだ、という呟きがそこここで広がった。オーリアスたちだって、マルグリットに会わなければ知らなかっただろう。


「学園内で販売しているものは迷宮内でのドロップ品だ。来年になれば、ポーション集めという小遣い稼ぎも解禁されるので、せいぜい励みたまえ」

「……あの、もしかして」


 エイレンが手を上げてクロロスを見上げると、今度こそふっと唇の端を吊り上げたクロロスが頷く。


「諸君が売店で購入しているポーションは、上級生達が集めてきたドロップ品だ。学園がそれを買い取り、販売している」


 裏情報に騒がしくなった教室を面倒くさそうに見たクロロスが、静かに、と呟くと水を打ったように静まりかえった。『お静かに』されてはたまらない。


「そして、効果は並だが、スキルを使わずにポーションを作成することもできる。この後はポーション作りだ。校外に必要な薬草を摘みにいくので、鐘が鳴ったら装備を整え、迷宮前受付広間に集まるように。必要な道具はこちらで用意する」


 校外実習と聞いて、生徒達はうっかり歓声を上げたのだが、ちょうどその時鐘が鳴ったので、クロロスの『お静かに(クワプリ)』は発動されずにすんだのだった。



美味しいポーション屋のお姉さんについて


→異世界転生の元男 トリップ時20。やってたゲームのキャラ設定どおりの能力を持って転生、ただし容姿はあくまでも『女性として生まれていたら』という自分自身。

この世界に来て7年目、それなりに女の身体に順応中。

オーリアスと同じ祝福を受けているので、オーリアスが来た時同類だとわかる(同じ祝福を受けているもの同士が出会うと、電流のようなものが流れる)


→オーリアスはそれを知らないので、単にびりっとしただけ認識

お姉さん→初めての同志に抑えきれない親近感と同情その他ありとあらゆる感情がこみ上げる→「い、いらっしゃい……! 試飲?! どうぞどうぞ! むしろ飲んで! ……うんうん、美味しい? ありがとね、じゃあご新規さんだから、たくさんオマケしてあげるよ! いいのいいの! もってけドロボー! ちょっと違うか! あはは! ……へーオーリアスにマリエルっていうんだ。あたし? アキフミっていうんだけど、皆フミさんて呼ぶからそう呼んで。オーリアスくん……大変だと思うけど、強く生きるんだぞ……大丈夫、泣いてないよ……泣いてなんかないよ……」

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