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学園迷宮で会いましょう  作者: 夜行
第2章
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21、クラス替えと予感




 午前の探索を終え、昼食をとった後。

 集会の為に一年生全員が校舎内にある小講堂に集まった光景はなかなかの見物だった。皆様々な装備品を身につけ、クラスごとに整列して並んでいる。


 紅玉、瑠璃、翡翠、琥珀の4クラスの担任、それぞれミネリ、ルーヴ、ガランド、クロロスが壇上に上がると、ざわめきが波のように引いていった。

 音量を調整する小さな棒型の魔道具を持ち、実習の時と同じように、まずガランドが口を開く。


「全員、遅れなく集まったようだな。わずかな気の緩みが命に直結することもある。一人が遅れることでパーティ全員が危機にさらされる事もある。努々、気配りを忘れないように」


 重々しい声が講堂の隅々まで満遍なく行き渡り、何人かの生徒が肩を竦めた。


「今日の集会は、おまえたちに実習後の大きな変更を伝えるためのものだ」


 ざわめきかけた空気をミネリが手を叩く音が抑えた。髪を短く切り、腰に双剣を携えたミネリは明るい声で、静かに、と注意を促す。


「それでは、これからクラス替えを発表する」


 だが、一旦静かになった空気はガランドの発言によって、すぐに大きな困惑とざわめきにとって変わった。一年生も半ばを過ぎたこの時期にクラス替えとは一体どういうことなのか。


「……静まれ」


 そこだけ陰気な雰囲気を放っている琥珀組担任のクロロスがぽつりと呟くと、その小さな声に被せるようにルーヴが声を張り上げた。その後にミネリも続く。


「静かにしないと、呪術師(スペルキャスター)のクロロス先生が『お静かに(クワプリ)』を発動するぞー!」

「一日中魔法が使えなくなるかもしれませんが、それでもいいなら存分に話してかまいませんよ」


 ぴたり。


 途端に誰一人として喋らなくなったので、クロロス以外の三人の教師は吹き出しそうになるのを耐えた。

 これはもう、実際に経験しているので、脅しではないとわかるのだろう。

 入学して初めての迷宮解禁日の集会にも同じように注意を促し、あの時はどうせ口だけだと陰気なクロロスの雰囲気を見て侮った一部の生徒たちのおかげで、本当に魔法職の生徒たちが『お静かに』なり、半狂乱になったのは記憶に新しい。そのせいで、結局解禁日が一日遅れることになったのだ。


「今までのクラスは実習前までの仮のクラスに過ぎない。これから発表になる新たなクラスは、実習の成績、普段の素行、全てを加味して再考したものになる。そして個人ではなく、パーティごとにクラスを編んでいる」


 生徒達は声を上げそうになるのを必死に堪えているようだった。クラスの垣根を越えてパーティを組んでいるものにとっては朗報だろうし、そうでない者にとっても安心だろう。頑なにソロで潜っていたもの、あぶれている者についても、ジョブと性格を考慮してふりわけてある。

 実習後のクラス替えに備えて、今までのクラスの連携を強めるような行事や交流をしてこなかったのだ。おかげで生徒達からすれば、ひたすら厳しい体力作りに励まされた記憶しかないだろうが、これからは違う。


「今までと同じパーティを組んでもいいし、変えてもいい。長くつきあえるパーティに出会えたならそれにこしたことはないが、まだ一年、模索の期間として考えろ」


 クロロスが音もなく取り出した紙を一枚ずつ、ガランド、ルーヴ、ミネリに渡す。自分も紙を持ち、生徒達を見つめた。


「ではパーティリーダーの名前を呼ぶ。呼ばれたリーダーとそのパーティは、呼んだ先生の前に集まるように」


 本当はさぞおしゃべりしたいのだろうが、クロロスのクワプリ怖さに、生徒達は興奮した様子ながらがんばって口を噤んでいる。そのどこか浮かれた空気の中、一人ずつ名前が読み上げられていく。

 オーリアスも担任が誰になるのかと興味深く耳を澄ましていた。ルーヴは悪くない先生だったので、引き続きルーヴでも文句はない。あのオーガを倒したのもルーヴだったらしい。何気ない顔でジョブは剣豪(ソードマスター)だと教えられて唖然とした。今は魔女になってしまっているが、やはり剣士には憧れがある。


「ダニール・レンブラント」


 聞き覚えのある名前が呼ばれたので思わず視線を向けると、顔見知りのダニールだった。呼んだのはルーヴだ。続けてフォルティスも呼ばれていて、こちらはミネリの前に並んでいる。

 そういえば、パーティーリーダーを呼ぶと言っていたが、オーリアスたちは特に決めていない。つまり、名前を呼ばれた人物がリーダーだと認識されているということでいいのだろうか。

 だったらマリエルがいいな、と思う。グレゴリーはいい奴だが、まだちょっと頼りないし、率先して何か決めようとする性格でもない。オーリアスも出来なくはないだろうが、マリエルならてきぱき何でも決めてくれそうだし、なんだかんだやさしい。度胸もある。少しありすぎるかもしれないが。


「オーリアス・ロンド」


 そう思っていたオーリアスを、クロロスが呼んだ。自分がパーティリーダーだと認識されているのか、と思うと同時に、二人はなんて思うだろうと少し気になった。

 歯の抜けた櫛のようになった列をすり抜けて、前に進み、クロロスの前に並ぶ集団の後ろにつく。

 男子二人女子一人の三人組と、女子の三人組、それに変わった装備のソロらしい少年。その後ろにオーリアスがつき、名前は恙無く呼ばれ続けている。


 呪術師だというクロロスのことを、オーリアスは殆ど知らない。元琥珀組の担任ということは、グレゴリーに聞けば人となりがわかるかもしれない。

 そう思ったところで、くいっとマントを引っ張られて振り返ると、目をきらきらさせたマリエルとグレゴリーが立っていた。オーリアスも笑って親指を立て、前を向く。

 その後に男子の四人組み、女子の二人組み、顔見知りのエイレンたち四人組、これもソロらしい豹族(パンテラ)の少女、男女二人ずつの4人組。そして、オルデンたち四人組。

 それがクロロス組の全員らしい。他のクラスも順次呼び終わり、いまにも破裂しそうなむずむずした気配を纏った静けさが講堂に満ちる。


「では、これで解散とする。クラスの顔合わせは明日行うので、この後は迷宮に潜ってもよし、パーティの親睦を深めてもよし。ただし、明日からはこれまでと違い、校内講義も増える。全員、出口のところでクラスごとに時間割をもらうように」


 ガランドが、ふっと笑った。


「よし、喋っていいぞ」


 一斉に歓声があがり、講堂は一気に騒音で溢れた。


「きゃあ、オーリ!」


 飛びついてきたマリエルが、ぎゅっと肩口に顔を埋めた。身長差のせいでそうなるとはいえ、そして今現在女の身体とはいえ、腹に回ったマリエルの腕に、なにやら複雑な気持ちになる。前だったら確実にどきどきしたはずなのだが、最近、慣れたのか動じなくなってきている自分が切ない。


「一緒のクラスですよ! グレゴリーくんも!」

「ワウ!」


 嬉しそうに尻尾をふさりふさりと揺らしているグレゴリーに、豹族の少女は鼻を鳴らしてそっぽを向くと、つかつかと講堂から出て行った。変わった装備をしていた少年もいつの間にか消えている。


「マリエル!」


 エイレンたちが嬉しそうに寄ってきて、はしゃいだ声をあげた。


「また一緒のクラスだね!」

「今度はオーリちゃんたちも」

「……嬉しい」


 コーネリアが、そっとオーリアスに会釈して微笑んだ。


「一緒のクラスになれて、嬉しいです」

「ああ、これからよろしくな」

「はい」


 他のパーティもそれなりに顔見知りだったらしく、その場に留まっての和やかな会話が続く中、派手な舌打ちをしたのがオルデンだ。


「くそっ」


 吐き捨てるようにそれだけ言うと、射殺しそうな目でオーリアスを睨み、憤然と三人を引き連れて講堂を足音高く出て行く。

 コルキスだけが、居心地悪そうに少しだけ頭を下げて、出て行った。周囲の生徒が何事かとその集団を見送る。


「オーリ」

「ん?」

「一緒のクラスになれて、とっても嬉しいです。でも、なんだか色々起こりそうなクラスですね」

「……ああ」


 視線を感じて振り向くと、ルーヴと何か話していたクロロスが無表情にこちらを見ていた。ルーヴは苦笑を浮かべているし、二人の教師が何を話していたのかはさっぱりわからない。


 ただ、マリエルの言ったとおり、これからきっと色々あるだろうという予感を感じながら、オーリアスの本当の学園生活は始まった。


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